平成8年版 通信白書

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第2章 情報通信政策の動向

(2)  NTTの在り方についての電気通信審議会答申

 7年4月、郵政大臣は、電気通信審議会に対して、NTTの在り方について諮問を行い、国民利用者の利益の増進と情報通信産業の活性化を基本的視点として、約1年間にわたる総合的・多角的な検討を経た後、8年2月、「日本電信電話株式会社の在り方について-情報通信産業のダイナミズムの創出に向けて-」と題した答申を受けた。その概要は次のア〜カのとおりである。
 ア 検討の視点
 21世紀に向けて現在の経済構造、社会構造を変革していくことが求められている中で、21世紀のリーディング産業と期待されている情報通信について、昭和60年の電電公社民営化、競争原理の導入をはじめとする第1次情報通信改革に次ぐ第2次情報通信改革が、国民利用者の利益の増進及び情報通信産業の活性化という視点から、不可欠となっている。
 情報通信分野においては、1985年前後、世界的に国営の事業体の民営化、競争原理の導入を柱とする第1次情報通信改革が行われたところであるが、それ以降約10年の節目に当たり、世界各国は、改めて第2次情報通信改革に取り組みつつある。例えば、米国においては、1996年電気通信法の成立により、競争を更に一層促進しようとする新しい政策の展開が図られつつあり、競争を導入あるいは強化することによって、情報通信改革を進めようとする政策潮流は世界的なものとなっている。
 イ 我が国の情報通信市場の現状と課題
 第1次情報通信改革による競争の導入による成果として、多数の事業者の参入、競争分野の料金の低廉化、サービスの多様化、料金体系の多様化等が挙げられるが、一方で、今後の課題として、独占的分野での料金低廉化、地域通信分野の競争促進、公正有効競争の促進、国際競争力の向上、研究開発力の向上等が指摘されている。
 また、2年3月のいわゆる「政府措置」については、郵政省及びNTTは、公正有効競争の促進、NTTの経営向上等の措置の推進・実現に努力し、成果を挙げたものもあるが、構造的措置を伴わないものであったことから、総合的に見れば不十分な点が多い。
 ウ 第2次情報通信改革の姿
 第2次情報通信改革は、相互参入の促進、多様なネットワークの形成、地域の競争の促進、接続の確保、国際競争力の向上、研究開発力の向上、NTTのボトルネック独占の解消等を通じて情報通信産業のダイナミズムを創出し、多様なサービス、料金の低廉化等により、国民利用者にとって望ましい情報通信を実現することを目指すものである。
 エ NTTの在り方
 (ア)  NTTに期待される役割
 NTTには、低廉な料金・多様なサービスの実現、公正有効競争条件の整備、接続の円滑化、情報通信産業の国際競争力・研究開発力の向上、情報通信基盤整備への寄与等について、その役割が期待されている。
 (イ)  NTTの再編成の意義
 ボトルネック独占解消による競争の促進、国民利用者に対する低廉かつ多様なサービスの実現、強力な競争単位創出による国際競争力の向上のために、NTTの再編成が必要である。
 仮に、NTTの再編成を行わない場合には、これらの効果が期待できないほか、[1]ボトルネック独占の存続によりNTTの経営効率化のインセンティブが高まらず、また、公正有効競争上の問題が継続し、その結果、利用者へのサービス向上、料金低廉化へのインセンティブが高まらないなどの問題が残る、[2]非構造的措置のみによる競争促進策については、その実効性に限界があるとともに、規制の時間とコストが大きくなりかねないなどの問題がある。
 また、再編成に際しては、ユニバーサルサービスの確保、災害時その他非常時の通信の確保、利用者の利便の確保及び再編成に伴う統合の利益の確保について考慮が必要である。
 (ウ)  再編成の具体像
