総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和3年版 > 行政情報システムの標準化及びデータ連携
第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
第3節 公的分野におけるデジタル化の現状と課題

(3)行政情報システムの標準化及びデータ連携

上記のような一元的な住民向けサービスを実現する環境整備として、ユーザー中心のサービス開発手法の確立や情報システムの標準化・共通化、ならびにワンスオンリーを実現するベースとなる省庁・自治体間のデータ連携等の取組が進められている(図表1-3-3-5)。

図表1-3-3-5 行政情報システム及びデータ連携における各国・地域の取組概要
(出典)総務省(2021)「デジタル・ガバメントの推進等に関する調査研究」
ア ユーザー中心のサービス開発手法
(ア)行政横断型の「マインドラボ」によるデザイン思考の導入(デンマーク)

デンマークでは、公共部門開発へのデザイン思考の導入について早くから積極的であり、それを推進する機関として2002年(平成14年)に経済ビジネス省(the Danish Ministry of Economic and Business Affair)内にマインドラボを設立した。マインドラボは行政横断型のイノベーションユニットであり、民間も巻き込んでイノベーションを進めるとされた42。具体的な課題解決に関するワークショップを開催されており、企業へのインタビュー、行政手続きの観察、ジャーニーマップの作成などが取り入れられた43

開発手法として、義務ではないがアジャイル開発も取り入れられている。2019年にデジタル化庁よりアジャイル開発手法ガイドが策定されており、アジャイル開発の承認・評価方法や、予算の策定などについての管理項目が定められている44

(イ)GaaP(Government as a Platform)推進とアジャイル開発の原則化(英国)

英国では、行政サービスの使い勝手の悪さや、重複投資の指摘があったことから、ユーザー中心政府サービスの実現に向けて、GaaP(Government as a Platform)の推進に力を入れている45。GDSによって開発された共通プラットフォーム(GOV.UK Notify、GOV.UK Payなど)の利用は順次拡大しており、2018年(平成30年)時点で、200以上の政府サービスに活用されている。地方公共団体に対しては、地方デジタル宣言(Local Digital Declaration)が住宅・コミュニティ・地方自治省(MHCLG)とGDSから発表されており、市民のニーズに合ったサービス設計など、次世代の地方行政サービスを国と地方共同で行っていくこととされた46

また、英国では、ユーザテストを繰り返して改善することを「デジタルサービス標準」として定めており、アジャイル開発が原則化されている47。2012年から運用されている政府ポータルサイト「GOV.UK」も、開発プロセスにはアジャイル開発が採用されており、開発中のサービスをベータ版として逐次公開し、市民からの使い勝手などのフィードバックを受けて改善を図ることで、利用者目線のサービスを実現している。「GOV.UK」のソースコードはGitHubで公開されている。

イ 行政情報システムの標準化・共通化
(ア)政府共通の標準フレームワーク活用の義務化(韓国)

地方自治体向けにおける基幹システムは、政治構造として中央集権が強い背景もあり、国が中心となりシステムの開発が行われている。例えば、地方自治体の基幹システムにおける大規模システムは、行政自治部が構築し、地域情報開発院(KLID)によって維持・運用が行われ、地方自治体に一元的に提供されている48。これにより、国家における一元的な開発と運用が可能になっている。

また、行政情報共同利用センター(Public Information Sharing Center)が国、地方自治体や金融機関などの間で情報を連携しており、書類を必要とする機関と、情報を保有している機関の間でデータの閲覧、検索や流通が可能になっている。これにより、紙を用いた添付書類の大幅な削減が実現されている49

韓国における公共部門ITプロジェクトは、政府共通の標準フレームワークであるeGovFrameを用いて開発しなければならないことが特徴である。導入の背景としては、かつての電子政府システムについて、ベンダーロックインによる種々の弊害が生じていたことにある。その解決のため、2008年ごろからeGovFrameの開発・運用が始まった。eGovFrameにおいては、再利用可能なコードをAPIで提供しているほか、ソースコードが一般公開されており、誰でも使える環境が整備されている。eGovFrameは2800を超える韓国におけるITプロジェクトにおいて活用されており、モンゴル、ベトナム、メキシコ、タンザニアなど、11か国に標準フレームワークの輸出もされている。

(イ)クラウド・ファーストの推進(米国)

2011年に連邦クラウドコンピューティング戦略(Federal Cloud Computing Strategy)が策定され、行政機関へのクラウド導入が本格的に推進された。連邦政府のIT環境は統一化されておらず、システムの重複が存在するなど不効率な状況であることが、戦略策定の背景にあり、行政機関におけるITシステムをクラウドに移行していくこととされた50

行政におけるクラウド導入を支援するためのプラットフォームとして、CLOUD.GOVが2017年より運用されている。CLOUD.GOVはCloud Foundationを活用したオープンソースPaaSであることが特徴である51。これを用いることで、連邦政府の規則に即した形で、行政におけるクラウド導入が可能となっている。使用用途によって数種類のプランが用意されており、月額毎のサブスクリプション方式で提供されている52

