平成8年版 通信白書

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第3章 情報通信が牽引する社会の変革―「世界情報通信革命」の幕開け―

(5)  非常災害・緊急事態における情報通信の役割

 7年1月に起こった阪神・淡路大震災をはじめとして、近年、被害が甚大で、広域的な災害が発生しており、国土の安全性の向上に対する要請が飛躍的に高まっている。
 非常災害その他緊急事態が発生したときには、まず、情報が迅速に、かつ、正確に伝わることが必要である。そのために携帯電話等最近の新しいメディアの登場とあいまって、情報通信が果たす役割はますます重要になってきている。
 ここでは、阪神・淡路大震災を中心に過去に起こった非常災害・緊急事態において、情報通信が果たした具体的役割について記述するとともに、地方公共団体による防災情報システムの構築状況について記述する。 

ア 情報通信が果たした役割

 阪神・淡路大震災では、一時は30万回線を超える加入電話が途絶したり、停電等により、情報通信機器が使用できなくなるなど甚大な被害が発生するに至った。そのため、被災地が情報から隔絶されたり、連絡がとれなくなり対応が遅れるなどしたため、被害が拡大したり被災者が不便な生活を強いられることになった。
 NHK放送文化研究所の「阪神大震災の放送に関する調査」(注67)(「放送研究と調査」5月号)によると、地震が起きたその日の夜までに被災者が一番知りたかったことは「余震情報」、「安否情報」が多くなっている(第3-3-29図参照)。総合研究開発機構の「大都市直下型震災時における被災地域住民行動実態調査」(注68)(7年10月)によると、地域・近隣での救急、災害復旧で被災者にとって必要だった情報としては、「災害・被害に関する情報(被害状況、避難勧告発令状況、安否等)」が一番多くなっている。また、兵庫ニューメディア推進協議会の「災害時における情報通信のあり方に関する研究」(注69)(7年5月)によると、被災地及び周辺住民が必要としていた情報は、地震発生直後においては「被害状況」、「安否情報」であったが、時間の経過とともに「ライフライン復旧」、「交通情報」、「生活情報」等へと変化している。必要な情報を入手する手段は、「被害状況」及び「交通情報」では「テレビ」及び「ラジオ」、「安否情報」では「電話」及び「テレビ」、「生活情報」では「テレビ」及び「口コミ」、「ライフライン復旧」では、「テレビ」及び「新聞」が多くなっている(第3-3-30表参照)。さらに、「大都市直下型震災時における被災地域住民行動実態調査」によると、自宅や近隣の防災・救急、災害復旧で役に立った生活情報を被災者がどのように入手したのかについての情報媒体の変化は、地震発生直後においては、「近隣の人達」や「ラジオ」から情報入手する人が多かったが、時間の経過とともにこれらは減少し、代わって「テレビ」や「新聞」が多くなっている(第3-3-31図参照)。以上、各種アンケートの結果をみると、阪神・淡路大震災において情報通信が果たした役割は大きい。
 (ア)  携帯電話
 携帯電話は、加入者線部分は無線を使用しているので、有線とは異なり、災害時でも断線による被害がなく、基地局が復旧すれば使用することができる。また、持ち運びができるので、一部の基地局が使用不可能になっても、隣接する使用可能なエリアへ移動することにより、使用することができる。
 阪神・淡路大震災において、被災地への救援活動や復旧活動のために各地から被災地にきたボランティア等は、携帯電話を使用することにより互いに連絡を取りながら機動的に活動することができた。また、ある大手スーパーでは、阪神・淡路大震災後の道路渋滞の際において、各店舗や運転者が携帯電話を使用して物流情報をやりとりしたという例がある。
 これらのことから携帯電話に対するニーズは高まり、阪神・淡路大震災後は、兵庫県では携帯・自動車電話の加入者の増加率が全国の増加率と比べても大きくなっている(第3-3-32図参照)。
 また、非常災害時に限らず緊急時においても、携帯電話が活用された例として、登山の際、道に迷って遭難しかけたが、携帯電話で連絡し、救助されたということがある。
 さらに、警察庁の「平成7年(1月〜11月)の 110番の通報概要」によると、携帯・自動車電話からの 110番受理件数は、約58万 5,600件(全受理件数の11.3%)で、対前年同期比 122.8%増となっており大幅に増加している。
 (イ)  衛星通信
 衛星通信は、通信可能区域が広く、双方向通信及び映像等を含む大容量通信が可能であり、また、災害時においても回線の設定が容易である。
 阪神・淡路大震災において、ある大手スーパーでは、本社と全国の店舗を衛星通信で結び内線電話網を構築していたので、いち早く被災地の情報を収集することができ、被災地に必要な商品をそろえることができた。
 また、郵政省は、衛星通信地球局であるスペースポスト号を利用してレタックスの引受け業務、貯金・保険業務のオンライン業務を7年1月21日から行い、2月6日の終了までに約4千6百人の利用があった。
 (ウ)  ラジオ・テレビ
 ラジオ・テレビは、視聴区域が広く、災害時においても、同時に多数の人に対して同じ情報を伝達することができる。
 阪神・淡路大震災において、兵庫県を放送対象地域とする超短波放送を行うある放送事業者は、震災の当日から地域に密着した生活情報を放送した。また、この放送事業者は、日本語のほか英語、ポルトガル語等7つの外国語による放送を実施し、在日外国人向けにも生活情報を放送した。
 また、兵庫県は、国の現地対策本部やNHK等の協力のもと、臨時災害FM局を開局し、神戸市を中心とする被災地における住民に対して、行政情報、ライフライン復旧情報及び交通情報等の生活関連情報を提供した。
 一方、兵庫県を放送対象地域とするテレビジョン放送を行うある放送事業者では、震災当日から6日間にわたり、コマーシャル抜きで避難場所、給水、給食等被災地住民のための緊急生活情報を中心に地震関連情報を放送した。
 (エ)  ケーブルテレビ
 ケーブルテレビは、地域密着型メディアであり、平常時から防災、広報等の各種行政サービスの提供も行っている。
 阪神・淡路大震災において、兵庫県のあるケーブルテレビ事業者は、震災当日及び翌日は映像を中心に被災状況を放送したが、3日目からは文字情報に切り替えるとともに、24時間の放送体制を組み、生活情報を放送した。
 (オ)  パソコン通信・インターネット
 パソコン通信は、マスメディアでは伝達することが難しいきめ細かい情報も伝達可能であり、しかも情報の蓄積が可能であるため、利用者は自分の都合がよいときにいつでも見ることが可能である。
 阪神・淡路大震災において、あるパソコン通信ネット局は、地震特設コーナーを無料で利用できるようにし、通信社からのニュース速報の配信や被災者名簿を掲載した。また、特定の地域の被災状況や個人の安否の情報について利用者間の情報交換がなされた。
 また、神戸市はインターネットを利用して、焼失地域の地図、避難所一覧、静止画像による被災地の状況等の情報を発信した。
 米国においては、94年1月のノースリッジ地震の際、通勤困難あるいは不可能な状況下において、テレワークを活用することにより円滑に業務が遂行された。地震直後に設置された連邦テレワークセンターにおいて、連邦職員がテレワークを行い、災害時における連邦政府の公共サービスを提供した。

