平成8年版 通信白書

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第3章 情報通信が牽引する社会の変革―「世界情報通信革命」の幕開け―

(2)  主要な情報通信政策及び情報通信市場のダイナミックな展開・再編

 各国の情報通信政策を見ると、米国では旧AT&T分割を始めとする競争促進政策が採られており、同国の情報通信市場においてはダイナミックな動きが見られる。また、EUにおいては、電気通信の完全自由化への動きが急速に進展してきている。 

ア 米国

 (ア)  主要な情報通信政策
 米国では、1984年のAT&T分離・分割(注36)等の情報通信市場における競争促進政策が採られてきている。その結果、長距離通信分野(以下国際通信を含む。)では、AT&T分割以降、AT&T、MCI、スプリント等のキャリア間での競争が促進され、AT&Tの市場占有率は、売上高でみると1984年に約90%であったが1994年には約55%に低下してきている。また、競争の結果、1983年末には1.85ドルであったAT&Tの最遠距離平日昼間の3分間の通話料金が1994年末には1.02ドルになるなど料金の低廉化も進んできている。
 長距離通信分野におけるこのような競争激化の結果を踏まえ、1995年10月にFCCは、AT&Tを非支配的事業者と認定した。これにより従来、支配的事業者として最長で 120日の公示期間を経ることを義務付けられていた料金改定について、本認定により、AT&Tは1日の事前通知で料金改定が可能となった。
 また、RHCの長距離通信市場への参入禁止については、1982年修正同意審決に原則として禁止されることが定められていた。しかし、1995年2月、司法省はRHCが一定の条件のもとに長距離通信市場に参入し、AT&T、MCI、スプリント等と競争することを奨励する方針を発表した。ただし、RHCが長距離通信市場に参入するためには、当該RHCの地域通信市場においても競争状態にあることが必要であるとし、また、RHCに対し、競争企業との相互接続協定の締結、競争企業に変更した場合でも加入者が以前と同じ電話番号を使用できる「ナンバー・ポータビリティー」等の義務付けを要求している。
 (イ)  1996年電気通信法の制定
 1996年2月、1996年電気通信法が制定された。本法は、米国の情報通信市場の競争促進と規制緩和を図るものであり、その主な内容は、次のとおりである。
[1] RHCに対し長距離通信市場への参入を認めること
 1982年修正同意審決によるRHCの長距離通信市場への参入禁止を解除し、長距離通信市場への参入が認められた。ただし、主な条件として、分離子会社によること、地域の競争条件が整備されていることについての承認、地域通信分野における設備ベースの競争相手との競合が定められた。
[2] 長距離通信事業者に対し地域通信事業へ参入するに際しての障壁を除去すること
  従前は、各州公益委員会による制限が認められていたが、こうした制限が禁止された。
[3] ケーブルテレビ事業者に対し地域通信市場への参入を認めること
  従前は、各州公益委員会による制限が設けられていたが、その制限が廃止された。
[4] 放送局の所有規制を緩和すること
 放送メディアの集中制限を緩和するため、1企業の所有できる局数については、テレビ局に関しては、局数制限を廃止し、合計視聴世帯数の全国視聴世帯数に対する割合(カバレッジ)が従前の25%以内から35%以内に緩和された。また、ラジオ局については、従前のAM・FM各18局以内から同一地域を除き無制限に認められることとされた。
 また、従前は、テレビ局の同一地域内ケーブルテレビの所有が禁止されていたが、テレビ局とケーブルテレビ局の相互所有が認められた。
[5] 暴力・わいせつ情報への対応
 ケーブルテレビ事業者に対し、わいせつシーンの多い番組についてはスクランブルをかけること、テレビ受像機メーカーに対し、暴力・わいせつシーンの多い番組をブロックする機能を付けること(Vチップの内蔵)が義務化された。
 本法の制定により、米国情報通信市場は、地域通信事業者と長距離通信事業者との相互参入等が原則的に可能な構造となった。
 (ウ)  情報通信市場の競争、提携等のダイナミックな展開
 米国の情報通信市場では、事業者間のダイナミックな競争・提携等の動きが見られる。ここでは、その動きの代表例を紹介する(第3-1-27図参照)。
[1] AT&Tの再分割
 1995年9月、AT&Tは、通信サービス以外の通信機器製造及びコンピュータ事業の2事業を、1997年1月に別会社として分離することとした(第3-1-28図参照)。この分割により、AT&Tでは通信事業への集中投資が図られることとなる。さらに、同社は、将来の地域通信市場への参入等に向けて、既に七つの地域事業本部の設立を計画している。
 AT&Tのこれらの経営判断の背景には、1996年電気通信法の制定により、RHCの長距離通信市場への進出が進めば、同市場での競争が一層激化するなど目まぐるしく変化する市場への迅速な対応の必要性への認識がある。
[2] RHCの長距離通信市場への参入
 1995年4月、司法省は、アメリテックに対して、AT&T及びその他の長距離通信事業者に対する地域通信市場の開放を条件に、イリノイ州シカゴ及びミシガン州グランド・ラピッズにおける長距離再販サービスの試行を認める計画を発表した。さらに、1995年10月、司法省はUSウエストの営業区域外の地域通信市場での長距離通信サービスの提供を認めるようにワシントン連邦地裁に申立てを行った。
[3] 長距離通信事業者の地域通信市場への参入
 AT&Tは、1995年1月、初めてニューヨーク州の一部で地域通信市場に参入した。さらに、イリノイ州及びカリフォルニア州でも参入許可を各州公益事業委員会に求めている。
 また、スプリントは、地域通信サービスの提供に向けてTCI、コムキャスト及びコックスケーブルのケーブルテレビ会社3社と合弁会社を設立している。
[4] コンテント事業者等による放送事業者等の買収
 娯楽・映画会社であるウォルト・ディズニー社は、1995年7月、米国3大ネットワークの一つであるABCを買収、傘下に収めることで合意した。
 電機メーカーであるウェスティングハウス・エレクトリック社は、1995年8月、米国3大ネットワークの一つであるCBSを買収することで合意した。
 タイム・ワーナー社は、1995年9月、ケーブルテレビ番組供給会社のニュース専門チャンネルのCNN等を所有するターナー・ブロードキャスティング・システム社を買収することで合意した。
[5] 電気通信事業者と放送事業者の相互参入
 AT&Tは、直接衛星放送会社である DirecTV社の株式の 2.5%をヒューズ社から取得し、今後5年で出資比率を30%まで拡大する権利を取得した。
 また、MCIは、オーストラリアのニューズ社と折半出資の直接衛星放送会社であるASkyB社(仮称)の設立を計画している。
[6] 電気通信事業者とコンテント事業者との提携
 AT&Tは、1995年11月から開始したビジネス向けオンライン情報提供サービスに、CNNの作成したコンテントを流すこととした。
 また、ASkyB社(仮称)は、ニューズ社傘下の20世紀フォックス社の放送ソフトを中心として全米向け多チャンネル放送等のサービスを1997年内に開始する予定である。 