ウ ベース・レジストリの整備
(ア)ベース・レジストリ・カタログ「DATAFORDELER」の公開(デンマーク)

デンマークでは、「欧州相互運用性フレームワーク(EIF:European Interoperability Framework)」のもとEU加盟国で進められている共通政策であるベース・レジストリについて、長い年月をかけて整備を進めてきた。2012年から、デンマーク政府は「基本データの正確性を保証し、部門間のデータの再利用を促進することで、公共部門の効率性、近代化、ガバナンスの向上、および民間部門の成長と生産性の向上に貢献する」ことを目的に、基本データ(Basic Data, Grunddata)戦略指針を開始した53

各行政機関から必要とされているデータを迅速、簡単、正確かつ安く提供するための手段として、データハブの機能を担うデータディストリビュータ(the Data Distributor)が存在し、データディストリビュータによって集約されたデータセットは、ベース・レジストリ・カタログ「DATAFORDELER」54において6種類の基本データ(住民情報、企業情報、地理情報、不動産、環境情報、住所)が公開されており、安全かつ容易に標準データにアクセス出来ることで、行政機関のみならず民間企業における成長とイノベーションが加速されることも期待されている。

(イ)ベース・レジストリの品質管理・管理効率向上に向けた体制整備(韓国)

韓国では、ベース・レジストリについて、行政などの効率化のための、行政データ構造における最上位のデータとして定義しており、商品、資格取得や有害危険物など14種のデータセットの管理を行っている55

データ管理の組織形態としては、行政安全部が統括機関としてベース・レジストリの管理を行っており、例えば、利用機関からの必要なデータのニーズ収集や、データの管理機関に対する管理標準・ガイドラインを提示することで、ベース・レジストリの品質管理・管理効率向上に向けた体制が構築されている。



42 「The Danish Embassy hosts MindLab event during London Design Festival」(DENMARK IN THE UNITED KINGDOM Ministry of Foreign Affairs of Denmark 2021.3.29閲覧)(https://storbritannien.um.dk/news/newsdisplaypage/?newsID=48AD5889-B3D9-4C8F-84CB-C2D2448FD08F別ウィンドウで開きます

43 「デンマークの公共部門におけるデザイン思考の実践」(行政情報システム研究所 2021.3.29閲覧)(https://www.iais.or.jp/articles/articlesa/20190610/201906_02/別ウィンドウで開きます

44 令和元年度経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業「デジタルガバメントに関する諸外国における先進事例の実態調査」報告書(株式会社NTTデータ経営研究所、2020.3.31)(https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000247.pdfPDF

45 「Government as a Platform: the next phase of digital transformation」(GOV.UK 2015.3.29)(https://gds.blog.gov.uk/2015/03/29/government-as-a-platform-the-next-phase-of-digital-transformation/別ウィンドウで開きます

46 「The Local Digital Declaration」(Ministry of Housing, Communities and Local Government 2018.7)(https://localdigital.gov.uk/wp-content/uploads/2019/05/Local-Digital-Declaration-July-2018.pdfPDF

47 令和元年度経済産業省デジタルプラットフォーム構築事業「デジタルガバメントに関する諸外国における先進事例の実態調査」報告書(株式会社NTTデータ経営研究所、2020.3.31)(https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/000247.pdfPDF

48 「韓国における電子政府の現状について」(内閣官房 2016.11.24)(https://www.google.com/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=&ved=2ahUKEwj1nerCw9XvAhVGE4gKHS4jDMUQFjABegQIAxAD&url=https%3A%2F%2Fwww.kantei.go.jp%2Fjp%2Fsingi%2Fit2%2Fsenmon_bunka%2Fdensi%2Fdai19%2Fsankou2.pptx&usg=AOvVaw1MlygmnPzKFoQecNtWz2ab別ウィンドウで開きます

49 「韓国電子政府について」(首相官邸 2021.3.29閲覧)(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/nextg/pdf/siryou_21.pdfPDF

50 「Federal Cloud Computing Strategy」(the White House 2011.2.8)(https://obamawhitehouse.archives.gov/sites/default/files/omb/assets/egov_docs/federal-cloud-computing-strategy.pdfPDF

51 「The cloud.gov team」(CLOUD.GOV 2021.3.27閲覧)(https://cloud.gov/docs/overview/cloudgov-team/別ウィンドウで開きます

52 「PRICING」(CLOUD.GOV 2021.3.27)(https://cloud.gov/pricing/別ウィンドウで開きます

53 Grunddata (Basic Data) (Grunddata)(https://joinup.ec.europa.eu/collection/egovernment/document/grunddata-basic-data-grunddata別ウィンドウで開きます

54 DATAFORDELER(https://datafordeler.dk/別ウィンドウで開きます

55 「GEAPホームページ」(GEAP 2021.3.29閲覧)(https://www.geap.go.kr/real/uat/uia/sub/sub201.do別ウィンドウで開きます

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