イ 地方公共団体による防災情報システム構築

 自治省の「地方公共団体における地域情報化施策の概要 平成7年版」によると、7年度末現在、現行の防災情報システムを運用(一部運用を含む)している都道府県等は全都道府県等のうち88.1%、開発中は同 3.4%、未着手は同 8.5%である。市区町村においては、運用中は全市区町村(7年度末現在 3,243)のうち51.4%、開発中は同 0.9%、未着手は同47.7%となっている(第3-3-33図参照)。
 また、郵政省の委託調査による「地方公共団体の地域情報化施策等に関するアンケート」を見ると、防災情報システムを運用している都道府県等は83.1%、そのうち現在運用している防災情報システムの見直しをしている(又は見直しをする予定がある)都道府県等は53.1%である。回答のあった市区町村( 1,166)のうち防災情報システムを運用している市区町村は56.1%、そのうち現在運用している防災情報システムの見直しをしている(又は見直しをする予定がある)市区町村が31.5%あり、見直し時期は、7年(見直しをしている市区町村の24.8%)及び8年(同29.6%)が多くなっており、阪神・淡路大震災が契機になっていると思われる(第3-3-34図参照)。


第3-3-29図 地震が起きたその日までに被災者が知りたかった情報

第3-3-30図 被災地及び周辺住民が必要としていた情報等

第3-3-31図 被災者が入手した主な情報媒体の変化

第3-3-32図 阪神・淡路大震災後の携帯・自動車電話加入数の推移

第3-3-33図 地方公共団体における防災情報システムの運用状況

第3-3-34図 地方公共団体における防災情報システムの運用時期及び見直し時期

 

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