平成7年版 通信白書

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第2部 情報通信政策の動向

第3節 マルチメディア時代に向けた情報通信政策の推進

 1 21世紀の知的社会の構築に向けた情報通信基盤の整備

 

(1)  21世紀の知的社会への改革に向けて


 情報通信基盤は、我が国の産業経済活動、国民生活を支える重要な社会資本である。急速に進展する技術革新を背景として、新世代の情報通信基盤の整備は、高齢化社会への対応、一極集中の是正、経済構造の変革、環境保全等我が国の諸課題の解決の決め手になるものと考えられる。
 新世代の情報通信基盤の整備については、膨大な資金と長期の期間を要する一方、21世紀に向かって高齢化が急速に進展することが予測されるため、官民が適切に役割を分担、連携し、全国的に均衡のとれた形で、諸外国の積極的な動きに協調し、早急に情報通信基盤の整備を進めていくことが必要である。
 そこで、郵政省では、5年3月に電気通信審議会に「21世紀に向けた新たな情報通信基盤の整備の在り方について」の諮問を行い、6年5月、同審議会から「21世紀の知的社会への改革に向けて-情報通信基盤整備プログラム-」と題した答申を受けた。
 本答申は、21世紀に向けて目指すべき知的社会の構築とこれを支える情報通信基盤の整備について総合的なビジョンと方策を提示しており、その概要は次の通りである。
<1> 情報通信基盤整備の重要性
 情報通信基盤は高齢化社会への対応、経済構造の変革等の諸課題を解決し、21世紀に向けて目指すべき知的社会を構築していくために不可欠な社会資本。
<2> 総合的整備の必要性
 情報通信基盤の整備にあっては、[1]ネットワークの整備の促進、[2]アプリケーションの開発・導入、[3]各利用分野に係る諸制度・慣習の見直しを総合的にすすめることが重要。
<3> アプリケーションの開発・導入
 医療、教育、行政等の公共的アプリケーションを2000年までに実用段階まで進めることを目標とし、このため、社会資本整備の新たな展開という観点から柔軟かつ重点的に予算を配分することが必要。
<4> ネットワーク整備の推進
 ネットワーク整備については、以下のとおり提言。
[1]光ファイバ網の全国整備の目標時期を2010年とすること。
[2]整備にあっては、民間の活力が最大限に発揮されることが重要であるとともに、国は、民間企業による整備の円滑な進展が可能となる環境を政策的に整備するべき。
[3]国は、加入者系光ファイバ網の整備を加速するため、民間事業者を対象とした新しい融資制度の検討等の措置を講ずること。
 

(2)  電気通信審議会答申を受けた情報通信基盤の整備の推進


 郵政省は、電気通信審議会答申「21世紀の知的社会への改革に向けて-情報通信基盤整備プログラム-」に基づき、6年6月、「情報通信基盤の整備について」を公表し、次の通り情報通信基盤の整備目標及びこれを実現するための施策を明らかにした。
<1> 整備目標
[1]公共的アプリケーション
 2000年には実用段階にまで進めることとし、研究開発、試行的導入を積極的に推進
[2]ネットワークインフラ(第2-2-3-1図参照)
 2010年までに光ファイバ網の全国整備を実現することとし、その具体的な整備スケジュールを次のとおり設定。
 2000年 都道府県庁所在地内の主要地域及びテレトピア指定都市の一部
     (人口カバレッジ20%)
 2005年 人口10万人以上の都市内及びテレトピア指定都市の一部
     (人口カバレッジ60%)
 2010年 全国整備の終了
     (人口カバレッジ100 %)
 なお、全国の学校、図書館、病院、公民館、福祉施設等の公共機関への整備は2000年。
<2> 具体的な政策
[1]ネットワークの整備
 民間事業者の投資負担を軽減する新たな融資制度の検討等のネットワーク投資の促進、電線類の地中化の促進等
[2]公共的アプリケーションの開発・普及
 地域・生活情報通信基盤高度化事業の拡充等の先導的アプリケーションの導入、基礎的・汎用的な技術の開発、郵政行政の情報化5か年計画の策定・実施等
[3]情報通信基盤整備のための環境整備
 広帯域化、双方向化等の技術革新に伴うマルチメディア化の在り方に対応する制度的な在り方の検討、関係省庁との連携による行政、教育、医療、福祉、環境等の公共分野におけるアプリケーションの開発・導入
[4]国際的連携
 世界情報基盤の構築に向けた協力の促進等
 

