平成13年版 情報通信白書

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第1章 特集 加速するIT革命

4 インターネット・ガバナンスと解決すべき課題

インターネットの基盤整備における我が国の国際貢献

 「ネットワークのネットワーク」と言われ、世界中の多くのコンピュータを結ぶ巨大なネットワークであるインターネットにおいて、電子商取引をはじめとする多様な社会経済活動が展開されるためには、グローバルな範囲で接続を安定的に確保する必要がある。

1)インターネット・ガバナンス
 インターネットにおける情報のやり取りを行う際、インターネットに接続されるコンピュータ等の機器には、「IPアドレス」(ネットワーク上の機器ごとに割り当てられる番号)及び「ドメインネーム」(IPアドレスを人間が判りやすい文字などに置き換えた名称、IPアドレスと一対一に対応)という、いわばインターネット上の「住所」に該当するものが割り当てられているが、これらは、インターネットによる通信の基本的要素として、一定のルールの下、世界規模での割当て管理が行われており、「インターネット全体を円滑に機能させるための統治である」との意味において一般に「インターネット・ガバナンス」と呼ばれている(図表1))。
 現在、「インターネット・ガバナンス」については、IPアドレスやドメインネームの管理及び方針等の策定を行う国際的な非営利組織、Internet Corporation for Assigned Names and Numbers(ICANN)を頂点として、国際的な議論が進められている。
 また、日本国内においては、「.jp」で終わるJPドメインネーム及びIPアドレスの登録管理、インターネットに関わる各種の調査・研究や教育・啓発活動を行う組織として(社)日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が設立されており、JPドメインネームの管理をはじめ、ドメインネームに関わる制度的又は技術的な検討等を行っている。
 このような「インターネット・ガバナンス」に関する議論や取組は、以下に述べるドメインネームに関する新たな仕組み作りや紛争処理等において、一層重要なものとなっており、我が国としてもこれらに積極的に参加し、世界の安定的・効果的なインターネット利用環境の構築に貢献していくことが、国内でのインターネット利活用の発展につながっていくものと考えられる。

2)ICANNの組織体制と我が国のプレゼンス
 ICANNは最高意思決定機関である理事会を頂点にして、IPアドレス、ドメインネーム及びプロトコルについて検討する3つのサポーティング組織、4つの諮問委員会及び一般会員等から成る組織である(図表2))。この4つの諮問委員会のうち、各国政府代表者などから構成される政府諮問委員会(GAC:Governmental Advisory Committee)には、総務省が我が国唯一の正式登録メンバーとして議論に参加し、アジア・太平洋地区をはじめとする国際的な協力体制の確立に取り組んでいるところである。また、現在19名から構成される理事会には、我が国から2名の理事が参加しているところであり、「インターネット・ガバナンス」への我が国の国際貢献などの観点から、インターネットに関するこのような国際的な活動への積極的な支援・参画を図っていくことが重要である。

3)一般ドメインネームと国別ドメインネーム
 インターネットによる通信の基本的要素であり、IPアドレスを特定する際に利用されるドメインネームは、国の区別なく世界中で自由に取得できる「.com」や「.net」等の「一般ドメインネーム」(gTLD:generic Top Level Domain)と、国ごとに割り振られている「.jp」等の「国別ドメインネーム」(ccTLD:country code Top Level Domain)の大きく2種類に分けることができる。
 一般ドメインネームは米国VGRS社(Verisign Global Registry Services)によって管理されており、国内外の登録事業者を通じて取得することができる。一方、国別ドメインネームについては各国の管理機関で管理されており、JPドメインネームに関しては、JPNICをはじめJPNICと契約を結んでいる日本国内のISPなどの登録事業者を通じて取得することが可能である。

4)多言語ドメインネーム
 従来のドメインネーム体系では、基本的に英語の使用を基礎とし、アルファベットによる表記を前提としていたが、誰もがインターネットを有効かつ効果的に活用していくためには、ドメインネームそのものが一般の日本人利用者にとって分かりやすく使いやすいものであることが重要である。そこで、このような非英語圏の利用者からの要望に応えるべく、ICANNでは日本語など英数字以外の文字体系を持つ言語について、その言語の文字列をドメインネームとして利用可能とする多言語ドメインネームの導入に向けて国際的な検討がなされており、また、現在、インターネットに関する国際的な標準化組織であるInternet Engineering Task Force(IETF)において技術的な標準化作業が進められているところである。多言語ドメインネームの標準化作業が進められている一方で、ドメインネームの登録管理事業者では既に多言語ドメインネームの実験登録受付が開始されており、2000年11月に一般ドメインネームに、2001年2月にJPドメインネームについて、それぞれ日本語ドメインネームの登録が開始されている。
 今後の多言語ドメインネームの実利用に向けて、現行のドメインネームシステム(DNS:Domain Name System)の下での安定的な運用を確保する必要があることから、我が国利用者の利便が図られるよう留意するとともに、国際的に多言語ドメインが安定的に利用されるようなルール作りに我が国として積極的に参加していくことが重要である。

