平成6年版 通信白書

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第3章 マルチメディアが拓く情報通信の新たな世界

(2) 先進諸外国における利用・開発動向

 先進諸外国においては、個人・家庭の分野において、ビテオ・オン・デマンドサービスの開発等への活発な取組が行われている。また、社会の分野においても、街頭の端末を利用して行政情報を提供したり、事務手続きを行ったりするサービスが行われるなど、マルチメディア化の進展をみることができる(なお、この部分の記述は、1994年3月末現在の状況を踏まえたものである)。
 ア 個人・家庭
 娯楽の分野では、ビデオ・オン・デマンドサービスやテレビ放送と他のメディアを併用することによる双方向的な視聴者参加型プログラムの提供サービス等の実用・実験の動きが進展している。さらに、情報利用の分野では、携帯型の情報端末により、多様な情報がやり取りされているほか、パソコン通信会社による画像を中心とした家庭への情報提供サービスやインターネットを利用した情報収集についても、実用・実験が進んでいる。
 (ア)  娯楽
 (ビデオ・オン・デマンドの実験)
 ケーブルテレビが全家庭の60%以上と広く普及していること、1992年7月のFCCの裁定により、地域電話会社に対し公衆への映像伝送サービス(ビデオ・ダイヤルトーン)の提供が認められたこと、ケーブルテレビ事業者が長距離電話のバイパス・サービスやPCS(Personal Communication Services)等の通信サービスを提供できるようになったことなどを背景に、米国では、様々な双方向の映像伝送サービスの実験や計画が進められている(第3-2-5表参照)。
 そこでのサービスとしては、ホームショッピング、ホームリザベーションや映像を使用したインタラクティブ・ゲーム、視聴者のリクエストに応じて映画を伝送するビデオ・オン・デマンドなどがある(第3-2-6図参照)。
 例えば、ある地域電話会社が、1993年6月からニューヨーク市で実施している実験では、既存のケーブルテレビの技術を使用し、アナログの映像伝送で、50世帯に対してビデオ・ダイヤルトーンがサービスされている。また、別の地域電話会社では、電話回線の映像伝送サービスへの適用可能性を探るため、1993年6月からバージニア州で従業員 300世帯に対して、既存の電話回線を使用したデジタル映像伝送のビデオ・ダイヤルトーン実験を行っている。
 実験・計画の中には、高機能の新ネットワークを構築し、映像伝送サービスだけでなく、より広範囲なサービス提供を目指すものもある。
 例えば、あるケーブルテレビ会社が、1994年中にもフロリダ州で実施するといわれている実験では、センターからユーザー宅の近くまでを光ファイバー、その先の加入者線部分については同軸ケーブルのハイブリッド・ネットワークを構築することにより、デジタル映像伝送によるビデオ・オン・デマンドや利用者が好きな時にビデオショッピングセンターにアクセスし、好きな映像カタログを選んで、その中から商品を選択する、オン・デマンド・ショッピングのほか、長距離電話やPCS等の通信サービスも含むフルサービスの提供が計画されている。
 (既存メディアの活用による双方向的な視聴者参加型プログラムの提供)
 カリフォルニア州で1992年4月から行われているサービスでは、ケーブルテレビ放送にFM放送のサブ・バンド、電話回線を組み合わせた視聴者参加型のプログラムが提供されている。このプログラムでは、例えば、番組で放送されているバスケットボールの試合について、ある選手の次の動きが、パスかドリブルかといった選択肢がFM波で視聴者のコントロール・ユニットのスクリーンに表示され、視聴者はそれを選択する。その結果はユニットに蓄積され、番組終了後、ユニットに電話プラグをつなぎ、結果を中央コンピュータに伝送することにより、視聴者の中での順位を知ることができ、優勝者には商品が与えられる。
 (イ)  情報利用
 (携帯型情報端末を利用した情報伝送)
 米国においては個人のための携帯型の情報端末が多数、開発、販売されている。これらの端末は、パソコンなどとの連携が可能になっているほか、通信機能、コミュニケーション機能にも重点が置かれており、これを利用することにより、どこからでも、他の情報通信機器との間で、文字・図形・音声・データのやり取りをすることができる。
