平成7年版 通信白書

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第1部 平成6年情報通信の現況

3 社会の情報化


 ここでは、社会の情報化について、医療・保健、教育・研究及び行政の各公共的分野に着目し、過去10年間の進展状況を、データにより概観するとともに、郵政省の委託調査を通じて行った取材をもとに、公共的分野における情報通信利用に関する事例を、定量的分析を交えつつ紹介する。
 

(1)  データにみる社会の情報化


 自治省の「地方公共団体における地域情報化施策の概要」により数例を挙げ概観すると、地方公共団体において、医療・保健分野では、保健医療情報システムや緊急通報システム、教育・研究分野では、学校教育支援情報システム、行政分野では、行政窓口サービスオンラインシステムや行政情報提供システムといったシステムの導入が推進されており、過去10年間の運用件数も堅調に増加している(第1-4-1-25図参照) 。
 また、総務庁の「行政機関におけるOA化の推進状況等に関する実態調査」のデータによると、国の行政機関等においても、多機能端末、ファクシミリといった情報通信機器の増加が著しくなっている(第1-4-1-26図参照) 。
 こうしたことから、情報通信システムの整備による業務の効率化・迅速化への取組は、公共的分野においても積極的に推し進められていることがうかがえる。
 

(2)  具体事例にみる社会の情報化


  ア 医療・保健分野-その1
 広島県福山市の脳神経外科専門病院では、CT画像伝送システムを用いた頭部疾患患者への診断支援の効率化を図っている。
 同病院は、昭和51年の開業当初から、周辺地域の医療機関からの頭部疾患患者の救急処置についての相談や、転院の受入れを行っていた。昭和53年に頭部CT装置を初めて導入したが、周辺地域の医療機関にも頭部CT装置又は全身CT装置が普及してきた昭和50年代後半には、患者のCT画像の状態を電話でやりとりしながら、処置について協議するようになった。しかし、周辺地域の医療機関では、脳神経外科の専門的立場からのCT画像による状況判断が困難なため、疾患の程度に関わらず転院させざるを得ない患者が増加し、真に転院が必要な患者に対する迅速な処置が困難な状況となっていた。
 このため、状況判断の正確化及び迅速化を図るためのCT画像伝送システムが開発され、昭和61年に同病院をセンターとして、3か所の周辺医療機関に導入された。6年12月現在、同システムを導入している周辺地域の医療機関は25か所あり、おおむね広島県内及び岡山県の半径約50km圏を中心に広がっている(第1-4-1-27図参照) 。
 システムの基本構成は、CTスキャナーが取り込んだ頭部の画像を、送信側伝送装置のメモリーに直接記憶し、これを電話回線によって受信側装置に伝送するものである。また、受信側は外部記憶装置として光ディスクファイルを装備している(第1-4-1-28図参照) 。
 なお、6年6月から新たに同システムを導入した5地点の周辺地域の医療機関では、64kb/sのISDN回線とテレビ電話を用いたシステムを導入しており、画像伝送の高速化が図られるとともに、伝送中における医師同士の打合せが可能となっている。
 同病院では、CT撮像を行う外来患者の件数と、当該システムによるCT画像伝送の件数との比率はおよそ5:1となっており、現在までに約2千例の画像伝送が行われている。
 周辺地域の医療機関にとって、同システムによる専門病院との連携は、当直医の急患への対応に際しての負担及び不安を緩和する上でも役立っている。患者の側においても、地域の医療機関の信頼が高まるなどの効果があがっている。
  イ 医療・保健分野-その2
 岩手県釜石市の総合病院では、地元ケーブルテレビ会社の協力のもとに、血圧及び心電図のデータ等の計測による健康管理を在宅のまま行えるサービスを、利用を希望する地域住民に提供している。
 同サービスを行うシステムは、利用者に貸与する計測端末機器、ケーブルテレビ回線(一部地域では電話回線)、病院側通信機器及びコンピュータから構成されている(第1-4-1-29図参照) 。
 計測端末機器は、自動血圧計、心電計、あらかじめ設定した5つの問診項目と医療機関からの連絡事項(ひらがな30字以内)を表示する液晶表示器とメモリ及びケーブルテレビ回線に接続する通信モデムを備えている。
 利用者は、家庭において毎日定時に血圧と心電図を測定し、問診への回答を行う。これにより収集されたデータは、自動的に病院側のコンピュータに送信される。病院側では、1か月単位でこのデータを医師が解析し、診断レポートを利用者あてに送付する。
 2年10月に試作機が完成し、実験を開始した。4年10月には医療機器としての厚生省の認可を受け、本稼働した。
 システム運用開始以来、利用者数は増加しており、7年2月現在、釜石市内を中心に 149名が利用している(第1-4-1-30図参照) 。
