平成6年版 通信白書

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第3章 マルチメディアが拓く情報通信の新たな世界

1 情報通信のマルチメディア化における利用・開発動向

 (1) 我が国における利用・開発動向

 我が国においては、個人・家庭の分野において、パソコン通信を利用した映像の個人利用等の事例が現れてきている。産業・企業の分野においては、遠隔地の相手との協同作業や映像データベースを利用した業務支援等の先進的な実用事例が現れている。社会の分野では、医療・福祉等において実験的な事例が現れつつある。
 ア 個人・家庭
 娯楽においては、情報通信ネットワークを利用して遠隔地の相手とコミュニケーションを交わしながら、架空の世界での体験をするゲームの新しい楽しみ方が現れ始めている。テレビにおいても、視聴者が好みのシーンを選択することが可能な番組や視聴者参加型の番組作りが試みられるなど、娯楽の多様化を進める実験が行われている。また、情報利用の面では、映像を含む多様な情報を個人が自由に受発信できる環境が現れつつあり、映像データベースを利用して、いつでも必要な情報を必要な形で検索可能とするようなサービスの実験が行われている。
 (ア)  娯楽
 (パソコン通信のネットワークを介して架空の都市での生活を体験するゲームの利用)
 コンピュータグラフィックスを利用して作られた架空の都市の中に、パソコン通信のネットワークを利用して入り込み、ゲームの参加者が自由に自分の希望のキャラクターを選んで、日常と異なる空間の中で他の参加者とのコミュニケーションを図りながら楽しむサービスが実用化されている。ゲームの参加者は、この都市の中で通用するお金を与えられ、希望のキャラクターになりきって、他の参加者との会話、ゲームやショッピング、パーティやイベントへの参加や主催等の日常と異なる体験を楽しむことが可能となっている。現在、約9千人がこのサービスに加入している。
 (ケーブルテレビのネットワークを利用した家庭へのゲームソフトの配信の実験)
 ゲームの楽しみ方だけではなく、ゲームソフトの流通にもケーブルテレビのネットワークを利用する実験が始まっている。
 あるケーブルテレビ局では、5年12月から、ゲームソフト会社と協力して、ケーブルテレビの2つのチャンネルを利用して、ゲームソフトを家庭に配信しており、利用者はケーブルテレビ回線に接続した専用のレシーバカートリッジを利用して、配信されている50〜100 のゲームソフトの中から希望のゲームソフトを選択して蓄積し、テレビゲームを楽しむことが可能となっている。いったんレシーバカートリッジに蓄積されたゲームソフトは、端末の電源を切ること等により消去されるが、ゲームの終了まで時間のかかるシミュレーションゲーム等をする人のために、電源を切ってゲームを一度中断した場合でも、次に再度同じソフトを受信してゲームをする時に、前回の終了場面から再開することができるように、ゲームの進行状況を端末側で記録しておくような工夫もなされている(第3-2-1図参照)。
 (ケーブルテレビの双方向機能を利用したサービス・番組の提供)
 都市型ケーブルテレビ会社では、双方向機能を生かした種々のサービスが提供されている例がある。商品案内の番組や旅行情報の番組を見て、気に入った商品の購入やパンフレットの送付申込みを家庭の双方向端末で簡単に行うことができるホームショッピングや、番組で紹介されるコンサートのチケット予約を双方向端末を利用して行うホームリザベーションのサービスが行われている。また、視聴者が番組の中のクイズに回答したり、コンテストに投票したりするなどの視聴者参加型の番組も始まっている。
 (衛星を利用した視聴者選択型のテレビのインタラクティブ化の実験)
 視聴者がテレビの同じ画面上に表示される複数の映像の中から、見たい映像やその映像に関連する情報を選択して同じ画面上に表示して見ることができる、衛星を利用したテレビのインタラクティブ化の実験が行われた。5年9月に、鳥取県のゴルフ場と東京の実験会場とをデジタル衛星回線で結んで行われたゴルフ中継では、東京の実験会場にテレビ受像機の代わりにパソコンが設置され、視聴者がこのパソコンを操作することにより、パソコンの画面上に同時に表示される鳥取県のゴルフ場の4ホール分の映像の中から、見たいホール・見たい選手の映像を選択したり、当日の各選手の成績やコースレイアウト等の関連情報を選択して同じ画面上に表示させたりすることが可能となった。