 例えば、1993年8月に発売された情報端末は、ペン入力による手書き文字認識や編集機能を有しているのに加え、通信用のモデムをつけることにより、公衆回線・ページャー・セルラー・構内無線LANのネットワークにアクセスできるほか、赤外線ビームにより、他の端末との間でデータ交換をすることもできる。また、1993年12月に発売された別の情報端末は携帯電話一体型であり、これにより、電話・データ通信・ファクシミリ・電子メール・数字ページャーのサービスを受けることができる。
 (パソコン通信網とケーブルテレビ網の結合による映像等の伝送実験)
 米国のあるパソコン通信の大手により、ケーブルテレビ網を利用して、映像や音声の伝送に加えて、データやテキストの付加情報を伝送する実験が、1993年末から行われている。
 そこでは、ケーブルモデムを介してパソコンをケーブルテレビ網に接続することにより、パソコン通信のセンターにあるデータベースにアクセスし、スポーツ番組を見ながら選手の過去の成績のデータを呼び出したり、音楽番組を見ながらコンサートのチケット予約をしたりするサービスが実験されている。
 (インターネットを利用した情報収集)
 米国を中心に、インターネットと呼ばれる、世界的な規模の情報通信ネットワークが構築されており、これを利用して種々の情報を収集することができる。
 インターネットは、TCP/IPと呼ばれる通信手順(プロトコル)で、LAN等を相互に接続したネットワークであり、米国では、NSFネットをはじめとした研究・学術用の基幹ネットワーク及び企業が自由に利用できる商用の基幹ネットワークがそれぞれ複数存在している。
 インターネットは、当初は研究者のネットワークであったが、現在は、学術目的以外の利用が急激に増加し、企業利用が学術利用を凌駕しているといわれている。
 インターネットの利用は現在でも急速に増加しているため、その規模を正確にはかることは困難であるが、接続コンピュータ数 220万台以上、間接的に接続されているものも含めると 140か国以上に接続され、利用者数はおおよそ 1,000万人といわれている。
 利用者は、ワークステーションやパソコン端末から、インターネットを通じて、気象衛星のカラー写真やホワイト・ハウスにおける記者会見や各国首脳との会談模様など、政府機関、大学などが無料で提供している多様な情報を入手することができる。また、この他の機能として、電子メールが利用できるほか、商用のサービスへアクセスし、書籍の検索・注文といったサービスを受けることもできる。
 インターネットで扱われているデータは、文字データが中心であるが、ミュージック・ビデオの提供サービスのように、音声・ビデオ画像も扱われるようになってきている。
 イ 産業・企業
 産業・企業の分野では業務支援のため、動画を含む有益な情報を検索できるシステムを実験的に導入している先進的な事例がみられる。
 (企業内LANを利用したニュース・オン・デマンドの実験)
 米国ニューヨーク市のある製薬会社では、企業内のLANのネットワークで接続された端末上で、動画を含む必要なニュース番組を、視聴することが可能となっている。このサービスは、1993年から米国のある大手コンピュータメーカーと放送事業者等から、実用化にむけて実験的にサービスが提供されているもので、テレビ放送されたニュースを中心に編集された番組がデジタル化され、1時間ごとに通信衛星を介して、製薬会社に提供される。提供された番組は製薬会社のLANのサーバーに蓄積され、社員はパソコン端末でサーバーにアクセスして、いつでも自分の必要とする番組を見ることができる。
 また同じニューヨーク市の投資家の事務所において、1993年から情報提供会社と地域電話会社が共同で、事務所のパソコン端末から文字・音声・動画等の情報検索ができるシステムの実験を行っている。事務所とデータベースセンターとを 1.5Mb/sの公衆デジタル回線で接続し、センターの映像情報等を事務所のLANのサーバーに蓄積し、投資家はパソコン端末で、サーバーにアクセスして必要な情報を入手する。センターのデータベースには、放送されたニュース番組を編集したものをはじめ、金融関係者へのインタビューやアナリストの分析など情報提供会社が独自に編集した番組等が蓄積されている。また、蓄積された情報のほか、記者会見やインタビュー等の生の映像もセンターから提供されている。投資家はこのシステムを利用し、投資に役立つ情報の収集を行っている。
