平成6年版 通信白書

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第2章 情報通信政策の動向

(2) 欧州

 ア ドイツ
 ドイツ(旧西ドイツ)では、1989年の第1次郵電改革により、従来の郵電省を行政部門と事業部門に分離し、事業部門は、テレコム、ポストサービス、ポストバンクの3つの公共事業体に分割されるとともに、電気通信市場の再編成が行われ、ネットワーク・インフラにおいてはドイツテレコムの独占を維持するものの衛星通信と移動通信に関しては競争を導入、サービス、端末分野においては競争を導入するものの、例外的に電話サービスについてはドイツテレコムの独占を維持した。また、ドイツテレコムは、基本的に電気通信事業を独占的に運営するとともに、ケーブルテレビ伝送についても、ケーブルを一元的に敷設・運営している。通信とケーブルテレビの各ネットワークは、現在別個に敷設されているが、今後は幹線部分は光ファイバ化し共有する予定である。
 なお、第2次郵電改革の一環として、現在、ドイツテレコムの民営化が検討されており、1994〜1995年に民営化、1996年に株式の一部市場放出が予定されている。
 (ア)  情報通信基盤整備
 東西ドイツの統一に伴い、旧東ドイツ地域の情報通信インフラ整備がドイツの喫急の課題となっており、ドイツテレコムでは、「テレコム2000」計画により1997年までに旧西ドイツの通信・ケーブルテレビの水準に引き上げることを目標に、総額 600億マルクを投じ、旧東ドイツ地域の電気通信インフラを整備し、また、1995年までに 120万世帯に通信・ケーブルテレビ共用の光ファイバ網を普及させる計画である。
 (イ)  情報通信基盤整備に向けた実験プロジェクト
 ドイツでは、情報通信インフラを社会活動を支える最も基本的なインフラの一つとして位置づけており、1980年代から市内網と市外網の双方で光ファイバを利用した研究開発に積極的に取り組んでいる。
 (BERKOMプロジェクト)
 広帯域ISDNのアプリケーションと端末システムの開発促進等を目的に、1986年から総額約3億マルクをかけてベルリンで行われている。
 ドイツテレコムの子会社DeTeBerkomが中心となり、各種実験に取り組んでおり、特に、遠隔医療、テレパブリッシング、オフィスコミュニケーションの3分野のアプリケーション開発に力を注いでいる。
 (OPALプロジェクト)
 光ファイバの早期提供のため、1990年からケルンなどの7都市で実施さている加入者回線に光ファイバを利用した通信・ケーブルテレビ網の試行プロジェクトで、ネットワークの形態、コストなどについての実験が行われている。
 (広帯域ISDNパイロットプロジェクト)
 ドイツテレコムでは、広帯域ISDNのサービスとアプリケーション、技術及びネットワーク運営の各分野における経験を得るため、ベルリン、ハンブルグ、ケルン/ボンを結んだパイロットネットワークを導入する広帯域ISDNパイロットプロジェクトを1994年から実施している。
 利用者としては、事業所の分散した企業や生産過程の分散している企業の他、学術研究機関、医療機関等を想定している。
 イ 英国
 英国政府は、1991年3月に発表した白書「競争と選択:1990年代の電気通信政策」で、BT、マーキュリーによる複占を見直し、電気通信全分野において新規参入を促進する方針を打ち出した。特に、ケーブルテレビ事業者の電話サービス提供に関する規制緩和を行う一方、BTのケーブルテレビ提供を当面制限することにより、加入者網の競争促進策をとっている。
 (ビショップ・ストートフォードでの実験)
 BTはビショップ・ストートフォードにおいて、実験のためのケーブルテレビ事業を行う特別免許を1989年に付与され、1990年から1993年まで、同地域で光ファイバを用いた21世紀の商用通信システムのためのデータ収集を目的に実験を行った。
 実験内容は、光ファイバを利用して合計301の事業所と住宅に電話サービス、ISDN等の狭帯域サービスとケーブルテレビ、ステレオPCM放送、ビデオテックス等の広帯域サービスを単一ネットワークで提供するものである。
 BTの今後の光ファイバ敷設計画は、娯楽サービスの伝送が認められていないことから、当面銅線よりもコストメリットがある場合に限って更新敷設する計画である。
 (ビデオ・オン・デマンド・サービス)
 1991年「白書」は、ケーブルテレビ事業者を保護するために、今後10年間はBTによる娯楽サービスの伝送を認めない等の方針を打ち出したが、独立テレビ委員会は、1993年9月に「ビデオ・オン・デマンドは娯楽サービスに該当せず、したがってBTは現在の規制下でも一定の条件の下にビデオ・オン・デマンドを提供できる」との見解を示した。
 BTでは、これを受けて1994年中に約2500世帯を対象にビデオ・オン・デマンドの実験を実施する予定である。
 ウ フランス
 フランスは、端末機器(1985年)、VAN(1987年)の自由化及び移動通信部門への競争導入(1989年)を行っている。
 1990年には、電気通信公共事業体法が制定され、フランステレコムが郵電省から分離され、1991年には、経営の自主性を持った公共事業体として発足した。
 1991年に電気通信事業規制法が制定され、公衆網はフランステレコムの独占とするが、公衆無線網、基本データ伝送は全国サービスの提供義務等の認可約款の遵守義務と認可を得ることで競争に開放する、ケーブルテレビは認可制とするなど自由化措置を行った。
 現在は、1998年のEU域内音声自由化及び国際通信市場での競争激化に対応するため、フランステレコムの民営化が検討されている。
 (ア)  情報通信基盤整備
