平成6年版 通信白書

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第3章 マルチメディアが拓く情報通信の新たな世界

(2) 社会経済の各分野にもたらすインパクト

 ア 個人・家庭(第3-1-2図参照)
 (ア)  個人
 (地域や世代を越えた交流の促進)
 現在、音声のみによって意志の伝達を行う電話では、画像等で表現された物事を正確に伝えることは難しく、また、ファクシミリやパソコン通信等を用いても、実際に相手と対面しているような細かいニュアンスまで含む動画像のやりとりはできない。将来においては、端末で既存のビデオ映像・写真・絵画等の加工やCG映像等の作成を行い、音声や文字とともに、送受信することが可能となろう。また、自動翻訳により言語の異なる相手とのコミュニケーションも容易となろう。
 この結果、個人のアイデアを高品質な動画像や音声等を用い、手軽にやりとりすることが可能となり、地域や世代の隔たりを越え、共通の趣味や関心に根ざした人と人との自由な交流が進むことが期待される。
 (情報環境の変容・高度化)
 放送・新聞・雑誌等から必要な情報を得ようとする場合、それぞれのメディアが一方的に発信している断片的な情報を、受け入れながら選択していかなければならない。将来はこうした全ての情報が、映像や音声も含めデータベース化され、個人の関心分野、詳しさの程度、入手形態(映像・音声・文章等)等の条件を絞り込める家庭用の情報通信端末を能動的に用い、総合化された情報を一体的に得ることが可能となろう。さらに、個人は受動的に情報を得るだけでなく、身の回りの出来事などこれまでマスメディアによって提供されにくかった情報を社会に向かって発信することも可能となろう。
 この結果、個人の欲求に応じた情報を効率的に入手することが可能となるとともに、個人の身近な情報を社会に向けて能動的に発信することが期待される。
 (イ)  家庭
 (遠隔地の家族との一層密接な交流の実現)
 現在では、電話により離れた地点にいる者同士がコミュニケーションを行っているが、例えば家族の団らんなどのように、実際にその場に居合わせ、相手との会話等を周囲の雰囲気とともに楽しむことまでは、電話では容易にできない。将来は、出張先や旅行先のホテル等にいる家族がその自宅との間、あるいは遠隔地に住む家族がそのふるさととの間などで、高精細動画像をそれぞれの大型スクリーンに映し出し、あたかも直接会っているかのようなコミュニケーションを世界中どこにいても行うことが可能となろう。
 この結果、ネットワークを通じて、くつろぎの場などが創出されることによって、遠く離れた家族等の間における臨場感溢れるコミュニケーションの促進が期待される。
 (家庭内におけるアミューズメントの拡大)
 家庭内において、戸外で行われている様々な催し物等を選んで楽しむ場合は、現在はマスメディアや映像・音声ソフト等のパッケージ系メディアを通じて間接的・受動的に接するに留まっている。将来は、3次元の高精細動画像にCGの伝送により、戸外の様々なアミューズメントを家庭において手軽に、あたかも実際に出掛けて体験しているかのように楽しむことが可能となろう。また、それぞれの現地において提供されている商品等の購入手配が、代金の決済等も含め、家庭内で即座に行うことが可能となろう。
 この結果、家庭にいながらにして、戸外の体験や、実在しない事柄の体験ができるようになるなどによる、新しいアミューズメントの創出が期待される。
 イ 産業・企業(第3-1-3図参照)
 (ア)  産業
 (新たな産業の興隆の促進)
 流通、医療、娯楽をはじめとする様々な産業分野において、テレショッピング、ソフト配信、ビデオ・オン・デマンド、電子新聞など多様で、新たなサービスの提供が可能となろう。
 この結果、新しい情報通信サービスを提供するニュービジネスが、21世紀を担う新産業として展開し、新たな市場を形成するとともに、大きな雇用を創出し、我が国の持続的経済成長に貢献していくと期待される。
 (既存産業の高度化・効率化の促進)
 企業は、従来マスメディアを通じて商品の宣伝広告を行い、小売店を通じて商品の販売を行っているが、将来においては、このような製造・販売形態に加えて、情報通信ネットワークを通じて、直接家庭に商品の情報を提供し、販売を行ってから、生産することが可能となろう。例えば、企業は電子カタログ・データベースを用意しており、利用者は情報通信ネットワークを通じて各社のカタログを端末で検索し、比較検討し、気に入った商品をカスタムメードで注文、企業は注文を受けて生産を行うこととなる。
 また、情報提供の分野においても電子新聞やインタラクティブテレビの普及により、情報通信ネットワークを通じて直接利用者にそのニーズにあった情報を提供することが可能となろう。
 この結果、情報通信ネットワークを利用した商品情報の直接提供や注文を受けてからの製造により、流通過程の削減や在庫の軽減等の効率化が促進されるとともに、生産者と消費者が直結することにより、消費者ニーズへのきめ細かな対応が可能となると期待される。また、マスメディアは、個人の多様なニーズに対応するため変容していくこととなろう。
 (イ)  企業
 (企業活動の生産性の向上の促進)
 従来打合せ等の共同作業や企画書等のビジネス文書の作成を行うに当たっては、その都度関係者が集まったり、関係部署から資料を取り寄せなければならないが、将来においては、例えば、各人のデスク上の端末が、社内の各部門の従業員をはじめ、各種データベース、社外のブレーンと情報通信ネットワークでつながっており、社内のデータベースからデジタル化された資料、文献、記録映像等を必要な形態で瞬時に取り出し、加工して、企画書を作成したり、内外の専門家と情報を共有しながら、設計や映画の制作など高度な協同作業を行うことが可能となろう。
