平成5年版 通信白書

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第3章 映像新時代を迎える情報通信

8 技術開発の推進

 (1) 先端的・先導的技術の開発

 ア デジタル化の推進
 デジタル技術は、信号伝送において雑音・ゆがみに強いこと、コンピュータとの親和性が良いこと及び半導体を活用した高集積化による機器の小型化・低価格化が容易なことなどの利点を有しており、アナログ技術に代わって使用されつつある。
 (ア)  通信
 従来(64kb/s)よりも飛躍的に広帯域の伝送路(ユーザー・網インタフェースは 156又は 622Mb/s)を提供するシステムがB-ISDNであり、現在電気通信標準化部門において積極的に勧告化作業が進められている。
ATM交換方式によるB-ISDN実現のための基本的な要素(リソース管理、品質等を除く)がほぼ勧告化され、[1]マルチポイント交換サービス(多地点接続)等の勧告化を6年に、[2]放送型サービス等の勧告化を8年以降に、それぞれ予定している。
 B-ISDNの普及のためには、利用面からの課題も大きく、サービスの研究開発が必要であり、ユーザー参加による実用実験を通して研究開発を進める必要がある。
 関西文化学術研究都市を中心とした京都・大阪・奈良エリアにおいて、6年度から開始される実用実験においては、[1]ハイビジョン映像を用いた利用実験、[2]高速LANを用いた利用実験を行い、ITU京都全権委員会(6年9月)ではB-ISDNの取組状況についてPR等が行われる予定である。
 (イ)  放送
 放送システムにおいても、デジタルVTR、映像特殊効果装置、テレビ方式変換装置等のスタジオ機器及び受信機の各種機能等に、デジタル化技術が広く用いられている。また、衛星放送においても音声情報及びPCM音声放送がデジタル方式によって放送されている。
 郵政省では、テレビジョン放送システムの中で、野外中継等には欠かせない番組素材等の無線伝送について、デジタル技術を活用することにより、品質の向上等を図ることを目的として、4年7月から「番組素材等の無線伝送のデジタル化に関する調査研究会」を開催し、5年3月に、デジタル技術を活用する上での要求条件、技術的条件、今後の課題等について報告書をまとめた。郵政省では、今後、同報告書の指摘を踏まえ、研究開発及び標準化の推進を図っていくこととしている。
 また、衛星放送の電波の余裕部分を利用して、一般の家庭等に各種データを送信するデータ放送の伝送方式等について、電気通信技術審議会において2年6月から審議が進められている。
 想定されるサービス形態としては、ファクシミリサービス(ファクシミリ端末向けに文字・図形情報を送るサービス)、テレソフトウェアサービス(各種ソフトウェアやデータを送信し、受信者が自分のパソコン等に取り込んで利用)等である。実用化の時期は、現在の放送衛星第3号により放送開始できるよう検討を行っている。
 デジタル信号では、映像、音声、データ、制御等が同一の信号として扱えることを利用して、複数のテレビジョン、音声、各種のデータサービス等を一つの電波中に統合して放送するISDB(総合デジタル放送)も検討されている。
 イ 周波数資源の開発
 (ア)  未だ利用されていない周波数帯の開発
 移動体通信分野等において映像伝送等大容量・高速の無線通信を行うためには、広い周波数帯域を必要とすることから、ミリ波( 30 〜300 GHz )、サブミリ波( 300〜 3,000GHz )、光領域等の高周波数帯の開発が重要である。ミリ波、サブミリ波は、構内等の近距離画像通信への利用が期待されており、郵政省では、3年度から5年度までの予定で、ミリ波構内通信システムに関するシステムイメージの明確化等について調査研究中であり、通信総合研究所においても、4年度からミリ波構内通信システムの実現に必要な電波伝搬特性の解明等の研究開発に着手したほか、光領域通信システムの高度利用化等の研究にも着手した。
 (イ)  既に利用されている周波数帯の再開発
 最近では、通信機能を有するマルチメディア対応型の機器も開発されようとしている。将来的には、これらのパーソナル機器を使い、移動体情報通信での画像伝送等の広い帯域を必要とする通信のニーズが顕在化することが予想される。移動体情報通信における画像伝送は、周波数のひっ迫から、これまでに実用化されている準マイクロ波帯(1〜3GHz )以下では、不可能と想定される。このため、既に開発した技術の活用等も勘案し、主に固定通信で用いられている3〜10GHz のマイクロ波帯を移動体通信用に開発することが必要である。郵政省では、近い将来の実用化を目指し、マイクロ波帯移動通信の技術的課題の抽出及びシステムのイメージ等について、4年度から調査研究に着手し、また、通信総合研究所においても、ゾーン構成法等の研究開発を、5年度から行う計画である。
 (ウ)  放送用周波数有効利用技術の開発
 地上波放送は、地域の放送需要や難視聴解消に応えるため、今後も多くの放送局を設置する必要があるが、そのための放送用周波数は非常にひっ迫している。周波数の有効利用を図る手段としてデジタル技術を導入することが有望であり、通信総合研究所においては、デジタル圧縮・伝送技術の研究開発を5年度から10年度まで行う予定である。無線通信部門においても、4年から地上系デジタルテレビジョン放送用の符号化方式の検討が始まっている。
