平成6年版 通信白書

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第1章 平成5年情報通信の現況

(2) 産業の情報化

 産業分野においては、各企業等が業務の効率化・省力化を図るとともに、高度化・多様化する消費者の需要に迅速かつ柔軟に対応しつつ、競争力を強化する目的から、社内外における情報を有効に活用する手段として、通信回線や情報通信機器を積極的に装備し、有効に活用している。
 ここでは、[1]通信ネットワーク化の動向、[2]企業のオフィス外の業務における情報通信利用の高度化の状況について概観し考察する。
 ア 通信ネットワーク化の動向
 企業等において進められている企業内通信ネットワーク化の動向について、[1]利用の状況、[2]LANの導入状況、[3]関係経費の状況、[4]ネットワーク化投資に期待する効果、[5]推進上の問題点について、郵政省が全国の常雇規模 300人以上の企業を対象に実施した「通信ネットワーク調査」(付注11参照)に基づいて考察する。
 (ア)  通信ネットワークの利用状況
 企業において通信ネットワーク(付注12参照)を利用している割合は、全産業で86.1%となっている。このうち、音声ネットワークの利用率は67.9%、データネットワークの利用率は77.2%である。
 データネットワークを利用している企業について、各業務毎にデータネットワークを利用している比率を第1-3-24図に示している。
 ネットワークの利用率が高い業務は、販売・在庫管理(93.3%)、受発注・商品取引(90.3%)、経理・財務管理(85.0%)、物流管理(82.1 %)、情報検索(80.9%)となっている。
 (イ)  LANの導入状況
 企業におけるLANの導入状況をデータネットワークを利用している企業を対象にしてみると、第1-3-25図に示すように、全産業では、半数を超える51.3%がLANを導入している。導入率が高いのは、サービス業・その他(69.0%)、製造業(60.1%)、建設業(55.7%)となっている。
 (ウ)  通信ネットワーク構築にかかわる関係経費の状況
 通信ネットワーク関係の経費についてみると、第1-3-26図のように、全産業で1社当たり平均の年間経費は、3億5千万円であるが、業種別に見ると、サービス業・その他と金融・保険業が約10億円と突出して多いことがわかる。金融・保険業では、回線使用料が2億2千万円と多いことも特徴でATM、CD等のオンライン利用が多いためと考えられる。その他の業種では、年間経費の平均は不動産業を除き、1億8千万円から2億5千万円の範囲にある。
 (エ)  通信ネットワーク化投資に期待する効果
 第1-3-27図に、各企業において通信ネットワーク化投資を行うにあたって期待する投資効果を示している。
 全産業でみると、「事務・業務処理の迅速化」が最もポイントが高く、3番目にポイントが高い「事務・業務処理の省力化」とあわせて、ネットワーク化を図ることによる事務処理・業務処理の改善が期待されていることが分かる。
 「通信費用の節減」が2番目にポイントが高くなっており、経済の低迷を受けて、事務処理・業務処理の改善を図りながら、費用を併せて節減することを期待していることが分かる。さらに続いて、「データの有効活用」があがっており、通信ネットワークの活用による情報の有効活用や共有化により生産性向上等を図ることへの期待が大きいことがうかがえる。
 (オ)  通信ネットワーク化推進上の問題点
 第1-3-28図に、各企業が今後通信ネットワーク化を推進していく上で企画上と運用・管理上の問題点になると考えられる項目を示している。
 企画上の問題点としては、全産業でみると、「通信ネットワークに詳しい人材の不足」が最もポイントが高く、「設備投資額が増加」がそれに続いている。
 運用・管理上の問題点としては、「運用・管理者の人材不足」が最も高くなっており、これに「通信費用が増加」が続いている。
 これらの結果から、人材の不足が大きな問題となっていること、及び経済の低迷を反映して、設備投資や通信費用等の経費の負担感が各企業ともに大きくなっていることが分かる。
 イ 企業のオフィス外の業務における情報通信利用の高度化の状況
 企業においては、業務の迅速化・効率化や高度化を目的として、通信ネットワークの積極的な整備を進め、オフィス内の情報化が進められてきたが、オフィスの外において進められる業務においても、近年の移動通信系のサービスの多様化や携帯型端末の小型化・操作性向上等が進んできたことから、通信ネットワーク利用の高度化を進めることにより、高度なサービスを迅速かつ効率的に提供し、高度化・多様化する顧客の需要に対応している先進的な事例が現れてきている。
 ここでは、郵政省の委託調査により実施した企業のオフィス外の業務における情報通信利用の高度化の状況についてのヒアリング等の結果(第1-3-29表参照)の中から、注目されると思われる販売・査定・輸送業務における先進的な事例をとりあげ概観する。