5)新しい一般ドメインネーム
 国の区別なく世界中で自由に取得できる一般ドメインネームについては、これまでVGRS社が独占的に管理してきたが、一般ドメインネーム空間の枯渇予測及び管理業務への競争原理導入、そして管理業務の地域分散等の観点から新しい一般ドメインネームの創設がICANNの課題となっている。2000年11月の理事会において、多数の提案の中から7つの新しい一般ドメインネームの候補が採択され、今年中の運用開始に向けてそれぞれ運用方針を検討しているところである。しかしながら、その7つの候補にはアジア地域の管理者による提案はなく、欧米中心の一般ドメインネーム管理の構造であることには変わりはない(図表3))。我が国をはじめとするアジア地域の管理者によって利用しやすい一般ドメインネームが導入されることは、その地域の利用者にとって、利用できるドメインネームの選択肢が増えるとともに、より安価なドメインネームを選択することができるようになるため、我が国としてもアジア諸国との協調の下、ICANNの議論の場に積極的に働きかけていくことが重要である。

6)ドメインネームの取得に関する紛争処理・紛争予防
 ドメインネームについては、これまでに企業の英語名や略称、商品名等の登録商標などを含むドメインネームを関係者以外の第三者が先に取得し、当該企業等に対して高額で転売しようとする事例などが発生している。これらのドメインネームにおける紛争処理を行うため、ICANNでは1999年10月に「統一紛争処理方針」(uDRP:uniform Dispute Resolution Policy)を発表した。これは、ICANNが認定した紛争処理機関がuDRPに基づいて紛争処理手続を実施することで、速やかに登録の取消しや移転を図ろうとするものである。また、JPNICにおいてもuDRPを日本向けにした「JPドメイン名紛争処理方針」(JP-DRP)を2000年7月に定め、JPドメインネームを巡る紛争処理に取り組んでいる。JP-DRPに基づく紛争処理機関として、現在、日本知的財産権仲裁センターが認定されており、2001年4月末現在10件の申し立てを受理している(図表4))。また、これら裁判外の紛争処理手続のほか、JACCS事件判決(富山地裁判決:現在控訴中)など裁判による解決を求める動きもあり、第151回通常国会に「不正競争防止法の一部を改正する法律案」が提出されている。

 ドメインネームの不正取得行為については、特に新しいドメインネーム制度を導入する際に頻発しており、2000年11月に受付が開始された一般ドメインネームについては、受付開始直後から登録申請が殺到し、一時的に登録受付のシステムがダウンしてしまうといったトラブルが発生したほか、申請について単に先着順で登録受付を行ったため、既に商標権が設定されている言葉や企業名などを含むドメインネームが関係者以外の第三者によって、不正取得される事例が数多く発生した。
 一方、2001年2月に受付が開始されたJPドメインネームについては、先着順による一般受付の前に、商標権者・商号保有者などを対象とする優先登録期間や申込の集中による混乱を避けるための同時申請期間を設けるなどの事前の紛争予防策を採用している。
 優先登録期間(Sunrise Period)の設定は、新しいドメインネーム制度導入時の混乱を避けるための有効な予防策の一つとして国際的にも認められており、世界に先駆けてJPドメインネームにおいて採用されたものである。このような取組は我が国のみならず、世界のインターネットの安定的な利用につながるものであり、ICANNなどの国際的な議論の場に積極的に提案していくことが重要であると考えている。

図表1) ドメインネームとIPアドレスの割当て管理との関係イメージ
ドメインネームとIPアドレスの割当て管理との関係イメージ
図表2) ICANNの組織体制
ICANNの組織体制
図表3) 新しい一般ドメインネーム
新しい一般ドメインネーム
図表4) ドメインネームの紛争処理機関

 


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