平成4年版 通信白書

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第3章 ゆとりと活力のある情報社会の形成と電波利用

(2)電波の有効利用技術開発の促進

 ア 狭帯域化による周波数の効率的利用
 使用する電波の占有帯域幅を狭くすることにより、限られた周波数の帯域の中で、より多くの通信を可能とする周波数有効利用技術を狭帯域化(ナロー化)技術という。例えば同じ帯域で占有帯域幅を半分にすれば従来の倍のチャネルが確保できることになる。ナロー化の実現には、隣接する無線チャネルに妨害を与えないようにするための送信機及び受信機の周波数安定度の向上が必要である。これまで、移動通信では各種事業用、MCA無線用、自動車電話用等に使用されるVHF、UHF帯(150MHz帯、400MHz帯、800MHz帯)のナロー化を行っている。
 イ デジタル化による周波数の効率的利用
 従来のアナログ方式に比べ、品質が高く非音声系のサービスにも親和性のあるデジタル方式の検討が進められている。デジタル化はLSI化による端末・基地局設備の小型化、省電力化またTDMA方式を積極的に活用した周波薮の有効利用の点でも有利である。
 ウ 小ゾーン方式などの空間的な周波数の効率的利用
 電波の特性として、同じ場所で、同じ周波数の電波を使用すると混信してしまう。それで、空間をゾーンに区切って同じ周波数どうしが隣り合わせにならないようにして、いくつかの周波数を繰り返し使用する方式を小ゾーン方式という。周波数の利用効率からすると、一つのゾーンを小さくし、全体のゾーン数を多くするほど周波数の利用効率は高くなるが、ゾーンの数を増やすと、それだけ多くの基地局を設置しなければならないほか、移動中に多くのゾーンを通過するため、通信を連続するためのチャネル制御が難しくなる。現在、自動車電話では、加入台数の増加の著しい首都圏など大都市部を中心に小ゾーン化を進めているほか、将来はマイクロゾーン方式のパーソナルポケット電話の実用化も考えられている。
 エ 周波数を共用する時間的な周波数の効率的利用
 限られた通信用のチャネルを多数の無線局が共同で利用するための技術で、代表的なものにMCA(マルチチャネルアクセス)技術がある。MCAは、通信の都度、いくつかあるチャネルから、空いているチャネルを自動的に選んで使用するものである。自動車電話、MCA陸上移動通信システム、パーソナル無線、コードレス電話など幅広く用いられているが、今後とも防災行政無線や公共分野の業務用無線等への普及を図る必要がある。
 オ 衛星通信における周波数、軌道の有効利用
 地上回線との干渉を避けるため、地球局の設置の難しい場合がある。地球局のアンテナの指向特性の改善、スペクトラム拡散方式の実用化等により、地上回線との周波数共用条件を緩和し、地球局の設置を容易にする技術の開発が必要である。また、有限な資源である通信衛星の静止軌道位置の間隔縮小のための技術開発も必要である。
 力 放送の多重化技術、同期放送技術
 多重放送は、テレビジョン放送等の電波に異なる信号を重畳して放送するもので、音声多重放送及び文字多重放送が実施されているほか、ファクシミリ多重放送、データ多重放送等の導入が検討されている。多重放送技術は電波の有効利用に貢献するばかりではなく、放送受信端末のマルチメディア化にも有効である。
 同期放送は、隣接する放送局で同一の周波数を利用して放送する技術であり、高度に正確な周波数管理技術によって可能となった。従来、周波数不足のため中継局を設置できなかった地域に中継局を設置して受信状態の改善が図れるだけではなく、カーラジオのように複数の放送区域を横断しながら同一番組を楽しむ際に、同調をやり直すといった煩わしさを解消できる利点もある。現在中波ラジオ放送とテレビジョン放送で実現され、FM放送についても導入が検討されている。
 キ インテリジェント電波利用技術
 これまで述べてきた個々の電波利用技術に最新のAI技術を組み合わせ、利用環境や条件の変化に柔軟に対応させることによって、一層周波数の利用効率を高めようとする技術がインテリジェント電波利用技術である。現在、郵政省が検討を進めているインテリジェント電波利用は、AI技術を利用して、固定通信の回線の信頼性を増加させたり、移動通信利用者の混み具合により、基地局のチャネル、送信電力、ビームなどの形を自由に変えることによって、周波数の利用効率を大幅に引き上げようとするものである。

 

 

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