平成6年版 通信白書

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第3章 マルチメディアが拓く情報通信の新たな世界

(3) 社会目標への貢献に向けて

 ア 21世紀に向けた社会目標への貢献
 このように情報通信のマルチメディア化の進展は社会経済の各分野に様々なインパクトをもたらすが、21世紀に向けた社会目標に照らすとつぎのような貢献が期待される。
 (ア)  個性や感性が尊重される環境の実現の促進
 情報通信ネットワークを介して、個性や関心に応じた情報の受発信や地域、国境や世代の制約のない個人の個性や関心に根ざした交流が可能となるとともに、個性・能力を伸ばし、興味・関心に応じた教育や学習を実現するなど、画一性・効率性の重視から個性や感性が尊重される環境の実現に寄与する。
 (イ)  生活の真の豊かさの実現
 家庭にいながらにして様々な情報を、求める形態・詳しさで入手したり、家庭内であたかも海外などの別世界にいるような非日常体験を楽しむことが可能となるとともに、情報通信ネットワークを介して、消費者と生産者が直結することにより、消費者ニーズへのきめ細かな対応が可能となり、消費者の商品選択の幅が広がるなど生活の真の豊かさの実現に貢献する。
 (ウ)  潤いある高齢化社会への貢献
 高齢者が情報通信ネットワークを介し、離れた家族との団らんや遠隔地との交流を楽しんだり、家庭で手軽に学習できるようになるとともに、遠隔医療・介護により、家庭で高度な医療福祉サービスを受けられるようになるなど、高齢者が健康で心豊かに毎日を過ごすことができる潤いある高齢化社会の実現に貢献する。
 (エ)  経済の持続的発展への貢献
 テレショッピング・ソフト配信等多様なニュービジネスが21世紀を担う新たな産業として展開し、大きな雇用や市場が創出されるとともに、生産・販売等企業活動の様々な分野へのマルチメディアの活用が進むことにより、我が国の経済の持続的発展に貢献する。
 (オ)  地域の特色を活かした均衡ある発展と地域間格差の是正の促進
 情報通信ネットワークを介して、地域の生産者と消費者が直結することにより、地域の特色を活かした産業がさらに発展し、また、遠隔勤務の普及による地方への定住の増加や企業立地の分散化が進むことにより各地域の活性化が図られるとともに、情報通信ネットワークを介した医療福祉サービスや教育サービスの提供により、地域間の格差の是正が促進される。
 (カ)  ボーダレス化への適切な対応
 お互いの意志疎通や交流が一層緊密に行うことができるようになり、情報通信ネットワークを通じた個人レベルの国際交流が盛んになるとともに、企業の有機的な国際活動が活発になり、ボーダレス化への適切な対応に貢献する。
 (キ)  環境にやさしい社会の形成への貢献
 遠隔勤務・サテライトオフィス・遠隔協同作業等がさらに普及することにより、通勤、出張等人間活動に伴う人や物資の移動の情報通信への代替が進み、交通や物流に伴う二酸化炭素、窒素酸化物等の発生が抑制され、地球環境の保全に貢献する。
 イ マルチメディア化の進展のための諸条件
 以上のように情報通信のマルチメディア化が社会経済の各分野に様々なインパクトをもたらし、真に豊かな社会の実現に貢献するためには、アンケート結果によると特につぎのような諸条件の整備が重要であると考えられている(第3-1-5図参照)。
 (ア)  21世紀に向けた新しい情報通信基盤の整備プログラムの策定
 新世代の情報通信基盤の整備に関し、整備目標や情報通信ネットワークの在り方等の整備プログラムの策定が重要になっている。
 (イ)  高速・大容量の光ファイバ等の情報通信基盤の整備
 情報通信ネットワークを通じて、いつでも、どこでも、文字・図形・音声・データ・映像等の様々な表現メディアを統合的・一体的にやりとりできる環境を実現するためには、映像等の大量のデジタル情報をリアルタイムで送受信することができる高速・大容量の光ファイバ・広帯域無線システム等の情報通信基盤の整備が必要である。
 (ウ)  誰でも使いやすいヒューマンインターフェイスの開発
 映像をはじめとする様々な形態の情報の容易な発信、情報通信ネットワークを利用した膨大な情報のなかからの関心に応じた情報の取得等を可能とするには、電子秘書・音声入力・メディア変換等優れたヒューマンインターフェイスの開発・実用化が必要である。
 (エ)  ニーズに適応したアプリケーションの開発
 現在、様々なアプリケーションが想定されているが、マルチメディアが社会の各分野で利用され、定着するためには、各分野における人々のニーズに対応した魅力あるアプリケーションの開発が必要である。
 (オ)  ソフトの利用を円滑にするための知的所有権の整備
 情報通信ネットワークを通じて様々なソフトの流通・利用が行われ、情報の統合的処理・加工を活かした新たなソフトの創造・流通をなされるためには、権利の適切な保護を図りつつ、円滑な権利処理が行われる必要がある。
 (カ)  社会の諸分野における制度の整備
 マルチメディア化の進展により、多様なサービスが開発され、流通・医療・教育・行政等様々な分野で利用が進むと考えられるが、各分野の制度は必ずしも情報通信の利用を想定していないものがみられる。このため、各分野でこれらのサービスが円滑に利用され、そのサービスの普及が促進されるよう、制度の整備が必要である。