 (ア)  販売業務・査定業務における利用事例
 (販売業務の高度化・効率化)
 医薬品業界において、販売員が情報を有効に活用して高度な販売を展開することや業務の効率化を図ることを目的として、携帯型の端末とネットワークを利用して、発注システム、情報検索システム及び営業日報や会社からの連絡事項等の交換を行う電子メールシステム等を複合的に組み合わせて、販売員の営業活動を支援するシステムを構築している例がみられる。
 この例では、医薬品の販売員が携帯する端末から公衆回線やISDN回線を介して営業所等のオフィスのデータベースにアクセスして、商品情報や売行き情報等の検索を行い、顧客に有益な情報を提供しながら販売を進めている。受注した場合には、同じ端末から社内の発注システムに即座に発注データの伝送を行うことが可能となっている。また、同じ端末から双方向の電子メール機能を利用して営業日報や顧客情報等のレポートを会社に送ったり、会社からの指示や連絡事項を入手したりすることも可能である。この結果、情報提供型の販売による他社との差別化、納品の迅速化、伝票発行等の事務処理の省力化等が図られている。また、この例では、販売員のうち約半数が会社に立ち寄らずに自宅から販売先に直行する形態で販売を進めているが、商品の発注や会社への報告等をネットワークを介して行うことが可能となったことにより、販売業務の効率化が図られている。
 (査定業務の効率化)
 ある損害保険会社では、これまでは、自動車事故の損害査定を行うにあたり、査定員が査定の現場(自動車修理工場)で事故車の状況を確認した上で、オフィスに戻り修理額の査定を行い、再度、自動車修理工場側と修理額決定の交渉を行っていたが、これを効率化するため、査定員がオフィスに戻ることなく、その場で査定と交渉を行うことを可能とする査定業務支援システムを構築している。この例では、査定員は事故車の状況を確認した上で、携帯する端末と携帯電話を利用してオフィスのデータベースから、修理部品価格・工数等の査定に必要な情報を検索して、その場で査定額の算出をすることが可能となっている。また、査定に関する留意事項や技術情報等のノウハウがデータベース上に整理され、蓄積されているため、これらを参照することにより、査定の正確性も向上している。
 (イ)  輸送業務における利用事例
 (貨物輸送業務の効率化)
 貨物輸送業務においては、車両の積載効率を高め、効率的な車両運行を図ることがコスト削減のための重要課題となっている。長距離路線輸送において、サービスエリアが広く、全国をカバーすることが可能な、衛星を利用したサービスを利用して車両の位置を把握し、運行管理を効率的に行うシステムの利用例が現れている。この例では、GPS(グローバル・ポジショニング・システム)の測位データを利用して車両の位置情報を把握・管理するとともに、5年7月から開始された衛星通信を利用した双方向陸上移動体データ通信サービスを利用して車両に集荷指示を与えるシステムの利用を始めている。これにより、路線の途中の支店や営業所で臨時に集荷する必要が発生した場合でも、臨時便を仕立てることなく、付近を走行中で積載状況に余裕のある車両にセンターから集荷指示を出すことが可能になり、車両の積載効率を高め、コスト削減を図ることが可能になっている。
 (配送業務の効率化)
 清涼飲料等の販売における自動販売機による売上比率は高まる傾向にあるが、自動販売機に商品を補充する配送業務は、各自動販売機の在庫情報を把握する仕組みがこれまではなかったことから、担当者の経験と勘に頼っており、効率化が課題となっていた。このため、各自動販売機の売上げ・在庫等の情報を事前に収集する自販機POSと呼ばれるシステムを導入することにより効率化を図っている例が現れてきている。
 自販機POSシステムは、各自動販売機とセンターの間を公衆回線・テレターミナル・MCA方式の無線等で結んで、各自動販売機から売上金額・商品毎の販売数・在庫数・故障の有無等の情報を収集するシステムであり、配送業者等はそのデータを利用して、商品の最適な配送計画や配送ルートを予めたてることが可能となる(第1-3-30図参照)。公衆回線を利用した自販機POSシステムを採用している例では、約5千9百台の自動販売機をネットワーク化して配送業務の効率化を図るとともに、集計された売上データを利用して、自動販売機設置計画や販売計画等に活用することも可能となっている。

第1-3-24図 データネットワークによる業務処理の割合

第1-3-25図 LANの導入状況

第1-3-26図 通信ネットワーク構築にかかわる関係経費の状況

第1-3-27図 通信ネットワーク化投資に期待する効果

第1-3-28図 通信ネットワーク化推進上の問題点

第1-3-29表 企業のオフィス外の業務における情報通信利用の高度化事例

第1-3-30図 自販機POSシステムのイメージ図

 

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