(3)  先行整備期間における情報通信基盤整備の推進


 郵政省は7年1月、「経済フロンティアの拡大に向けた情報通信政策の展開-情報通信基盤整備と産業構造転換-」を公表し、7年を「情報通信基盤整備元年」と位置づけるとともに、2000年までの先行整備期間における情報通信基盤整備について、[1]ハードとソフトの一体的整備、[2]アプリケーション・ソフトの重視、[3]公的部門の先導的役割、[4]過疎地、離島等地方への配慮、[5]高齢者、身体障害者等への配慮を基本方針とすることを示した。
 また、経済フロンティアの拡大に向けた7年の主要施策として、マルチメディア化に対応した人材の育成等の「情報ソフトの制作・流通」、PHSの事業化及び海外展開等の「情報通信サービスのマルチメディア化」、道路交通情報通信システム(VICS)の実用化等の「ビジネスフロンティアでの電波利用」、情報通信基盤技術等の「先端技術の開発・普及」の推進を提示している。
 

(4)  情報通信基盤整備に向けた推進体制の整備


 2010年に向けた情報通信基盤の全国的整備を目指し、2000年までの先行整備期間中において、情報通信基盤の総合的な整備を加速するため、7年度において、「情報通信利用振興室」、「高度通信網振興課」を新設し、情報通信基盤高度化の核となるアプリケーションとそれを支えるネットワークインフラの一体的な整備を積極的に推進することとしている。
 

(5)  加入者系光ファイバ網の整備の推進


 郵政省では、2010年を情報通信基盤の全国的整備の完了目標とし、2000年までをその先行整備期間としているが、先行整備期間は立ち上がり時期で、事業者の先行投資負担は過大であり、特に各家庭へ向かう加入者系光ファイバ網は投資額が大きいため、事業者独自の投資リスクによっては整備の立ち遅れが懸念される。
 そこで、加入者系光ファイバ網の円滑な整備を促進するため、2000年までの先行整備期間において第一種電気通信事業者及びケーブルテレビ事業者を対象とした、投資負担軽減のための特別融資制度(加入者系光ファイバ網整備特別融資制度)が7年度から創設されることとなった。
 本制度は、電気通信基盤充実臨時措置法を改正して、通信・放送機構に基金を設置し、社会資本整備特別措置法に基づくNTT-C´融資に対して、さらに2%の範囲で利子補給を行い、金利2.5 %を下限とする超低利融資を実現するもので、7年度においては、NTT-C´融資において新たに300 億円が確保されるととともに、基金の原資として23億円が措置された(第2-2-3-2図参照) 。さらに、過疎地、離島地域、特別豪雪地帯、振興山村及び半島振興対策実施地域における光ファイバ化を促進するため、加入者系光ファイバ網整備事業については、ふるさと財団による無利子融資制度(地域総合整備資金貸付制度)の特例措置(新規雇用の確保要件の緩和)が設けられることとなった。
 また、7年度税制改正において、特定電気通信設備の特別償却制度について、電気通信事業者が整備する加入者系光ファイバケーブル及び光伝送装置が適用対象に追加(新世代通信網促進税制の対象拡充)され、また、ケーブルテレビ事業者が整備する加入者系光ファイバケーブル及び光伝送装置についても適用対象とする(高度ケーブルテレビ施設整備促進税制)こととされた。さらに、ケーブルテレビ事業者が整備する光ファイバケーブルについては、固定資産税の特例措置の対象ともされることとなっている。
 