 同システムの導入により、病院側では外来診療の効率化が図られている。通信の利用によって、医師が患者の毎日の健康管理データを正確かつ継続的に把握し、より適切な健康管理指導を行うことが可能となり、このことは利用者に対するアンケート結果からもうかがえる(第1-4-1-31図参照) 。
  ウ 教育・研究分野
 神奈川県藤沢市に2年4月に大学キャンパスを新設したある私立大学では、約5千人の学生を擁する同キャンパス内に、データ、音声、画像等の伝送が可能な、キャンパスネットワーク・システムの構築により、学習及び研究を支援する環境を整備し、学内に提供している(第1-4-1-32図参照) 。
 24時間利用可能な同システムでは、電子メール、電子掲示板等が教職員及び学生に開放されており、これによって利用者間のコミュニケーションが図れるほか、オンライン上での文書・統計処理、ソフトウェア開発等が可能となっている。また、通信モデムによるキャンパス外からの接続も可能であるほか、インターネットへ接続されているため、国内外の大学や研究機関とのコミュニケーションも可能となっている。
 教職員及び学生は、キャンパス内のワークステーション(約1千台)から利用するほか、個人所有のパソコン等からも利用できるため、多くの学生がラップトップパソコン等を購入し、同システムを自宅でも大学でも利用している。
 同大学の一研究室を中心とする大学院生を対象に、7年3月に行ったアンケート結果によると、同システムの電子メールの利用によって、研究活動に要する時間が半分以上短縮されたと感じられるのは、問い合わせや情報検索の場合であると回答した利用者が最も多く、58%となっているほか、資料作成、会議及びスケジュール調整等においても、時間短縮効果が少しでもあると回答している利用者がほとんどを占めている。
 一方、研究活動に要する時間が、自宅においては増加したと回答している利用者が50%となっているが、これは同システムが自宅からもアクセス可能であることから、在宅で可能な研究活動の範囲が広がっているためであると推測される(第1-4-1-33図参照) 。
 こうしたことから、同大学において、同システムによるコミュニケーションの活性化に伴う、教育・研究活動の効率化・迅速化が推進されていることがうかがえる。
  エ 行政分野
 千葉県船橋市では、市役所の本庁舎と出張所等とを通信回線によって結び、住民票の自動交付を行うシステムを3年12月から導入し、市民生活の利便性の向上に役立てている。6年7月からは、印鑑証明書の自動交付も開始しており、6年12月現在、同システムの自動交付端末設備は、市役所本庁舎内及び9か所の出張所等の、あわせて10か所で供用されている。
 同システムは、市役所本庁舎内のホスト・コンピュータ、自動交付端末設備、両者を接続する専用回線等から構成されている(第1-4-1-34図参照) 。市民は市から交付されたIDカードを用いて同システムを利用する。
 同システムによる住民票の交付は、市内に3か所ある市役所の連絡所においては、市役所において完全週休2日制が導入された4年11月から、平日の窓口交付時間外である午後5時から7時までの間と、土曜日の午前9時から午後5時までの間にも行われている。この窓口交付時間外における同システムの利用率は、土曜日において比較的高く、都心等への通勤者など、平日の利用が困難な市民層のニーズにもこたえていることがうかがえる(第1-4-1-35図参照) 。
 一方、住民票交付手続にかかる時間は、窓口交付の場合、一件あたりおおむね5分程度かかっているのに対し、自動交付システムでは2分程度で交付が可能である。窓口が混雑している時には、順番待ちの時間を含めて交付に30分程度かかる場合もあるといわれており、同システムが、住民票の交付にかかる市民の待ち時間の短縮にも貢献している(第1-4-1-36図参照) 。


第1-4-1-25図 地方公共団体における地域情報通信システムの運用状況(抄)

第1-4-1-26図 国の行政機関等における多機能端末及びファクシミリ設置台数の推移

第1-4-1-27図 広島県福山市におけるシステムの拡張状況

第1-4-1-28図 広島県福山市におけるシステムの構成図

CT画像伝送システム

第1-4-1-29図 岩手県釜石市におけるシステムの構成図

第1-4-1-30図 岩手県釜石市におけるシステムの利用者分布

第1-4-1-31図 岩手県釜石市におけるシステムの利用者へのアンケート結果(抄)

在宅による健康管理データの計測

第1-4-1-32図 神奈川県藤沢市におけるキャンパスネットワーク・システムの構成図

第1-4-1-33図 キャンパスネットワーク・システムの利用者へのアンケート結果(電子メールの利用による研究活動に要する時間の短縮)

第1-4-1-4図 船橋市住民票自動交付システムの構成図

第1-4-1-35図 船橋市の自動交付システムによる住民票の窓口交付終了後の交付件数推移

第1-4-1-36図 住民票交付にかかる待ち時間
 

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