 移動体通信等を除き通信事業分野を独占しているフランステレコムは、早くからネットワーク整備に取り組んできており、1987年にISDNの商用サービス「ニュメリス」を開始している。デジタル化も世界で最も普及している(交換機83%、市外伝送88%、市内伝送ほぼ100%)しており、光ファイバは中継機で1万700km、加入者系で1万2000km敷設されている(1992年現在)。
 フランスの光ファイバケーブルテレビ計画は、1982年からプランカーブル計画としてスタートし、国内の約50都市で光ファイバを使ったケーブルテレビ網の建設及び運営が始まっている。フランステレコムがケーブルテレビ網を建設し、各都市がフランステレコムから回線を借り受けてケーブルテレビ事業の運営を行うという形を取ったため、経営を軌道にのせることができなかったため、1986年に同計画の見直しがなされ、各地区の運営は次第に民間系のケーブルテレビ会社に移行している。
 (イ)  情報通信基盤整備に向けた実験プロジェクト
 フランステレコムでは、光ファイバの普及に向けて各種の実験プロジェクトを行っている。
 (Brehat(ブレア)プロジェクト)
 1990年から開始されたATM実験プロジェクトの一つで、34Mb/sでのテレビ会議、映像伝送及びLAN間接続を主な目的としたシステムにより、フランス全土をカバーするネットワークとして、実験が行われている。本プロジェクトは、欧州18か国が参加するATMパイロット計画へと発展しつつある。
 (Renater(レナテール)プロジェクト)
 1992年から行われている34Mb/sでフランス国内の 200地区にある教育・研究機関の 700のLANを接続するプロジェクトで、主にテレビ会議、共同研究作業、遠隔教育に利用されている。1994年にはATM交換機により140Mb/s の高速サービスが提供される予定であり、スイスの学術機関と結ぶBetelネットワークへと国境を越えて発展しつつある。
 (一般家庭でのFTTH利用実験プロジェクト)
 1994年から、フランス国内の4地域で、FTTC、FTTB、FTTHの各システムにより試行実験が行われる予定である。プロジェクトの目的は通信と放送のマルチサービスを一般家庭に提供することにある。
 エ EU
 1993年1月、EU統合市場がスタートしたが、この人、物、サービス、資本の移動が自由なEU共同市場を完成するために、欧州電気通信の強化が重要な要件の一つであるとの認識がある。
 EUでは、これまでは基本サービス(音声電話サービス)提供についての主管庁の排他的権利を認める一方、基本サービス以外のサービスの提供については自由化すべきとしていたが、1993年4月には、「1998年までに域内音声音声電話サービスの完全自由化」を打ち出している。
 (ア)  情報通信基盤整備
 (TEN構想)
 汎欧州ネットワーク(TEN;Trans European Network)は、1987年に調印された「単一欧州議定書」で打ち出された構想で、運輸、エネルギー、電気通信のインフラ分野でEU全域にまたがるネットワークを構築しようとするものであり、そのプログラムとして、EDI(電子データ交換)、ISDNが検討されている。
 また、最近の提案では、汎欧州ネットワークとしてのISDN(TEN-ISDN)を推進するために、ユーロISDNに関する官民アプリケーションの結集、ユーロISDN端末利用の促進等について、検討・開発を行うためのプロジェクトを設けることとなっており、EUの資金援助(利子補給、債務保証)が検討されている。
 (成長、競争力と雇用に関する白書)
 深刻な不況と増大する失業に直面している欧州経済の再建策を協議するため、1993年12月欧州委員会から、EU首脳会議に、「成長、競争力と雇用に関する白書」が提出され、EU債発行等の予算関係部分を除き、採択された。
 白書のなかで、特に「産業競争力強化のためには社会基盤整備が不可欠」として、交通、通信などの分野における汎欧州ネットワークの整備が必要とされており、これらの汎欧州ネットワーク整備のため、1994年〜1999年の6年間に毎年200 億ECU、計1200億ECUをEUが投資すべきと提案されており、通信分野では総合デジタルネットワークを含むインフラの構築、データベースなどのサービスの開発、テレワーキングなどのアプリケーションの開発促進を含んだ「インフォメーション・ハイウェイのシステム」の構築を提示している。
 (インフラ整備計画の策定)
 欧州委員会は、1995年1月までに電気通信インフラ及びケーブルテレビネットワークの将来政策に関するグリーンペーパーを発表する予定である。
 1993年6月に理事会が発表したEUの電気通信政策の将来に関する声明では、「1995年1月までに電気通信インフラとケーブルテレビの分野における将来のEU政策を開発し(短期的政策目標)、その結果出されるグリーンペーパーを受け、広範な協議を行い、将来のEUの電気通信インフラ政策を策定(長期的政策目標)」することとしている。
 (イ)  情報通信基盤整備に向けた研究開発プロジェクト
 RACE(Research and development in Advanced Communication in Europe)計画は、統合広帯域通信網(IBC)をEU全域に構築すること及び統一規格に基づく電気通信設備及びサービス市場を構築することにより、EU市場統合の促進を図ることにある。RACE計画は1987年に開始され、この最初のプロジェクトはRACE-1と呼ばれており、現在は、RACE-2計画(1991年〜1995年)が実行に移されており、統合広帯域通信、インテリジェントネットワークの研究開発を推進している。
 

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