 NTTの経営形態については、NTTの潜在的な力を全面的に開花させ得る、自由化を目指した体制とすること、多元的な主体による公正有効競争を促進する体制とすること等を、再編成の基本的視点として、次のような措置を講ずることが必要である。
[1] 現行NTTを長距離通信会社と東西2社の地域通信会社に再編成する。
[2] 長距離通信会社は完全民営化を図り、国際通信、CATV、コンテント等の新規事業への参入を可能にするとともに、地域通信分野への参入も認める。さらに、現在のエヌ・ティ・ティデータ通信(株)、エヌ・ティ・ティ移動通信網(株)、エヌ・ティ・ティパーソナル通信網各社の株式を継承する。
[3] 地域通信会社は、既存営業エリア内において電話サービスをあまねく提供することを確保するため特殊会社とするが、地域通信市場における競争の進展状況に応じて、最終的には完全民営化を目指す。地域通信会社には、地域間の相互参入を認め、既存営業エリア外での電話、CATV、コンテントその他の業務への参入は可能とするが、既存営業エリア内においては、独占力が行使されるおそれがあるため、当面、長距離通信(エリア内、エリア発信)、国際通信、CATV、コンテント等への参入は制限される。
[4] [1]〜[3]の措置は、株主、債権者の権利確保に十分配慮しつつ行う。
[5] 再編成の時期は、10年度中を目途とする。
 オ KDDの在り方
 KDDについては、国際通信専業の特殊法人として、ユニバーサルサービスの確保、緊急時における国際通信の確保、国際情報通信基盤の整備といった重要な役割を果たしてきたが、国際通信分野における世界的連携、国内・国際間の相互参入の進展、国際通信分野の一層の競争の進展等の国際通信市場をめぐる環境変化を踏まえ、次のような措置を講ずることが必要である。
[1] NTTの再編成に先立ち、早期に国内通信業務の提供を認める。
[2] 国際電信電話株式会社法については、KDD以外の事業者によりKDDにそん色のない対地が安定的に確保された段階で、廃止する方向で検討を行う。
 カ 政府の役割
 (ア)  規制緩和の推進
 情報通信産業のダイナミズムを創出するためには、第2次情報通信改革に向け、社会経済情勢の変化や急速な技術革新を踏まえ、上記エ、オで述べた措置を着実に実施するとともに、社会情勢の変化や急速な技術革新を踏まえ、積極的に規制緩和を推進していくことが望まれる。
 電気通信分野においては、透明性の確保に十分配慮しつつ、事業者のおう盛な事業意欲を促すべく、[1]参入規制、[2]料金規制、[3]専用線の利用自由化、[4]外資規制等において、積極的に規制緩和を推進していくことが必要である。なお、規制緩和を進めるに当たっては、市場支配力の濫用を防止し、公正有効競争の確保と消費者の保護を図るなどの観点から、支配的事業者に対しては、いわゆる非対称規制を導入することを検討すべきであるが、これについても、競争の進展状況に応じ緩和し、最終的には廃止すべきである。
 また、情報通信インフラ整備の円滑化を図るため、土地等利用関係の諸規制の見直しを進めるとともに、社会の幅広い分野において、情報通信の高度利用が期待される分野の諸制度の見直しを積極的に推進することが必要である。
 (イ)  接続に関する政策の推進
 現在の接続に関する制度は、事業者間で接続の可否及び条件を協議し、合意が成立すれば接続が実現する仕組みとなっている。
 しかし、NTT地域通信網のように、他事業者にとって当該ネットワークへの接続が不可欠な設備の場合、電気通信事業者全体のサービス多様化の実現や料金の低廉化の観点から、この設備との多様な接続が合理的かつ無差別な条件により迅速に実現することが不可欠である。
 したがって、事業者間の協議に委ねる現行の制度を改め、NTT地域通信網等の一定の市場シェアを有し不可欠な設備を有する事業者と他の事業者との接続に関する基本的ルールを策定するとともに、ルール遵守の実効性を担保する観点から必要な措置を講ずる必要がある。

 

 

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