 ウ 光伝送技術の開発
 将来、B-ISDN等の出現により、光ファイバーによる伝送容量の大容量化、低価格化、高信頼化等の技術開発が要求される。
 例えば、B-ISDNのサービス速度 156Mb/s に対して、幹線伝送路の速度はテラビットクラスの伝送方式の開発が必要である。その光伝送方式としては、コヒーレント方式及びソリトン方式等の開発が必要である。また、多重化方式としては、波長多重伝送方式、多値変調方式等を適用したシステムの開発が必要とされる。
 エ 通信衛星によるデジタル伝送技術の開発
 通信衛星においても、将来のB-ISDNへの対応及び映像のデジタル化に対応した、デジタル伝送技術の開発が必要である。郵政省は、通信衛星を使って実験を実施してデジタル映像伝送の研究開発を促進することを目的として、通信事業者、放送事業者、メーカー等を構成員として4年10月に組織された「通信衛星によるデジタル映像伝送実験実施協議会」に参加するなどにより、通信衛星によるデジタル映像伝送の技術開発を推進している。
 オ 臨場感・現実感を高めるための技術開発
 より高度な映像システムを実用化するためには、映像の高画質化に加えて、立体映像通信、バーチャルリアリティ等の臨場感・現実感を高めるための技術開発が求められる。
 (ア)  EDTV
 テレビの高画質化では、現行テレビジョン放送と互換性を保ち、高画質化、ゴースト除去を図る第1世代EDTVが、既に元年8月から放送が開始されている。第2世代EDTVは、一層の高画質化、画面のワイドアスペクト化(9:16)及び高音質化を図るものである。7年からの実用化を目標に、電気通信技術審議会において審議が行われている。
 (イ)  HDTV
 現在のアナログ方式によるハイビジョン放送に比べ、一層の画質の向上を図るため、デジタルHDTV技術の開発等が進められている。3年5月から開催されている「衛星放送技術の長期ビジョンに関する研究会」において、デジタルHDTV衛星放送は、11.7〜12.2GHz (周波数帯域幅27MHz )で行う場合、MUSE程度の画質の放送が行えるか否か現時点では十分な見通しが立たないため、他の周波数帯の開発も含めて検討を行う必要があると報告されている。
 また、同研究会により5年3月にまとめられた報告書では、世界無線通信主管庁会議(WARC-92) で分配された21GHz 帯で行う衛星放送について、2007年をめどに、広帯域HDTVのサービスを開始することが、適当であるとしている。この利点は、解像度が向上する(色や輪郭がくっきりより鮮明に表現)、画面上の速い動きが明瞭に見える(スポーツ中継等で選手の速い動きがはっきり見える)などである。また、この中で、21GHz 帯の開発にあたっては、具体的サービスとして広帯域HDTVのほか、大容量ISDB(70 〜 140Mb/s )を前提すること、高臨場感放送(立体テレビや音響の超ハイファイ化放送等を組み合わせた放送)及び地域衛星放送(21GHz 帯でのアンテナの鋭い指向性を利用して、地域ごとに異なる番組を伝送する放送) 等も提言している。
 郵政省では、この報告を受け、実現のかぎとなる画像圧縮技術等について、研究開発等を推進することとしている。
 さらに、8年度に打ち上げが予定されている通信放送技術衛星(COMETS)において、21GHz 帯を利用した広帯域HDTV衛星放送等の実験を行う計画である。なお、実験の詳細については、現在検討を行っている段階である。
 (ウ)  UDTV
 電気通信技術審議会では、郵政省の諮問を受けて「デジタル映像委員会」を設置し、21世紀を展望した映像技術の発展方向等について審議を行い、5年1月に「21世紀を展望したデジタル映像技術の在り方について」の答申を行った。答申においては、今後の映像技術の発展方向の一つとして、高画質化を挙げている。これは、今後映像技術が、放送のほかに映画、印刷、医療用画像等へ広範囲に応用されることを考慮する必要があるためである。答申では高画質化の目標として、通信、放送、パッケージ(CD-ROM等)等のメディアに共通して適用される走査線2000本レベルの業務用の超高精細デジタル映像システム(UDTV:Ul- tra Definition TV)の技術の完成を2005年頃に実現することが挙げられている(第3-3-4図参照)。
 (エ)  立体映像通信、バーチャルリアリティ通信
 郵政省の特別認可法人である、通信・放送機構において、4年度からホログラフィ技術を用いた高度な三次元立体動画像の通信を可能とする「高度立体動画像通信プロジェクト」の研究開発を進めている。具体的には、入力、表示及び制御技術について研究開発を行っている。
 また、より一層現実感を高める通信を実現するために、バーチャルリアリティ(VR)技術を通信へ応用するなどの研究開発が行われている。
例えば、基盤技術研究促進センターの出資によるエイ・ティ・アール通信システム研究所では、仮想的に設置した会議室に参加者の像を映し込み、遠隔地にいる会議参加者全員が一堂に会した感覚を共有する臨場感通信会議の開発が行われている。

第3-3-4図 映像技術の発展方向

臨場感通信の基礎実験(エイ・ティー・アール通信システム研究所)

 

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