平成13年版 情報通信白書

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第3章 情報通信政策の動向

18 衛星通信、放送及び軌道上保全の高度化に関する研究開発

衛星によるサービスの更なる向上に向けた取組

1)光衛星通信システムの研究開発(超高速の宇宙光通信の実現に向けた取組)
 全世界中の多くの人々が大量の情報をインターネット等から取得し、または発信する本格的なマルチメディア情報化社会の到来に向け、高速の情報伝送が可能な様々な通信システムの開発が進められている。このうち、地上の固定網である光ファイバ等によるネットワークだけでなく、宇宙空間における超高速の通信システムについても、今後のグローバルな超高速通信ネットワークの宇宙空間経由によるバイパスとして、あるいは、超高精細映像等の地球観測データの収集など宇宙活動を支援する超高速通信手段としての機能を果たすことが期待されており、世界各国で研究開発が進められつつある。
 そこで、レーザー光を用いた超高速の宇宙光通信の実現に向けて必要な研究開発を、通信総合研究所において推進している。
 宇宙光通信の研究については、通信総合研究所において昭和40年代中頃から光伝搬の研究や人工衛星の光学追尾技術の研究など基礎的な研究を重ね、平成6年〜8年にかけて、技術試験衛星VI型(ETS−VI)と地上局との間で、距離約4万kmの光通信実験を世界で初めて実施するなど、既に多くの成果を収めているところである。
 これらの研究成果を踏まえ、現在建設中の国際宇宙ステーションに取り付けられ、光地上局との光通信実験に使用される予定の搭載光通信機について、平成16年度頃の打上げに向けて試作評価を実施するほか、平成13年度に周回軌道上へ打上げ予定の光衛星間通信実験衛星OICETSと光地上局との光通信実験を行うための地上設備の開発を行うとともに、光地上局の候補地における大気条件調査を進めているところである。
 宇宙環境においては、小型・軽量・高効率化を最大限に意識した各要素技術の開発やシステム技術確立のための継続的な実証実験が必要であり、総務省では引続き、超高速の宇宙光通信の実現に向けた取組を進めていく予定である。

2)高度衛星放送システムの研究開発(21GHz帯電波の衛星放送での利用技術の確立に向けた取組)
 放送のデジタル化への動きを背景に、衛星放送に対するニーズは、近年益々高度化、多様化しており、このようなニーズに対応する高度な衛星放送システムの実現が求められている。
 21GHzの周波数帯は、これまで衛星放送に活用されていなかった周波数資源であるとともに、大容量情報の伝送が可能であることから、超高精細度放送や立体テレビジョン放送等、これまでの衛星放送にない高品質化、多機能化が図られることが期待される一方で、降雨減衰(雨等の大気中の水分子により電波のエネルギーが一部吸収される現象)が大きいなどのデメリットも有する帯域である。
 そこで、本研究開発では、21GHz帯を用いた高度衛星放送システムの実現に向け、最適システムの検討に加え、降雨減衰補償技術及び高効率・小型軽量な電力素子やアンテナといった要素技術の開発等を実施している(図表1))。
 平成12年度にはサービス形態やシステム等の実現性を考慮した最適システムの検討や降雨データの分析等による21GHz帯電波の降雨減衰特性の検討等を行った。
 21GHz帯電波は、国際電気通信連合(ITU)条約における無線通信規則で、平成19年4月からの衛星放送での利用が既に認められており、今後、総務省では、次世代の高度な衛星放送を可能とする技術の早期確立を目指し、本研究開発を推進していく予定である。

3)軌道上保全システムの研究(宇宙のごみの一掃に向けて技術開発を推進)
 現在の宇宙機の状況については、衛星から地上に送信されてくる情報に多くを依存しており、地上との送信路が途絶してしまった場合、その状況の把握は非常に困難となる。また、近年、衛星の打上げロケットの残骸や使用済み衛星等によってもたらされる不要衛星等(スペースデブリ=宇宙ごみ)の増大にともない、運用中の衛星との衝突の危険性が高まりつつある。
 こうした中、通信総合研究所では、不具合を生じた宇宙機に接近し、その状況を把握して不具合の復旧を助ける遠隔検査サービスや軌道上のスペースデブリの除去を実現する軌道上保全システム(OMS:Orbital Maintenance System)の研究開発に、平成8年度から取り組んでいる(図表2))。
 OMSを実現する上で必要となる技術は、制御されていない衛星へのランデブー技術、遠隔検査技術、衛星の捕捉技術など多岐にわたり、技術的難易度も高いため一度に実験を行うには、多大なリスク及びコストがかかる。したがって、通信総合研究所では、検査(Inspector)、不要衛星除去(Reorbiter)、修理(Repairer)の三つの小型研究開発衛星を段階的に打上げ各技術を確立していく、OMS Lightsという技術シナリオを提案している。
 現在、OMS実現に向けた技術として、最初の段階で必要となる検査監視技術の実証ミッション(OLIVe:OMS Light Inspector Vehicle Mission)の一部技術(監視及び画像処理技術等)を開発中であり、13年度に打ち上げられる小型衛星(μ-Lab Sat)により、先行実証を行う予定である。

図表1) 21GHz帯を用いた高度衛星放送システムのイメージ
21GHz帯を用いた高度衛星放送システムのイメージ
図表2) OMSを利用した宇宙通信システムのイメージ
OMSを利用した宇宙通信システムのイメージ

 


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