平成7年版 通信白書

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第1部 平成6年情報通信の現況

2 競争促進の経済効果


 昭和60年4月の電気通信事業法及び日本電信電話株式会社法等の施行により、我が国の電気通信事業に競争が導入され、市外通話の料金の低廉化やサービスの多様化等が実現した。また、電話機についても制限が撤廃され、一定の基準に適合したものであれば自由な選択が可能となり、低価格化と多機能・高機能化が促進された。
 ここでは電気通信事業における競争促進等が、通話料金の低廉化及び電話機の価格低下を通じてもたらした経済効果を定量的に測定するとともに、競争促進導入以降の事業者の生産性向上の度合いを測定することとする。
 

(1)  通話料の低廉化の効果


  ア 通話料の低廉化による消費者余剰の増加
 「企業向けサービス価格指数」(日本銀行)でみた国内電話サービスの価格指数は昭和60年を100 とすると5年は88.9である。既に求めた電話サービスの需要関数(第1-2-4-1表参照) を基に、昭和60年第1四半期を基準とした通話料低下から計算された9年間(昭和60年第1四半期から5年第4四半期)の消費者余剰増加の累計額は、約3兆1,500 億円(5年第4四半期価格表示、以下同じ)である。これは5年度末現在の各加入者(総数5,883 万加入)が、9年間にわたり1月当たり約 440円に相当する効用の増加を享受したことになる(第1-2-4-5表参照) 。
  イ 通話料の低廉化による消費者物価等への影響
 「企業向けサービス価格指数」(日本銀行)等から推計した5年の我が国の電話サービス(国内電話サービス及び国際電話サービス)価格は昭和60年を100 とすると、87.2に低下しており、これをGDPデフレータで除した相対価格でみると78.3である。
 また、米国においては同期間の電話サービスの価格指数は上昇しているが、相対価格では82.5と我が国同様低下している(第1-2-4-6図参照) 。
 電話サービス価格の低廉化は直接・間接的な波及効果により、電話サービスを利用する産業の生産者価格を引き下げ、更に生産者価格の低下を通じて消費者物価を引き下げる効果がある。
 各産業において1単位の財・サービスを生産するために投入される財・サービスの構成が9年間一定として、電話のサービス価格(相対価格)の低廉化による生産者価格及び消費者物価への影響をみると、我が国では生産者価格の引き下げ効果は0.30%、消費者物価の引き下げ効果は0.33%、米国ではそれぞれ0.38%、0.38%である(第1-2-4-7図参照) 。すなわち、我が国では昭和60年以降の電話サービス価格の低廉化により、昭和60年に比べて5年の生産者価格を0.30%、消費者物価を0.33%引き下げる効果があったことになる。生産者価格、消費者物価の引き下げ効果とも米国がやや大きいが、これは、米国産業では電気通信産業への依存度が大きく、産業全体で1単位の財・サービスを生産するための電気通信サービス投入量が、日本より多いためである(米国0.0106、日本0.0052)。
 

(2)  電話機の価格低下による消費者余剰の増加


 「物価指数月報」(日本銀行)から算出した電話機の価格指数は昭和60年を100 とすると、5年では72.3に低下している。昭和60年第1四半期を基準とした価格低下による9年間(昭和60年第1四半から5年第4四半期)の消費者余剰増加の累計額を計量する。
 「機械統計月報」(通商産業省)の販売金額等から推定された電話機の需要関数は第1-2-4-8表 のとおりである。
 この需要関数を基に計量した、電話機の価格低下による9年間の消費者余剰増加の累計額は約4,500 億円(5年第4四半期価格表示、以下同じ)であり、9年間で5年度末の各世帯が、約1万円に相当する効用の増加を享受したことになる(第1-2-4-5表参照) 。
 

(3)  事業者の生産性向上に対する効果


 我が国の第一種電気通信事業者について、昭和53年を100 として雇用者一人当たりの生産額(昭和60年価格)の推移をみると、3年には昭和53年の約3倍に増加している(第1-2-4-9図参照) 。雇用者一人当たりの生産額の年平均増加率は、昭和53年から昭和60年までの7年間が7.4 %であるのに対し、昭和60年から3年までの6年間が10.3%と2.9 ポイント上回っており、技術の進歩とともに電気通信事業における競争促進の効果が生産性の向上につながったものと考えられる。
 特に、NTTについては、以下で「総生産性指数」を用いて生産性向上の状況をみることとする。
 NTTは労働、資本等の生産要素を投入し、電話サービス、専用線サービス等を提供(産出)している。全投入物(サービス)指数に対する全産出物(サービス)指数の比が「総生産性」であり、昭和55年の総生産性を1とした「総生産性指数」は、ほぼ一貫して増加傾向にある。
 昭和58年を基準に総生産性の増加率をみると、昭和36年から昭和58年までの22年間が年平均3.5 %であるのに対し、昭和58年から3年までの8年間では年平均3.9 %と0.4 ポイント上昇しており、特に昭和58年から昭和62年の4年間については年平均7.2 %と大きく上昇している(第1-2-4-10図参照)。
 昭和58年から昭和62年の総生産性の大幅な増加の要因の一つとして、昭和57年における電気通信事業の自由化及び電電公社改革に関する報告・決定、昭和60年以降の各施策の実施による競争促進の効果が現れたことが考えられる。
 我が国の電気通信産業の生産性を国内各産業及び主要各国の電気通信事業者と比較したのが第1-2-4-11図 及び第1-2-4-12図 である。
 雇用者一人当たりの粗付加価値額を推計し、昭和60年を100 として産業別にその推移をみると、電気通信産業については一貫して上昇しており、3年には昭和60年の1.79倍に増加している。電気通信産業における労働生産性の上昇率は年平均10.1%であり、製造業の3.0 %、全産業の1.4 %を大きく上回っている。
 また、主要各国の電気通信事業者について、4年(1992年)の雇用者一人当たりの電気通信収入(1992年購買力平価ベース)をみると、我が国はルクセンブルグ、米国、スイス、イタリア、オランダに次いで、OECD加盟24か国中第6位(注) となっている(米国の73.8%)。


第1-2-4-5表 消費者余剰の推計結果

第1-2-4-6図 日米の電話サービス価格指数の推移

第1-2-4-7図 通話料の低廉化による物価引下げ効果

第1-2-4-8表 電話機の需要関数

第1-2-4-9図 第一種電気通信事業者の一人当たりの生産額等の推移

第1-2-4-10図 NTTの総生産性指数の推移

第1-2-4-11図 産業別労働生産性の推移

第1-2-4-12図 主要各国の電気通信事業者の労働生産性
 

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