 この結果、ビジネス情報の容易な入手や遠隔協同作業が可能となり、従来費やしていた情報収集や移動の労力を軽減して、生産性が向上すると期待される。
 (勤務環境の向上)
 現在在宅勤務やサテライトオフィスにおいては、主に電話やファクシミリによって会社との連絡を行っているが、将来においては、会社と自宅やサテライトオフィス間における臨場感溢れる高精細映像等の伝送により、自宅の書斎等に居ながらにして会社の人間とあたかも同じオフィスにいるかのような感覚で打合せ、会議、協同作業等を行うことが可能となろう。
 この結果、通勤に伴う労力や時間の浪費のない快適な勤務環境の実現が可能となるとともに、経済活動に伴う人の移動の情報通信への代替が進むことにより、NOx等の発生が抑制され、地球環境の保全に資することとなると期待される。
 ウ 社会(第3-1-4図参照)
 (ア)  教育・学習
 (個性・能力を伸ばし、興味・関心に応じた教育環境の整備の促進)
 生徒は、現在、学校等で教師の授業を皆と一緒に受け、放課後自宅でテレビやラジオの教育番組の講義を視聴したり、学習塾等に通うなどして、自分の関心に応じて学習する機会を得ている。将来は、地域・家庭においても、様々な分野の専門家が情報通信ネットワーク上で行う多様な講義に対して自分で選んでアクセスし、また、専門家と直接通信することにより個人的な講義を受け、講師と生徒が遠く離れた部屋にいてもすぐそばにいるような感覚で講義を受けたり、質問・返答のやり取りが行われることが可能となるとともに、他の学校の教師や生徒との通信を行うことにより自主的・自発的な学習が促進されることが可能となろう。
 この結果、教師と生徒及び生徒相互の好ましい人間関係を育て、さらに学校相互の交流、家庭や地域社会との連携が深まり、教育活動全体が活発になるとともに、自分の関心の度合いや学習レベルに応じて、学校・地域・家庭で個性を生かす教育を受けるような機会が充実し、個性・能力を伸ばし、興味・関心に応じた教育環境の整備が促進されることが期待される。
 (生涯にわたる学習環境の整備の促進)
 学校を卒業した社会人等は、現在、新たに学習しようとした場合、既存の学校への再入学、放送大学の講座の受講、大学等が一般の人を対象に開催する市民講座の聴講を行うなどしている。将来は、時間的、地理的等の制約を受けやすい社会人等は、自宅で、国内外の教育機関等で行われている多様な講義の中から自分の聴講したい講座に情報通信ネットワークを介してアクセスし、高度な講義内容を自室で聴講することが可能となろう。さらに、自動翻訳機能等により聴講者の母国語にリアルタイムで通訳されて受講することも可能となろう。
 この結果、学校教育を終えた社会人等が、生涯にわたり身近な分野から高度な学問分野まで、各人の関心に応じて生涯にわたり学習できる環境の整備が促進されると期待される。
 (イ)  医療・福祉
 (在宅医療サービスに対する環境整備の促進)
 家庭で子供の健康管理等を行う場合、現在、家族は掛かりつけの家庭医等に電話連絡等で相談するなどしている。将来は、在宅医療支援システムにより家庭医等に連絡し、子供の様子を情報通信ネットワークを介して家庭医に見てもらい、相談する。家庭医は、自室の端末等で、伝送されてくる子供の映像を見ながら、データベースを活用し、検索した子供の日常の健康状態、既往症等の情報を参照して、指導等を行うことにより適切な健康管理や診療の相談を行うことが可能となろう。また、家庭医が、遠隔地にいる専門医の支援を必要とする時には、専門医の端末へ子供の映像や検索した子供の情報を転送し、専門医から必要な情報の提供や助言を受けることも可能となろう。
 この結果、家庭においても、家庭医や専門医等の協力による高度な医療サービスを受けることができるような環境が整備されることが期待される。
 (福祉サービス資源の効果的な活用の促進)
 一人暮らしの高齢者の家庭や身体のリハビリを要する家族を抱えた家庭では、現在、専門家による家庭訪問等により在宅福祉サービスを受けている。将来、このような家庭では、遠隔地のセンターと情報通信ネットワークで結ばれることにより、センターの専門家が、一人暮らしの老人宅に情報通信ネットワークを介してアクセスして高齢者の生活の様子や健康状態を映像で確認したり、また、リハビリを要する家族のいる家庭にセンターから映像でリハビリ訓練を指導するとともに、リハビリ訓練の様子を映像で確認しながら適切な助言を本人や補助する家族等に与えることも可能となろう。
 この結果、一人暮らしの高齢者やリハビリを要する方々等への在宅サービスに当たっては、情報通信ネットワークの利用により労力や時間等が有効に使われることなどから、福祉サービスをより一層効率的に提供する環境の整備が促進されることが期待される。
 (ウ)  行政
 行政情報等については、現在は、住民が直接行政機関の窓口まで出向くか、広報紙等により入手している。将来は、市町村等の行う行政サービスや議会の審議状況等についての行政情報が、映像等によりデータベース化され、自宅の端末からこれらの情報を、必要な時に自由に検索して入手できたり、また、住民の要望、相談等についても情報通信ネットワークを介して自由に行政に伝えることも可能となろう。さらに、行政窓口まで出向いて行っている各種の届出や証明書等の交付についても、家庭の端末により必要なときに自由にアクセスして、証明書等の発送を依頼することも可能となろう。
 この結果、行政情報の入手が促進され、また、行政に対する要望、意見等を自由に伝えることが進むとともに、各種手続きの迅速化が促進され、住民の利便性の向上が期待される。

第3-1-2図 個人・家庭へのインパクトについての考え

第3-1-3図 産業・企業へのインパクトについての考え

第3-1-4図 社会へのインパクトについての考え

 

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