 ウ 社会
 社会の分野では街頭や図書館等に設置した端末を通じて、住民の必要とする行政情報等を提供している事例、通信衛星や光ファイバー等を利用した双方向の遠隔教育の事例、通信衛星等を利用したロボットの遠隔操作による学習や調査・研究の事例等において先進的な動きがみられる。
 (ア)  行政事務等
 (街頭の端末を利用した行政サービスの提供)
 米国カリフォルニア州では1991年から、州政府からの情報や雇用情報等の検索のほか、出生届や自動車登録料の支払いなどが終日できる端末が、街頭・図書館・ショッピングセンター等に設置されている。利用者が端末画面のタッチ操作で情報を検索すると、該当する情報が文字・図形・音声・映像で表示される。文字・音声・静止画等は専用線で結ばれたセンターから伝送され、動画は端末に内蔵されたビデオディスクにより表示される。
 また、このようなシステムは、米国フロリダ州ヒルズバラ・カウンティ、ミズーリ州カンザスシティ等でも導入されており、郡や市が主体となり、行政情報の提供のほか、環境問題・裁判等に関する相談、苦情処理等のサービスを終日実施している。
 (イ)  教育・学習
 (光ファイバーや通信衛星を利用した双方向の遠隔教育の実施)
 米国アラスカ州では、1992年から8つの村の学校を光ファイバーや通信衛星で結んだテレビ会議システムを利用して、1人の教師が同時に複数の学校で授業を行ったり、双方向の機能を活用して学校間でのディスカッションを行っている事例がある。各学校は規模が小さく、それぞれの学校で全教科の教師をそろえることはできず、また、この地域は各学校間の距離が遠く、交通が不便なため、授業や学校間のコミュニケーションを図る上での苦労が多かった。このシステムを利用して、教科担当の教師による授業や学校間の交流活動が行われるようになった(第3-2-7図参照)。
 また、米国カリフォルニア州の大学で、修士号取得を目指す企業の研究者等を対象に実施して遠隔講義を双方向化する実験が、現在行われている例がある。
 (通信衛星等を利用遠隔操作による学習)
 公的機関・民間企業等が共同で1989年に設立した団体により、通信衛星等を利用した双方向の遠隔学習のプログラムが提供されている。これまで提供されたプログラムには、海中生物の学習、アフリカの風俗・習慣の学習等がある。例えば1993年3月の海中生物の学習では、海上の船とケーブルで結ばれたロボットが海中約1マイルに沈められ、そのロボットが撮影した海中の映像が通信衛星を介して米国・カナダ・イギリスをはじめとする5か国(地域)の博物館・大学・研究機関等に設置された専用端末及びディスプレイに映しだされた。この専用の端末には海中のロボットを遠隔操作するためのコントロールレバーが装備されており、学習者は自分の見たい場所にロボットを移動して、好きな方向・角度から海中の生物を見ることが可能であった(第3-2-8図参照)。
 (ウ)  調査・研究
 (通信衛星等を使ったロボットの遠隔操作とバーチャル・リアリティ技術を利用した高度な調査・研究の実施)
 米国のNASAでは、将来の火星探索に有効な技術をテストするため、カリフォルニア州の研究センターからロボットを遠隔操作し、火山や海底等の調査をする実験が行われている。例えば、1993年10、11月に行われた南氷洋の海底調査では、南氷洋の海底ロボットから、通信衛星等を介して、位置情報やビデオ画像データが研究センターに伝送され、これを基にコンピュータが海底の様子を立体的にディスプレイ上に表示した。このシステムにより、研究者は海底にいるような感覚で海底ロボットを操作し、海底生物の採取を行うことが可能であった。

第3-2-5表 欧米における主なビデオ・オン・デマンド実験

第3-2-6図 ビデオ・オン・デマンドのイメージ図

第3-2-7図 光ファイバーや通信衛星を利用した双方向の遠隔教育システムのイメージ図

第3-2-8図 通信衛星等を利用した遠隔操作による学習システムのイメージ図

 

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