 また、情報通信ネットワークを介した交流やテレショッピング等のサービスの進展に伴い、郵便や物流の役割が高まっていくと考えられ、より高品質なサービスが求められよう。
 (キ)  通信料の低廉化/料金体系の整備
 文字・図形・音声・データ・映像等様々な形態のサービスが日常的に利用できるように、通信料金の低廉化が必要であり、また、遠隔医療・遠隔教育・テレショッピング等の大量の映像情報によるサービスを容易に利用できるようにするための料金体系の整備が必要である。
 (ク)  家庭用端末機器の低廉化
 家庭においてマルチメディアの利用が進展するためには、家庭用端末機器の低廉化が必要である。
 (ケ)  社会通念の変革
 このような条件のほかにも、21世紀に向けたマルチメディア化の進展のためには、長期的な課題として、現在の社会通念の変革が必要である。
 例えば、サテライトオフィスの導入や在宅勤務により、リアルな疑似的空間での協同作業が可能となるが、この勤務形態がさらに普及するためには、仕事の成果よりも勤務時間を重んじたり、大部屋で顔と顔を突き合わせた仕事や対面での交渉を重んじる現在のワークスタイルの変革が必要である。
 また、現在はデータベースに蓄積された情報やディスプレイ上の情報よりも、紙に記載された情報を信頼したり、便利に感じる意識が強いが、情報通信ネットワークを利用して、欲しい情報を、欲しい形態で入手し、加工・処理し、発信するという環境を可能にするためには、人々が様々な情報をデジタル情報として作成し、蓄積し、発信することが必要であり、紙以外には信頼性を置かない意識の変革も必要となろう。
 また、マルチメディアの利用は、人々に大きな便益をもたらす一方、利用の如何によっては、大きな社会問題を生じるおそれがあることが、アンケートでも指摘されているところであり、その解決のための適切な対応が必要となってくる。
 (コ)  プライバシーの保護、情報のセキュリティの確保
 将来においては、外出先から、自宅の様子を確認したり、自宅の端末の電子秘書に必要な資料やメールを転送させることができるようになるなど大きな便益をもたらすが、反面情報通信ネットワークを通じた侵入が行われ、家庭の様子を覗かれたり、端末内の個人情報を引き出され、プライバシーが侵害されるおそれがある。
 このため、マルチメディア化の進展に当たっては、プライバシーの保護やセキュリティを確保できる機能の開発が必要である。
 (サ)  情報通信ネットワークの信頼性の確保
 将来においては、ホームショッピング・生涯学習・在宅診断・在宅勤務等が生活において日常的に行われ、情報通信ネットワークが現在の水道や電気と同様に生活に欠かせないライフラインとなり、また家庭内の端末や企業・官公庁のデータベースには現在とは比較できないほどの大量かつ重要な情報が蓄積されることとなると考えられる。
 このような環境の下、ひとたび地震等の災害により、情報通信ネットワークや各種データベースが被災すると、人々の日常生活や企業活動は直ちに麻痺してしまうおそれがある。
 このため、将来においては、現在の情報通信ネットワークよりも一層の災害等に対する信頼性の確保が必要であり、データベース等についても情報のセキュリティに加えて、非常時のバックアップの確保が必要である。
 (シ)  情報利用弱者の生じないメディア環境の構築
 高速・大容量の情報通信基盤の整備により、多様な情報を受発信できる高度なメディア環境が実現すると考えられるが、例えば求める情報に対するナビゲーション機能が発達しない場合、情報通信の利用に秀でた者は、欲しい情報を多様な表現形態で、容易に入手することができるが、そうでない者は情報通信ネットワーク上に多数の各種データベースが整備されていても、求める情報を入手することが現在以上に困難になってしまう。
 また、サービスの料金や機器の価格如何によっては、マルチメディアによる便益は一部の者しか享受できない結果となりかねない。
 このように情報利用に関する個人間の格差が増大するおそれがあることから、誰でも使いやすいヒューマンインターフェイス技術の開発、様々なサービスを誰でも簡便に利用できるためのサービス間の利用の仕方の類似化・共通化、生活上必要なサービス等の料金の適切な設定など、情報利用弱者の生じない対策が必要となる。
 (ス)  マナーやルールの確立
 現在パソコン通信が急速に普及して、様々なフォーラムが開催されて情報通信ネットワークを通じたコミュニケーションがさかんに行われているが、中には誹謗中傷の発言が繰り返され、閉鎖される例もみられるようになってきている。
 21世紀においては、ますます情報通信ネットワークを通じた不特定多数の者どうしの交流がさかんになる一方、表現形態の高度化等により、使い方によっては誹謗等がひどくなり、情報通信ネットワークが利用者にとって不愉快な場になってしまうおそれもある。このため、マルチメディアの利用に当たっては、現在の電話やパソコン通信の利用以上の高いマナーが求められ、利用者相互間の社会的ルールの確立も必要となろう。

第3-1-5図 マルチメディア化の進展のための諸条件

 

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