 (衛星を利用した視聴者参加型のテレビのインタラクティブ化の実験)
 5年8月には、視聴者の参加を促す視聴者参加型番組の実験が行われた。この実験では、番組中に3つのコーナーがあり、いずれも視聴者が電話またはテレビ電話でアクセスし、[1]電話のプッシュボタンを利用して信号を送り、テレビ画面上の楽器を演奏する、[2]電話で会話をしながら、プッシュボタンを利用してテレビ画面上に絵を描く、[3]テレビ電話でアクセスした視聴者の顔がテレビ画面上にオンエアされ、登場者どうしが会話を交わす、などの試みがなされた。この放送時間中に、視聴者からは約25万回の電話のアクセスがあった。
 (イ)  情報利用
 (パソコン通信を利用した映像の受発信)
 ビデオ撮影した映像をデジタル化してパソコンに取り込んだり、パソコンでデジタル化された映像を編集したりして、個人が映像ソフトを作成し、その作品をパソコン通信等のネットワーク上で発信・交換する事例が現れはじめている。商用のパソコン通信サービスにおいても、このような映像ソフトを交換するためのフォーラムを設けている例が現れている。また、このような個人による映像表現・映像発信の動向に対応して、映像を編集・加工して楽しむ利用者のために、編集・加工等の利用についても了承の得られた映像素材・効果音をパソコン通信のネットワーク上において提供する商用サービスも始まっている。
 (新聞やニュース映像を情報通信ネットワークを利用して入手する実験)
 新聞・テレビニュース等の情報をデジタル化して統合的に提供するサービスのための実験が4年10月に、北海道の新聞社・放送局・大学等の共同により行われた。この実験では、新聞社・放送局が持つ当地で開催された国際条約会議関係の新聞記事・写真・ニュース映像等の文字・データ・音声・映像等の情報が統合されて、インターネットに接続されたワークステーション上にデータベース化されている。利用者はインターネットに接続されたワークステーションから必要な新聞記事を検索することができる。また、新聞記事に関連するニュース映像がある場合には記事本文中に表示されるキーワードを選択することによって、ニュースを動画と音声で視聴することが可能となっている。
 イ 産業・企業
 協同作業の分野においては、複数の人がそれぞれ離れた場所から各端末上で、共有の画面を見ながら会議を進めることができるシステムが実用されている。また、協同描画のためのグループウェア機能とテレビ電話を自然な形で統合したシステムの開発が行われている。
 業務支援の分野においては、販売促進活動を展開するための素材をデジタル化して統合・データベース化し、情報の一元管理を行い、販売促進活動の支援に役立てることに利用している。
 また、企業内研修の分野においては、衛星を使い、双方向性を持った講義を行うことにより地域格差の解消を図り、効果的な研修を行っている。
 (ア)  協同作業
 (様々なメディアをリアルタイムに交換・共有・処理できる遠隔地協同作業支援システムの利用)
 遠隔地協同作業支援システムが利用されている例として、ある企業では高速専用線やISDNを使って、国内のみならず海外のそれぞれ離れた場所にいる複数の人たちが自分の席のワークステーションから、共有の画面を見ながら会議・作業を進めている。1つの端末で、同一画面上にデジタル化された動画像やデータ等を見ることができ、音声も聞くことができる。つまり、全員が同じ情報を参照し共有することができるとともに、全員が全員の生の動画像を見、生の声を聞くことができる。画面は、会議に参加しているメンバー全員が共有する共有画面と、各メンバーが自分専用に利用・参照する個人画面があり、画面上のレイアウトは自由に変更できる。現在、研究所間でソフトウェア開発等に利用されており、6年1月には、日本・米国・シンガポールの3か国を接続して実験的に利用が始まっている。
 さらに、このシステムを利用して、指の動きや手の位置などをデータに変換して、コンピュータに送る機能を持った特殊なグローブをつけて、コンピュータの画面上に表示された物体を、あたかも自分の手で動かしているかのように動かす実験も行われている。これが実現することにより、航空機の設計を例にとると、遠隔地にいる複数の人が、コンピュータの画面上に表示されている航空機の向きを自分の手の動きにあわせて自在に変えながら、色や形状等について互いに議論・修正を行い、航空機の設計の分担を行うということもできるようになっている。
