平成13年版 情報通信白書

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第1章 特集 加速するIT革命

6 IT導入による企業活動の構造変化

企業の取組状況によりIT活用の効果に格差

 企業におけるITの導入は過去2年間で着実に進展しており、LAN整備はほぼ一巡しつつある。しかし一方、ITの導入による効果は企業間において決して一様ではなく、その効果を発揮している企業とそうでない企業との間には格差が生じている。

1)企業内部における情報化の進展
 「通信利用動向調査(企業編)」(総務省)によると、平成12年における企業のLAN構築は9割近くにまで達しており、その内訳は「全社的に構築している」企業が57.0%、「一部の事業所又は部門で構築している」企業が29.4%となっている。平成10年と比較すると、LANを構築している企業の割合は23.5ポイント上昇しており、2年間で企業におけるLANの構築が急速に進んだことを示している(図表1))。また、イントラネット構築状況についてみると、LAN同様急速に整備が進んでいることが分かる。平成12年におけるイントラネットの構築は「全社的に構築している」企業(28.9%)と「一部の事業所又は部門で構築している」企業(15.3%)の合計で44.2%と、4割を上回っており、22.0%であった平成10年度の2倍以上に増加している(図表2))。
 これらのLANやイントラネットの導入に関する費用対効果については、接続端末の整備が十分に進み、1台当たりの社員数が少ない企業ほどプラスの効果が出ているとするところが多い傾向が表れている。接続端末1台当たりの社員数が1人の企業では半数以上(56.6%)がLANやイントラネットの導入による費用対効果がプラスに転じていると回答している一方、接続端末1台当たりの社員数が5人以上の企業では1/4程度(26.9%)にとどまっており、7割以上の企業が社内ネットワーク整備による費用対効果がマイナスであると認識していることが分かる(図表3))。以上のことから社内ネットワークの構築の効果は、単にLANやイントラネットを導入することだけでなく、その接続端末の配備状況にも大きく影響されていることがうかがえる。

2)企業内におけるIT活用の進展
 我が国では1980年代以降、企業内のIT化が進展し、業務の集中処理を目的とした汎用コンピュータや、調達部門におけるEDI・販売部門におけるPOSシステムなどの業務システム導入が進められた。1990年代に入ると、情報通信技術の進歩によりOA機器の「ダウンサイジング」が進展し、パソコン・ワークステーション等をネットワークで結んだ分散処理型のシステムが急速に普及した。さらに、近年ではパソコン設置や企業内LAN導入等の企業内情報通信基盤整備の進展を背景として、顧客満足度の向上を目的としたCRMや社内の知的資産管理を行うナレッジ・マネジメントといったアプリケーションが登場している。これにより、企業は従来と比較して、より広範な業務で、高度なIT活用を進めており、国境を越えた活用がなされている例も現れている。

■事例1:CRM − カナジュウ・コーポレーション
 神奈川県内を営業圏とするプロパンガス販売のカナジュウ・コーポレーションでは、CRMシステムの導入により、素早い顧客対応やガス機器清掃などの付加価値サービスを提供している(図表4))。プロパンガス業界は、ライフラインであるガスの供給を行っているため、顧客がガスを利用できない状態になったときなどは即日対応を要する場合も多く、顧客の急な依頼にも対応できるよう営業・保守担当者の効率的かつ一元的なスケジュール管理が求められている。そこで、同社では仕事の受付から完了までをシステム上で一元管理し、効率的な作業の分担・実行を実現している。さらに、営業・保守担当者が訪問先から工事完了や訪問宅の不在など現在の作業進捗状況等について、携帯電話から会社のコンピュータに直接アクセスし、社員番号や業務番号など10桁程度の英数字を入力することでデータベースを更新できるシステムを開発し、リアルタイムの状況管理を行っている。その結果、例えば顧客からコールセンターにガス利用ができないなどの連絡があった場合に、コールセンターではデータベースで対応可能な担当者を検索し、その場で顧客に対して訪問可能な時間を回答すると同時に、担当者の携帯電話に電子メールで指示を送る、といった迅速かつ的確な顧客対応が可能となった。このシステムの導入により、同社では厳しい競争環境のもと、50名強の従業員で、顧客数を神奈川県内の業界平均(1,100件)の20倍以上であるおよそ23,000件にまで拡大すると同時に、顧客が他社に乗り換える「離反率」を0.38%にまで引き下げるなど、顧客満足度の向上を実現している。

■事例2:ナレッジ・マネジメント − アンダーセン
 世界84か国において390のオフィスを展開し、経営・会計コンサルティングを主な業務とするアンダーセンでは、世界中の全ての拠点で質の高いサービスを提供するため、各国のコンサルタントが経験した様々な優良事例を収めたデータベースを構築している。このシステムの特徴としては、1)約8万5,000人に及ぶコンサルタントの経験の中から、地域ごとに配置された情報管理責任者(ナレッジ・マネージャー)によって特に優良な事例と認められたものを中心に、多様な情報をオンライン上で一元管理していること、2)時間の経過にともなう情報の陳腐化を防ぐため、ナレッジ・マネージャーによる定期的な掲載情報の見直しを実施していること、3)より詳細な情報を知りたいときの情報検索の仕組として、各分野における社内有識者データベースを整備しており、問合せ先などの情報を提供していること、4)蓄積された情報をより実務的に活用できるよう財務・税務といった専門領域別、顧客の対象業種別、地域別などのカテゴリーに分類された電子会議室を設置して議論を通じた情報共有やコミュニティ形成を推進していること、5)蓄積された事例データとともに、学術論文や産業調査レポートなど外部有識者や調査会社等から得た有用な情報を蓄積していることの5点が挙げられる。同社でこのデータベースシステム導入による効果を、社内の約1万人が所属するコミュニティにおいて調査したところ、業務に費やす時間をおよそ半分にまで短縮し、コスト削減や競争力の向上などを通じて年間5,000〜7,000万ドルの効果があったとしている。

図表1) LAN構築状況
企業におけるLAN構築状況
図表2) イントラネット構築状況
企業におけるイントラネット構築状況
図表3) LANやイントラネット導入の費用対効果の状況(平成12年)
イントラネット導入の費用対効果の状況(平成12年)
図表4) カナジュウ・コーポレーションのCRM
カナジュウ・コーポレーションのCRMの概要

 


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