平成5年版 通信白書

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第3章 映像新時代を迎える情報通信

(3) 映像ソフトの流通動向

 ア 映像ソフトの利用拡大
 近年、ある目的や企画に基づいて制作されたひとつの映像ソフトが、当初の目的のみならず、様々に二次利用されている。
 映画ソフトを例にとると、第3-2-11図のように、本来劇場で上映することを目的として制作された映画が、ビデオソフトとして流通したり、ケーブルテレビや衛星放送等のテレビで放送された後、地上波テレビジョン放送で放送されるなど、多目的に利用されている。
 放送においては、昨今、放送番組を当初の目的以外の場で利用すること、例えば、ケーブルテレビへの番組の供給、ビデオソフトとしての販売、放送番組の収集保存を行うライブラリー等への番組の納入を行うなどの二次利用がみられる。
 そもそも映像ソフトには、多数の著作物が利用されており、二次利用を行う場合には、著作権等に配慮しつつ、メディアの多様化等に対応した適切な権利処理の在り方について、十分な検討が望まれているところである。
 映画は、原則として映画の全体的形成に創作的に寄与した者(制作、監督、演出、撮影、美術等を担当した者)の共同著作物であり、これらの者が、その映画の著作者ということになる。しかし、著作権法第29条第1項において、著作者が映画会社やプロダクション等の映画製作者にその映画の製作に参加することを約束していれば、著作物たる映画の利用を許諾する財産的な著作権(複製権、上映権・頒布権、放送権・有線送信権等)は、映画製作者に帰属するものとされている。
 また、俳優や歌手、演奏家といった実演家は、その実演について録音・録画権や放送権・有線送信権などの著作隣接権を有している。ただし、映画への録音・録画の許諾をした後における当該映画の利用の際には、原則として、実演家は著作隣接権を行使できない状況にある。
 一方、放送番組は、通常、小説や脚本、音楽、写真等の著作物に対して、放送のための権利処理しかなされていない場合が多い。その場合、ビデオ化等の二次利用の際には、利用のたびに著作権者等に個別の許諾を得る必要がある。
 ただし、この点については、放送事業者において、放送番組の円滑な利用を図るべく、予め二次利用を想定した権利処理を行ったり、権利者団体等との間で包括契約を締結するなどの方法により、権利処理手続きの簡素化を図っている例もある。
 今後は、著作権等の保護に十分配慮した上で、映像ソフトの利用の多様化に伴う適切な権利処理の在り方について、十分な検討が望まれるところである。
 イ 映像ソフトの輸出入の動向
 多メディア・多チャンネル化の進展により、放送分野においても映像ソフトに対する需要が急速に増大し、映像ソフトの購入をめぐる企業活動が活発化している。
 そこで、映像ソフト(映画、テレビ、ビデオ)の国際収支をみると、3年度の映像ソフトの国内輸入状況は、「映画フィルム」と「フィルム賃貸料」を合わせておよそ約 518億円の輸入となっている。
 輸入額については、元年度以降、減少しており2年度の輸入実績が約 639億円(対前年度比23.4%減)、3年度は対前年度比 18.9 %減となっている(第3―2-12図参照)。
 一方、映像ソフトの輸出状況をみると、「映画フィルム」が3年度で約3億円、「フィルム賃貸料」が日本銀行の推計によると、約 189億円の輸出と合計約 192億円の輸出となっており、映像ソフトの国際収支は、3年度で約 326億円の輸入超となっていることがわかる。
 映像ソフトの輸出額は元年度約59億円、2年度約68億円、3年度約189 億円と元年度以降増加を続けているが、これは外国から購入した版権を二次利用として他国に販売するケ-スが増加してきたことによるものと思われ、自国の文化の輸出とはなっていない。
 映像ソフトの輸出入に関する諸外国の現状をみると、フランスの調査機関IDATEによれば2年のEC諸国の映画・TV・ビデオソフトの対米輸出額は合計2億 4,700万ドルであったのに対して、米国のEC諸国に対する輸出額の合計は37億 8,200万ドルとなっており、EC諸国では、外国製のソフトが大量に流入していることがうかがえる。そのため、EC諸国では自国製の映像ソフトを保護するための数々の施策が実施されている。
 例えば、ECでは、テレビ・映画産業を統一市場内で制作、流通させ、併せてEC圏外への輸出を促進させる「MEDIA計画」を進めている。
「MEDIA計画」は、基本的には、EC加盟各国の拠出によるEC中央の公的資金で、全体の事業計画の半分を調達し、残りを民間レベルや、個人寄附等でまかなう構想である。それらが「配給」、「制作」、「訓練」及び「資金」の4ジャンルに分かれ、映像の振興策が準備されている。
 また、フランスでは、放送番組制作の規制としてフランス・EC製のソフトを一定比率に割り当てる規制や最低放映時間を定めた規定を採用している。また、映画放映の上限時間数や国・地域割当てを定めた規定も併せて採用しており、様々な側面で放送ソフトの制作能力の向上を図っている。

第3-2-11図 映画ソフトの利用の流れ

第3-2-12図 映像ソフトの輸出入額

第3-2-13表 映像ソフトの輸出入額

 

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