 (お互いの姿を確認しながら行う協同描画システムの開発)
 大きなガラス板を挟んで、アイコンタクトをとりながら、2地点で描画を行うことができるシステムが開発されている。
 従来のテレビ会議システムでは、図面や資料を説明する際に、それを相手に示すことはできたが、相手の視線により相手がどこに関心を持っているかを知ることはできなかった。しかし、このシステムでは、描画結果のみならず、描画を行う相手の連続した動作を見ることができ、アイコンタクトをとりながら作業をすることができるので、臨場感のある、より対面での打合せに近い状況を作りだすことができる。
 このシステムは、ビデオ回線とハーフミラーを基に構成されている。ハーフミラーに写った自分の姿とカラーマーカーで直接ハーフミラー上に書き込んだ描画は、頭上にあるカメラで撮影され、ビデオ回線を通じ相手のハーフミラーに投影される。同様に、自分のハーフミラーにもハーフミラーの裏側にあるビデオプロジェクタから相手の姿と描画が投影される(第3-2-2図参照)。
 現在では、さらに高機能のシステムが開発されている。このシステムでは、今までのシステムにパーソナルコンピュータを接続することにより、パーソナルコンピュータで描いた絵を、コンピュータの画面を大きくしたようなハーフミラーの画面上に読み込むことができる。この読み出した描画に対して、電子ペンを使い、修正等を加えながら協同で作業することができ、修正後のハーフミラー上の画面はコンピュータに保存することができるものであり、臨場感通信をコンピュータで補強し、協同描画システムがさらに便利になる(第3-2-3図参照)。
 (イ)  業務支援
 (販売促進資料をデジタル化して一元管理を行う映像データベースシステムの利用)
 ある企業では、コマーシャル・フィルムやポスター、写真などの膨大な量の販売促進資料をデジタル化して蓄積し、LAN上で映像データベース・システムとして利用し、業務の支援に役立てている。
 従来、コマーシャル・フィルムはビデオテープでブランドごとに異なる広告代理店が保管し、また、ポスターや雑誌広告などは現物やマイクロフィルムを社内の複数の部署が保管していたため、過去の資料を参照するのに社内外のやりとりが多く、手間と時間がかかっていた。そこで、これらの情報を電子化しブランド管理を徹底し、効果的な広告戦略と業務の効率化に役立てることを目的にデジタル・ビデオLANシステムが開発された。このシステムでは、動画や音声を含む様々な販売促進資料をデータベース化して社内で一元的に管理し、パソコンで全情報を検索することができる。つまり、1つの端末でテレビコマーシャルの動画像を見ながら、データをみることもでき、一体的に処理することができる。
 ブランド名による検索を行うと、各広告媒体ごとに何種類作成し、経費がいくらかかったかなどが表示される。広告媒体による検索では、テレビコマーシャルを例にとると、ビデオ画像のほかに制作年度・プロデューサー名・契約金額などが表示される。
 このシステムを導入したことにより、様々な情報の中から欲しい情報を迅速に検索できるようになり、業務の効率を向上させている(第3-2-4図参照)。
 (ウ)  企業内研修
 (衛星通信による動画・音声・データを利用した双方向企業内研修)
 遠隔教育・研修では、動画・音声・データ等の双方向性が要求されている。ある企業では、センター教室と全国のサテライト教室を衛星回線で結びデジタル化された動画・音声・データをリアルタイムかつ双方向で通信し、企業内研修を行っている。
 このシステムは、1つの講義に対して、講師の顔の映像に1画面、資料やテキストに1画面の合計2画面の動画像が伝送でき、画面には必要に応じて手書きで説明を加えたりすることもできる。センター教室の講師の受信モニターには、任意の2か所のサテライト教室の映像が送られてくる。どのサテライト教室からでも講師に質問することができ、質問があると講師卓のランプが点灯し、ボタン1つで回線がつながり、質問に答えることができる。質疑応答の様子は、センター教室を含めたすべての教室に流すことができ、まさにその場で講義を受講しているのと同じ環境を作りだすことができる。
 このシステムを導入することにより、講師が、各地に出向いて同じ内容の講義をしたり、受講者が遠隔地に出向き受講するという無駄が省け、移動に伴う時間と経費を削減できる。また、全国一斉授業により、均質な講義を受けることにより共通の情報を手にすることができる。
