平成6年版 通信白書

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第2章 情報通信政策の動向

(1) 米国

 米国では、1982年の修正同意審決(MFJ)により、1984年にAT&Tは、長距離通信事業者と7社のRHC(地域持株会社)の下に組織される22のBOC(ベル系電話会社)に再編成された。
 長距離通信事業については、AT&Tの分割以降、市内電話加入者に対するイコールアクセスが実現したことも手伝って、長距離事業者間の料金、サービス競争が激化している。地域通信事業は、CAP(競争アクセス提供事業者)が、地域通信事業に参入するとともに、ケーブルテレビ会社も新規通信事業へ進出するなど、地域通信市場における独占体制が崩れ、競争が激しくなりつつある。
 ケーブルテレビ事業については、1984年ケーブル通信政策法が、通信事業とケーブルテレビ事業の兼営を禁止しており、地域電話会社が営業区域内でケーブルテレビ事業を営むことができないなど、地域内においては、実質的にほとんど独占かつ非規制という状況になった。このため、急激な料金値上げ等が行われ、米国民の不満が高まったため、1992年ケーブルテレビ消費者保護及び競争法の改正により、料金規制を中心とするケーブルテレビ事業者に対する規制強化が行われた。
 その後、電話会社の映像伝送サービスを許可するFCCのビデオ・ダイヤル・トーン裁定等規制緩和や電話会社との競争を促進する動きが相次いでいる。
 ア NII構想
 米国では、情報通信ネットワークの高度化は米国の産業競争力を強化するため不可欠である、という基本戦略に基づき、全米に「情報スーパーハイウェイ」を構築するNII構想に積極的に取り組んでいる。
 NII構想は、[1]相互連結された電気通信ネットワーク、[2]情報機器、[3]情報ソフト・データベース、[4]人材で構成される情報通信基盤の総合的な整備を進めようとするものである。
 NIIの導入に関する政策を策定、実施するため、情報通信政策に関係するすべての連邦政府機関によって構成される情報基盤タスクフォース(IITF)が設置され、1993年9月には、「NII(National Information Infrastructure :全米情報基盤)に関する行動アジェンダ」を発表している。
 このNIIの促進により、米国が直面する広範囲の経済・社会問題の解決に大きく貢献することを言明するとともに、伝統的に民間事業者によって行われている情報通信基盤整備の取組を補完、強化するため、政府が次のような広範な役割を担うことを表明している。
 [1]適切な税制・規制政策による民間投資の促進
 [2]全国民に負担可能な料金で情報資源のアクセスを保証する「ユニバーサルサービス」の概念の普及
 [3]技術革新と新規アプリケーションの促進、民間部門の技術の開発・実証のための政府の研究プログラムや補助金の交付の実施
 [4]対話型かつユーザー主導型の運用の促進
 [5]情報の保護とネットワークの信頼性の保証
 [6]周波数管理の改善
 [7]知的所有権の保護
 [8]政府部内や諸外国との調整
 [9]政府情報へのアクセス拡大と政府調達の改善
 情報基盤タスクフォースは、現在、電気通信政策、情報政策、アプリケーションの3委員会で検討が進められている。また、実業界、労働界、学界、公益グループ、州政府、地方自治体等の代表27名で構成されるNII諮問委員会が設置され、情報基盤タスクフォースへの提言を行うこととしている。
 ゴア副大統領は、1993年12月の演説で、NII構想の推進に向け、近く発表する予定の法案パッケージの5原則として、[1]民間投資の促進、[2]競争の促進と保護、[3]ネットワークの利用の確保、[4]情報に関して「持つ者」と「持たざる者」が生じることの防止、[5]政策の柔軟性の確保について発表した。それに続く1994年1月の演説では、2000年までに情報通信基盤により学校・図書館・病院等を結ぶ教育・医療の高度化の実現、民間投資と競争の促進、地域通信市場における電話・ケーブルテレビの相互参入による競争の導入等について説明を行っており、この電気通信改革に関する方針は、同月に行われたクリントン大統領の一般教書演説でも言及されている。
 米国議会においてもNIIの一環として、1994年度政府機関歳出法により、地方公共団体、学校、医療機関等の団体が行う、高速ネットワーク構築、光ファイバや通信衛星を用いたネットワークの相互接続等の通信基盤プロジェクトに対する補助金「情報基盤補助金(Information Infrastructure Grants)」を新設した。
 現在、電気通信情報庁では、「情報通信支援プログラム(TIIAP)」として、補助金の交付対象プロジェクトを募集中である。また、議会は交付対象としてあわせて22の通信基盤整備計画を推奨している。
 イ HPCCプログラム
 1991年高性能コンピューティング法(High―Performance Computing Act of 1991)に基づいて推進されているHPCC計画(High―Performance Computing and Communication)計画は、[1]次世代コンピューターシステムの研究開発、[2]高度ソフトウェア技術とアルゴリズムの開発、[3]全米研究教育ネットワーク(NREN)の構築、[4]基礎研究と人的資源の開発、[5]情報基盤技術・アプリケーションの開発等のプログラムからなり、1992年から1996年の5年間に約29億ドルの資金を投入することとされている。
 このうちNREN(National Research and Education Network Program)は、研究・教育機関を結ぶ高速ネットワークを構築し、研究・教育用の情報通信基盤の構築及びこれに必要な技術開発を促進するためのプロジェクトとして位置づけられており、コンピュータ、電気通信、情報の各産業との協力により進められている。1996年までにギガビットクラスのデータ伝送能力を目指している。
 ウ 州政府の動向
 1980年代後半から、主として交通問題、環境対策として、カリフォルニア州、フロリダ州をはじめとする7州で通勤削減法の制定が進められ、通勤を代替する手段として情報通信基盤の活用が図られた。これとともに、運輸省の補助を得て、ロスアンジェルス、シアトル等の都市で、テレコミューティングセンターも建設された。
 1990年代になると、[1]州経済の活性化、[2]住民生活の向上(教育、医療等)、[3]企業誘致、[4]州政府情報の開示等を目的として、州政府が光ファイバを使用した通信網を構築する他、電話会社の高度化プロジェクトを支援する等、州内の情報通信基盤の高度化に積極的に取り組んできている。前者の例として、アイオワ州、ノースカロライナ州が、後者の例としては、ニュージャージー州、テネシー州があげられる。
 

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