(6)  公共的アプリケーションの開発・普及


 郵政省では、電気通信審議会答申「21世紀の知的社会への改革に向けて-情報通信基盤整備プログラム-」(6年5月)に基づき、次の通り公共的アプリケーションの開発・普及を推進している。
 ア 地域・生活情報通信基盤高度化事業
 21世紀の高度情報通信社会の実現に向けた高度な情報通信基盤の整備にあたっては、光ファイバ網の整備とともに、その優れた機能を活かした具体的な利用方法の開発・普及が必要である。特に、立ち上がり時期においては、公共分野における高度なネットワークインフラの利用を積極的に促進し、[1]高度な情報通信ネットワークの全国的に公平な利用の確保、[2]企業等の民間分野における需要の喚起等を図っていくことが必要である。
 このような観点から、6年度から新たな公共投資による情報通信基盤の整備の施策として「地域・生活情報通信基盤高度化事業」が積極的に推進されている。
 本事業は、地方公共団体等が高度なネットワークインフラを利用して公的サービスを提供するための先導的な施設整備を支援するもので、自治体ネットワーク、情報還流促進センター、テレワークセンター、新世代地域ケーブルテレビの情報通信基盤施設の整備を行っている(第2-2-3-3表 、第2-2-3-4図参照) 。
 イ 新世代通信網パイロットモデル事業
 「新世代通信網パイロットモデル事業」は、一般家庭等を光ファイバで結ぶファイバ・ツー・ザ・ホーム(FTTH)のモデルインフラを通信と放送の融合網として整備し、通信・放送融合サービスを実験的に提供することにより、利用面、制度面、コスト面、技術面等の課題について明らかにすることを目的とする。
 本事業は、(財)新世代通信網利用高度化協会により、通信・放送事業者、家庭電気製品製造業者、総合商社等の参加を得て、6年7月から関西文化学術研究都市において実施されている。
 実験センターと約 250のモニタ宅は光ファイバで結ばれており、各家庭では高品質ケーブルテレビサービス、ビデオ・オン・デマンド、テレビ電話等の基本サービスのほか、実験に参加している民間企業によるゲームの配信等のサービスを利用することができる。また、FM多重波を利用したページングサービスの実験も実施されたところである(第2-2-3-5図参照) 。
 郵政省では、20億円の補助金を同協会に交付するとともに、事業の円滑な推進を図るため、省内に「新世代通信網パイロットモデル事業推進本部」を設置するなど積極的に取り組んでいるところである。また、7年度からは、同実験に参画し、デジタル・ビデオ・サーバを利用して、郵便及び為替貯金サービスの業務案内や郵便商品のホームショッピング、為替貯金の照会・送金サービスの実験を行うこととしている。
 ウ 広帯域ISDN実用化実験
 「広帯域ISDN実用化実験」は、我が国初の広帯域ISDNの利用研究・実験であり、高度情報通信社会に必須な新しいアプリケーションの開発・実験を行い、広帯域ISDNの社会的実用性の実証・普及啓発を図ることを目的とする。
 本プロジェクトは、(財)新世代通信網利用高度化協会の作成した広帯域ISDNの実用実験マスタープランに基づき、新世代通信網実用実験協議会により、6年7月から関西学術文化研究都市において実施されているもので、現在2年間の予定で第一期の普及啓発段階の実験プロジェクトが行われている。
 実験の中心となっている「けいはんなプラザ」と京都・大阪・奈良の実験参加企業の各施設が広帯域ISDN網等で結ばれており、「電子カタログを用いたマルチメディア通信販売」、「マルチメディア・データベース遠隔検索応用(電子魚図鑑)」、「マルチメディア・エンタテイメント・サービス(統合デジタルカラオケ)」等17テーマの実験が実施されている(第2-2-3-6図参照) 。
 