 ウ 社会
 マルチメディアの特長を生かして、生徒個々の個性や能力を生かす学習への利用、高度な映像通信機能を利用した医療における実験等が始まっている。
 (ア)  教育・学習
 (マルチメディアパソコンと情報通信ネットワークを利用した生徒の個性や能力を生かす学習)
 教育の場において、マルチメディアパソコンと情報通信ネットワークを利用しながら、生徒の個性や能力を生かす学習の試みが始まっている。
 東京都のある小学校では、学校の回りの自然や動物、地形等をテーマとして選んで、観察してまとめるというフィールドワークを授業に取り入れており、生徒たちは観察したり調べたりした結果を、文章・音声・静止画・ビデオの動画等を利用してパソコン上でまとめ、パソコンを使って発表をしている。また、こうした結果を、カナダの小学校とパソコン通信で結んで交換しており、現在では、さらに進んで両校で共通のテーマを設けて、学んだことや調べたことをまとめて、継続的に情報交流を行っている。
 (イ)  医療・福祉
 (CT画像や病理片ハイビジョン画像の伝送を利用した遠隔診断支援の実験)
 遠隔診断支援の分野においては、北海道において脳神経外科等の専門分野にかかわる救急診療において、専門医のいない病院から患者のCT画像等をISDN回線を利用して専門医のいる病院に伝送し、アドバイスを受けて診療や応急処置を行う実験が行われている。
 また、宮城県において専門の病理医がいない病院における病理診断を支援するために、光ファイバーで伝送されてきた顕微鏡標本を、専門の病理医がハイビジョンのモニターで診断支援する実験が行われている。これらの例では、専門医の判断により的確な処置が可能となるほか、専門医のいる病院への移送の必要性の判断が迅速に行われるなどの効果が出ている。
 (映像通信を利用して入院患者と外部とのコミュニケーションを深める実験)
 病院外とのコミュニケーションが不足しがちな入院中の子供を対象として、家族や同年代の子供たちとの交流を深めるための実験が映像通信を利用して、5年5月に行われた。
 この例では、東京都の小児病院と病院外の2地点を50MHz のマイクロ波で結んで、入院中の子供と家族との面会を実現したり、情報通信ネットワークを通じて、入院中の子供と他地点にいる子供が一緒になって、カルタ取りを行ったり、コンピュータグラフィックスで描かれた金星の上空をあたかも飛行しているように体感して楽しんだりする等の実験を行った。臨場感のある映像通信を利用して、遠隔地との間でより現実に近いコミュニケーションをとることにより、入院患者の外部との交流を深め、日常生活での経験や体験を補足をする効果が現れている。
 (福祉・介護情報のデータベースサービスの提供)
 高齢化社会の福祉分野での利用として、高齢者の介護を中心とした幅広い相談に対応するデータベース検索システムが実用化されている例がある。このシステムは、[1]介護に必要な機器情報を検索できる介護機器用品検索システム、[2]保健・福祉・医療・年金・生きがい・税金等の幅広い分野に及ぶ情報を検索できる情報検索システム、[3]介護相談員に要介護者の状況に応じたサービスのアドバイスをする介護相談員支援システムから構成されており、利用者は端末からISDN回線を介してデータベースにアクセスし、情報を検索する仕組みになっている。介護機器用品検索システムについては、福祉相談員等は、福祉相談センター等に設置された端末を利用して、介護を要する高齢者等の症状等を選択していくことにより、適切な車椅子やベッド等の介護機器の情報を静止画像で確認するとともに、機器の紹介や使用上のアドバイスを音声によって受けることが可能となっている。

ネットワークを利用したゲームの画面

第3-2-1図 ケーブルテレビを利用したゲーム配信のイメージ図

ケーブルテレビを利用したチケット予約

インタラクティブ・テレビの画面

ネットワークを利用した新聞情報・ニュース映像の入手

第3-2-2図 協同描画システムのイメージ図

第3-2-3図 高機能協同描画システムのイメージ図

第3-2-4図 デジタル・ビデオLANのシステム構成図

企業内研修

マルチメディアパソコンを利用した屋外での学習風景

 

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