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第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
補論 防災・減災とICT

(3)災害における情報収集・伝達の課題と先進事例

前項までは東日本大震災以降10年間の災害を振り返り、その中で政府、自治体、民間事業者における防災・減災に向けた取組を紹介してきたが、近年の災害が激甚化していることや車中泊の増加といった人々の避難行動が変わってきたこと、災害時により良い支援を行うためには課題が残っている。

本項目では、近年の災害状況などを踏まえて研究や導入に向けて取組が進められている事例を整理した。

ア 洪水・浸水予測

近年、気候変動に伴う自然災害の激甚化が懸念されている中、平成30年7月豪雨や令和元年東日本台風等のような台風・豪雨の激甚化により中小河川の水位が急激に上昇し、人命が失われる等の被害が発生している。住民の安全な避難のために事前の災害予測や危機管理型の水位計を用いたリアルタイム河川情報取得などが行われており、避難指示の発令などに活用されている。

なお、海外ではAIを活用した災害被害予測システムの開発に取り組んでいる事例がある。One Concern, Inc.(本社:米国カリフォルニア州)では、既存の災害科学の物理モデルとAIや機械学習技術を組み合わせて災害被害を予測するソリューションの提供を行っている(図表3-2-2-16)。

図表3-2-2-16 AIを活用した災害被害予測システム
(出典)One Concern, Inc.

本システムでは、災害発生前には気象予測や河川水位情報などを取り込むことで災害発生の最大3日前から被害状況を予測することで迅速な初動対応を支援し、被害を抑えることに貢献する。加えて、発災後も動的に被害状況を把握することで、効果的な復興対策の検討への活用が期待される。

イ 意思決定支援

東日本大震災では内閣府、国土交通省、消防庁等が府省庁縦割りで独立して災害対応67を行っており、多数の組織から情報が発信されていた。しかし、情報の提供形式が異なるなどの理由から情報を一元管理し災害現場へ情報を共有することができなかったため、十分な支援活動が行えない状況が発生した68

この教訓を踏まえて、2014年から2018年の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期にて災害時に自治体や民間から発信される情報を収集・自動変換することで統合された情報を現場で活用できるように「SIP4D(Shared Information Platform for Disaster Management)」の開発が行われた。SIP4Dは熊本地震や平成30年7月豪雨等で、政府災害対策本部、県、市町村、災害対応機関等の様々な機関から発信された情報を統合し提供することで、現場対応や復旧計画策定等に貢献した。

SIP第2期ではSIP4Dのさらなる発展に向けて、情報共有にとどまらず、次にどのような対応を行うべきかという情報を提供することで意思決定支援をすることを目的として「避難・緊急活動支援統合システム」(図表3-2-2-17)の開発が進められている。自然災害時には自然状況だけではなく、人や物資などの社会状況も把握し活用する必要がある。加えて、適切な支援を行うためにある時点の情報だけではなく状況変化も把握しなくてはならず、このシステムによって、災害動態を自動解析し、事態の勃発・異状・急変を検知し、推移を予測し、可視化することで、意思決定を支援することを目指している。

図表3-2-2-17 避難・緊急活動支援統合システムの全体像
(出典)国立研究開発法人防災科学技術研究所 国家レジリエンス研究推進センター「異種情報統合→災害動態解析→迅速・的確な「災害対応」の支援へ」69
ウ 住民の行動把握

東日本大震災では、自治体も被災したことによって機能低下したため、被災地に対してニーズをもとに支援を行うプル型支援だけでは十分に支援が行えないため、プッシュ型支援を行う必要性が認知され、熊本地震で初めてプッシュ型支援が実施された70

しかし、近年は避難先としてプライベート空間が確保できることや移動の容易さから、避難所に滞在せず車中泊などを行う事例が多くみられる。例えば、熊本地震の際は、指定避難所以外で車中泊した割合が最も多く、指定避難所での車中泊含め全体で約4割の方が車中泊を行っていた71

このように、住民の避難先が指定避難所以外にも多様化してきたことにより、自治体や政府が住民の避難行動を十分に追うことができず、ニーズ、物資の配送状況、健康状態等といった住民の状況把握が困難な状況が発生した。

こうした住民の行動を把握するために自治体や事業者において行われている取組を紹介する。

まず、福岡市では熊本地震で課題となった指定外避難所の把握などに対応できるよう、防災アプリ「ツナガル+」を2018年4月から提供を行っている。

本アプリでは、スマートフォンに内蔵されたGPSによる位置情報を活用して指定外避難所を地図上に表示できるほか、アプリ上の避難所コミュニティにて被災状況や避難所内で提供されている支援情報や生活再建情報等を共有することができる。加えて、指定外避難所の被災者は指定外避難所コミュニティを作成し、避難所の場所や人数、被災状況を発信することで行政側にて状況を把握し、コミュニケーションを行うことが可能となっている(図表3-2-2-18)。

図表3-2-2-18 ツナガル+による情報共有と指定外避難所の状況把握イメージ
(出典)福岡県福岡市 防災・危機管理課「災害対応におけるスマートフォンアプリの利活用〜平成28年熊本地震における指定外避難所の課題を踏まえて〜」72

このように住民が発信した情報を活用することで、これまで可視化されなかった指定外避難所の被災者に対しても適切な支援活動が可能となることが期待される。

KDDIでは、GPSから取得したスマートフォンの位置情報と契約者の年齢、性別などの属性情報を紐付けた上で、地図上において人の流れや滞在状況を可視化することができる「KDDI Location Analyzer」の提供を行っている。こちらでは、住民が情報発信をしなくとも、自動取得した数日前の位置情報データを活用することで各避難所の避難者数の推移や車中泊や自宅などの指定外避難所に避難された方の状況や傾向を把握し、今後の対策の検討に活用されることが期待されている(図表3-2-2-19)。

図表3-2-2-19 GPSを活用した緊急時の動態把握
(出典)KDDI Location Analyzer 業界別活用シーン(官公庁・自治体)73

そのため、住民による状況把握が難しい中であっても、自治体側から情報を取得することで誰一人取り残さない支援活動につながることが期待される。



67 「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第1期課題評価 最終報告書 3.8レジリエントな防災・減災機能の強化」
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/siphokoku-5.pdfPDF

68 「SIP4Dのコンセプト」(https://www.sip4d.jp/outline/concept/別ウィンドウで開きます)※2021.3.30閲覧時点

69 「異種情報統合→災害動態解析→迅速・的確な「災害対応」の支援へ」(国立研究開発法人防災科学技術研究所国家レジリエンス研究推進センター)
https://www.bosai.go.jp/nr/nr1.html別ウィンドウで開きます)※2021.3.21閲覧時点

70 内閣府(2017)「平成29年版 防災白書」

71 「平成28年度 市政アンケート調査 結果報告」(熊本市,2016.8)
https://www.city.kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.aspx?c_id=5&id=14042&sub_id=1&flid=93610別ウィンドウで開きます

72 福岡県福岡市 防災・危機管理課「災害対応におけるスマートフォンアプリの利活用〜平成28年熊本地震における指定外避難所の課題を踏まえて〜」
https://www.isad.or.jp/pdf/information_provision/information_provision/h30/H30_dai3bu1.pdfPDF

73 KDDI Location Analyzer 業界別活用シーン(官公庁・自治体)
https://k-locationanalyzer.com/uses/municipality/別ウィンドウで開きます
※2021.3.29閲覧時点

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