平成5年版 通信白書

本文へジャンプ メニューへジャンプ
トップページへ戻る
操作方法


目次の階層をすべて開く 目次の階層をすべて閉じる

第3章 映像新時代を迎える情報通信

(2) 映像新時代の進展と生活大国の実現

 そもそも映像情報は、ただ単に、映像、音声、文字及び記号等の様々な情報を包括的に伝達するだけではなく、直観的、感覚的な理解を可能とする点において、非常に優れた特性を有している。そして、今日では、文化・風習等を異にする国際間の相互理解を促進させていく観点からの活用も大いに期待されている。また、通信の特性である「時間」と「空間」の克服を一層進展させることが予測されている。この観点からは、テレビ会議等による交通の代替等による省資源や省エネルギーのみならず、サテライトオフィスの普及等による就業環境の改善効果により、今日の最大の課題の一つである「時短」や「省スペ-ス」等の点においても効率化を推進させることが可能になる。そして、それは、生産性の向上に資するばかりか、経済的、時間的及び空間的な余裕の創出に貢献し、ゆとりと豊かさのある「生活大国」の実現に向けた一助となることが期待されている。
 さらに、エネルギー負荷低減の達成により、経済成長と環境との調和の実現に資することが可能であり、このような理由により、映像系情報通信分野に対しては、現在、従来の枠組みを超えた新しい時代への変革をもたらす牽引車としての役割が期待されている。そして、社会のあらゆる側面にその影響は浸透していくものと予測される。
 例えば、今後、様々な教育機関において、自己の考えやイメージを映像によって表現し、説明するなどの映像情報発信能力や映像系情報システムが持つ特徴を十分理解し、その基本的な操作方法を身につけ、特徴に合わせて使いこなすことなどの映像系情報活用能力の育成に取り組むことが必要である。そして、その際、これまでの教育としての基礎的・基本的な部分をおろそかにすることなく、新たに映像系情報活用能力も重要な資質として捉え、学習者の発達段階に合わせて、その育成に取り組まなければならない。
 また、ケーブルテレビ等の発展により、在宅教育システムが普及することも遠い夢ではない。これは、教育情報及び教育環境の全国的な均等化を実現可能にするもので、これからは、各人が、好きな時に、好きな先生の講座を選択、学習できるような環境の形成が可能になっていく。
そして、将来には、情報通信基盤の整備等により、外国の大学の講座を自由に選択するような制度を構築することも十分可能となる。このように、世界の英知を人類が共有していくことも夢ではなくなるであろう。
これは、まさに、日本に居ながら、留学が実現することを意味しているのである。
 さらに、映像、音声、文字、図形等を効果的に活用したマルチメディア技術の教育への応用は、必要な事項を好きな時間に自由自在に検索し、反復学習を容易にする。そして、学習の進度や水準も利用者に最適なものが選択でき、また、教材それ自体が、「わかりやすい」、「興味深い」といった特徴を有する点からも極めて高い効果が期待されている。このように、これまで高度で難解であった学問領域に対する理解を容易にさせることが期待されている点においても、専門的な学問領域の普及を促進させていくであろう。まさに、教育効果の増進及び教育環境の向上等の観点からも、映像系情報通信分野の発展に対する期待が高まっているのである。
 また、医療分野においても、すでに、ハイビジョンを活用した遠隔地医療診断支援システムや在宅医療システムの離島等における実験や一部実用化を踏まえ、全国のどこでも、迅速かつ最新、最先端の医療サービスの提供を実現することが期待されている。例えば、深夜や休日に「子供が突然発病した。」などの状況に対し、家庭に居ながらにして、ケーブルテレビの双方向機能等の活用を通じて、医療支援システムを構築すれば、医師による初期対応等の適切な処置等により、迅速な治療が可能となろう。そして、これは、一人の医師が、広範囲にわたってより多くの患者に接することが可能となることを意味し、福祉の向上のみならず、効率性の観点からも大幅な向上が実現し得るのである。
 さらに、すでにCGやバーチャルリアリティ技術を用いたシミュレーション手術等を行い、事前に治療方法等を確認することにより、手術時間の大幅な短縮を実現するなどの効果がすでに実証されてきている。これが将来、立体映像通信やグループウェア技術等と連動することになれば、その分野の世界的権威との共同作業により、世界最先端の医療サービスの受診が、離島・山村など、どのような場所にいても、生活圏に依存することなく可能になってくる。これは、映像新時代における最大の福音の一つになろう。
 社会参画の機会を向上させる効果としても、高度なコミュニケーション環境と高機能端末等の開発により、在宅勤務等の進展が可能となっていく。このような環境においては、各人にとって最も快適かつ便利な空間として形成されている家庭において勤務や社会活動等への参加が可能となっていく。そして、女性、高齢者及び身体障害者等の社会参画を一層容易にしていくものと考えられる。
 しかも、映像系情報通信分野の発展により、現在、地域間で偏在している情報格差の解消を促進していくことが可能となり、これは多極分散型国土形成に向けた大きな要因となるであろう。このためには、映像データベース等の整備を図り、現在、映像ソフトを所有している映像ライブラリー、図書館及び美術館等をネットワーク化し、現在、全国に偏在している映像資源の有効活用を図ることが必要であろう。また、所在地や所有者等、映像情報それ自体に関する情報の整理を一体となって確立することにより、映像情報へのアクセスの向上を実現することが可能となっていく。もちろん、これは、映像ソフトの円滑かつ適切な権利処理体制の構築と不可分なのは言うまでもない。

 

第3章第4節1(1)現代社会における映像新時代の位置づけ に戻る (3)映像新時代の進展と情報通信環境の変化 に進む