総務省トップ > 政策 > 白書 > 令和3年版 > デジタルの経済成長への貢献
第1部 特集 デジタルで支える暮らしと経済
2 デジタルが貢献する社会・経済課題の解決

(2)デジタルの経済成長への貢献

ここまで人口減少・少子高齢化に伴う労働力の不足、国内市場の縮小といった課題、世界規模でのデジタル化による産業構造の変化に伴う我が国のデジタル競争力の低下について述べた。今後、我が国が持続的な経済成長を実現するには、これらの社会経済課題を乗り越えていく必要があるが、そのためには、供給面と需要面の双方において対策を講じる必要がある。

具体的には、供給面では、労働投入の減少を見据え、積極的な投資を続けながら企業の生産性向上(プロセス・イノベーション)を図っていくことが重要であるほか、女性や高齢者、障がい者の就業促進による労働参加率の拡大や、教育・人材育成の充実による労働の質向上が挙げられる。

他方、需要面では、企業の積極的なグローバル展開を通じて拡大する海外需要の取り込みを図るとともに、新たな商品・サービスの創造(プロダクト・イノベーション)を通じて持続的な需要を図ることが重要である。

これらの取組を進める上で、ICT(またはデジタル)がどのような役割を果たし、経済成長へ貢献することとなるのか、過去の情報通信白書に書かれた議論を以下に簡潔にまとめる(図表3-1-2-4)。

図表3-1-2-4 ICTによる経済貢献経路
(出典)総務省(2016)「平成28年版情報通信白書」

ア 供給面における対策

(ア)企業の生産性向上(プロセス・イノベーション)

人口減少社会においては、「生産性」の改善が重要との指摘がこれまでもなされてきた。ICTによる企業の生産性向上の経路としては、「ICTに係る投資」と「ICTに係る利活用」に分解される。

このうち、「ICTに係る投資」に関しては、1990年代の米国におけるICT投資を中心とした設備投資の拡大が、同国の景気に直接的影響を与えただけでなく、資本ストックとTFPの上昇に寄与することで米国経済全体の労働生産性上昇につながったと指摘されている。また、より高性能なICTへの投資を行うことで生産性向上に寄与する経路も想定される。

また、「ICTに係る利活用」とは、従来、人手に依存してきた業務においてICTを活用することで、業務処理の迅速性・正確性を上げることにより、企業の提供する財・サービスの品質向上につながることを指すほか、直接収益を上げない業務の省力化を図ることで、直接収益を上げる業務に人手を回すことにより付加価値の創出につなげることを想定している。

(イ)労働参加の拡大と労働の質向上

ICTによる経済成長への貢献の経路としては、「ICTに係る労働参画の促進」と「ICTに係る労働力向上」に分解される。

少子高齢化に伴う労働力不足については、我が国の経済成長の制約要因となりつつあることが従来から指摘されているが、ICTの活用により労働参加を促進することで、マクロ経済成長に貢献することを想定している。例えば、個々人の事情や仕事の内容に応じて、テレワークの実施やクラウドなどのICTサービスの活用によって、場所にとらわれない就業を可能とし、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることを想定している。

また、「ICTに係る労働力向上」とは、企業がICT(AIやRPA等)を導入することにより、同等の生産物・付加価値を生み出すのに必要な労働力を減少させることで、企業の労働生産性を向上させることが想定される。また、高度な人的資本がICTと結びつくことにより、高度ICT専門人材の雇用が創出される効果も期待される。

イ 需要面における対策

(ア)新商品・サービスによる需要創出(プロダクト・イノベーション)

経済成長には供給力のみならず需要の裏付けが必要であるが、我が国経済においては需要不足が重要な課題となっている。ICTによる新しい需要創出の経路としては、「ICTに係る商品・サービスやビジネスの創出」と「ICTを通じた消費促進」が挙げられる。

ICT分野では革新的な商品・サービスが次々と開発・提供されているが、その特徴として、ある商品・サービスが一度市場に広く行き渡ると、当該商品・サービスをプラットフォームとして派生的な商品・サービスが創り出される。その繰り返しによって市場が多層的に形成されていく。他方、ICTに係る商品・サービスは市場の栄枯盛衰も激しく、需要力強化の観点では、継続して需要喚起をつないでいく必要がある。

また、我が国GDPの約6割を占める個人消費は、景気や経済成長の動向を大きく左右する要素であるが、ネットショッピングやキャッシュレス決済といったICTを通じた消費促進サービスは、ブロードバンド環境の整備や決済手段の多様化などで利便性が高まり、市場が急速に拡大した。コロナ禍によって、非接触・非対面での活動を強いられたことが追い風となり、さらなる市場の拡大へとつながっている。

(イ)グローバル需要の取り込み

新興国等では人口増加や所得向上を背景に、今後も需要の拡大が見込まれている。現在はコロナ禍により、人流・物流に制約が設けられているものの、国内市場が縮小傾向にある我が国において、中長期的な経済成長のためには海外需要の取り込みが不可欠である。ICTによる経済成長への貢献の経路としては、「ICT製品・サービスの輸出や海外投資」と「ICTによるインバウンド需要拡大」が挙げられる。

我が国の企業は、国内市場の縮小を見据えて、海外に活路を見出そうとしてきた。ICT産業も例外ではなく、むしろ規模の経済性や寡占化しやすい傾向からグローバル化が急速に進んでいる。グローバル展開の有無は企業の競争力に大きな影響を与える。そのため、輸出や直接投資をはじめ様々な手段を使って海外展開を進めている。

また、我が国では訪日外国人による消費(インバウンド需要)は、中長期的経済成長シナリオにおいて重要な意味を持つ。コロナ以前の我が国では、訪日観光ビザの要件緩和や為替の円安方向への推移等を背景に訪日外国人が急速に増加し、その消費額も2019年で約4.8兆円まで拡大した。こうしたインバウンド振興と需要拡大に向けて、多言語音声翻訳や公衆無線LAN環境の整備といったICT活用が求められている。

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