(7)  マルチメディア環境の整備


 ア 通信・放送融合への対応
 近年の技術革新の結果、通信にも放送にも利用可能なネットワークの実用化と通信と放送の融合による新たなサービスの開発が想定されており、このため、通信と放送の融合動向に対応して、ニュービジネスの振興、メディア産業の再編成及び消費者保護への対応、関連する法制度の在り方等について総合的な検討が必要となっている。
 そこで、郵政省では、広帯域・双方向ネットワークの進展に伴う通信・放送の融合動向に対応するため、6年7月から「21世紀に向けた通信・放送の融合に関する懇談会」を開催し、2年間程度の予定で、[1]広帯域網の構築と情報通信サービスの多様化、[2]情報通信サービスのマルチメディア化、[3]通信と放送の融合に伴う制度的課題と対応について検討を行っているところである。
 イ マルチメディアに対応した人材育成施策の検討
 郵政省では、今後の高度情報通信社会を担う人材の育成の重要性に鑑み、これまで電気通信基盤充実臨時措置法に基づく人材研修事業等を推進しているが、マルチメディア時代に向けて、専門的な知識及び技能を有する人材の育成が急務となっている。
 そこで、郵政省では、7年1月から「マルチメディアに対応した人材育成の在り方に関する調査研究会」を開催し、人材育成のための標準カリキュラムの策定等の具体的な指針を取りまとめることとしている。
 ウ マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金の検討
 マルチメディア時代においては、電子新聞、遠隔医療、遠隔教育等高度な情報通信サービスの実現が期待されているが、このような情報通信サービスについては、国民全体がその利益を享受できることが重要である。
 そこで、郵政省では、マルチメディア時代において、全ての人々が高度な情報通信サービスに容易にアクセス可能な利用者本位の料金の実現を図るため、6年10月から「マルチメディア時代のユニバーサルサービス・料金に関する研究会」を開催し、マルチメディア時代における料金の在り方及びマルチメディア時代のユニバーサルサービスの在り方について幅広い観点から総合的な検討を行っており、8年5月に最終報告をとりまとめる予定である。
 エ マルチメディア時代に向けた情報通信産業における研究開発の在り方の検討
 通信・放送の融合化、世界的な情報通信基盤整備の進展等により、内外の情報通信産業における研究開発を取り巻く環境は大きく変動しつつあり、これに対応して、新たな研究開発体制を早期に整備することが必要である。
 そこで、郵政省では、6年11月から「マルチメディア時代の情報通信産業における研究開発の在り方に関する調査研究会」を開催し、21世紀の知的社会と高度な産業構造の構築に向けて、我が国情報通信産業の発展と利用者への高度かつ多様なサービスの実現、さらには国際的な貢献を可能とするため、事業者、メーカー等における研究開発競争及びこの両者に国を含めた関係機関の連携による研究開発の在り方を検討しており、7年4月に報告を取りまとめる予定である。
 オ 21世紀に向けた新しい情報通信産業の将来像の検討
 ボーダレス社会やマルチメディア時代において我が国経済力の維持・向上及び消費者の利益を図る観点から、情報通信市場の一層の活性化を促進するためには、国際的な動向も踏まえつつ、21世紀に向けた我が国の情報通信産業の将来像を検討する必要がある。
 そこで、郵政省では、6年12月から「21世紀に向けた新しい情報通信産業の将来像研究会」を開催し、世界の情報通信戦略の調査や我が国の競争実態の検証を行うとともに、21世紀に向けた新しい情報通信産業の将来像を検討しており、7年9月に報告を取りまとめる予定である。
 カ 信頼できるネットワーク利用環境の検討
 21世紀に向けて情報通信基盤の整備が実用段階に移りつつあり、高度情報通信社会においては、マルチメディア環境、ネットワークのグローバル化が実現し、日常生活はより豊かで活力のあるものになると考えられるが、そのためには情報の自由な流通・共有化の実現とともに、「人にやさしく、安心できる」ネットワークづくりが求められ、両者の調和ある発展が必要である。
 そこで、郵政省では、7年1月から、ネットワークの安全・信頼性確保と個人データ・プライバシー保護の観点から「電子情報とネットワーク利用に関する調査研究会」を開催し、ネットワークを介した電子取引における安全・信頼性を確保するための制度的保障の在り方、ネットワーク上を流通する個人データの取扱及びプライバシー保護について検討を行っており、7年6月に報告を取りまとめる予定である。
 キ 知的活動のネットワーキングの在り方の検討
 大量消費による物質的な豊かさの実現という工業化の手法について、その限界が指摘されている現在、これを克服するためには人間の知的活動が最大限に活用されるような知的社会の構築が必要である。
 そのため、郵政省では、次代の知的社会における知的活動の最終的な担い手としての個人に注目し、その個人が能動的に情報を収集・分析・発信することで新しい知見を獲得・伝達していく活動が、どのような形でサポートされるべきかをネットワーク化の見地から調査・分析するため、7年1月から「知的活動のネットワーキングに関する研究会」を開催している。
 本研究会では、インターネットやパソコン通信等知的活動を円滑化・容易化させるネットワークの形態の現状、動向についての調査とともに、米国等におけるネットワーク化の現状・動向の把握と我が国との比較、我が国の現状の評価・分析等を行っており、7年6月に報告を取りまとめる予定である。


第2-2-3-1図 ネットワークインフラの整備目標

第2-2-3-2図 加入者系光ファイバ網整備促進のための融資制度の概要

第2-2-3-3表 地域・生活情報通信基盤高度化事業について

第2-2-3-4図 地域・生活情報通信基盤高度化事業の概念図

第2-2-3-5図 新世代通信網パイロットモデル事業実験システム構成

第2-2-3-6図 広帯域ISDN実用化実験施設の基本構成
 

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