イ 欧州

 (ア)  EUの主要な情報通信政策
 EUの情報通信市場においては、既に加盟国の多くでは電気通信事業者の民営化は終了している。また、競争導入については、加盟国によって差があるものの、進展しつつあり、1995年12月現在、移動通信分野では英国で4社、ドイツで3社による競争が行われているのをはじめ、フランスのほか多くの国で2社競争体制がとられている。また、固定通信分野で競争を導入している国は、英国、スウェーデン及びフィンランドの3か国となっている(第3-1-29表参照)。
 さらに、最近、EUでは、電気通信分野への競争導入の動きが急速に進行している。
 電気通信サービスへの競争導入については、すべての電話サービスへの競争導入の達成期限を原則として1998年1月とすることが、1993年7月にEC(当時)閣僚理事会で採択された。これを受けEU加盟国も着実に電気通信サービスへの競争導入を進めている。
 電気通信インフラ分野への競争導入についても、その達成期限を原則として1998年1月とする決議が、1994年11月にEU閣僚理事会で行われた。また、早期のインフラ分野への競争導入をめざすEU委員会は、1994年12月に音声電話を除く電気通信サービスの提供のため、ケーブルテレビジョンのインフラを代替インフラとして開放することを内容とするケーブルテレビジョン自由化に関する委員会指令案を採択した。本指令案は、EU加盟国等の関係機関との協議を経て、欧州委員会で1995年10月に採択され、1996年1月に発効した。これにより、EU全域において、ケーブルテレビ網による新しいマルチメディアサービスの伝送が可能となった。さらに、電力・鉄道等の代替インフラによる、音声電話を除く電気通信サービスへの競争導入については、1996年7月から実施するとの内容を含んだ電気通信全面自由化指令が、1996年3月に欧州委員会により採択された。
 (イ)  英国の主要な情報通信政策と情報通信市場の競争・提携等の動向
 英国では、1982年のマーキュリーに対する免許の交付以降、BTとの複占政策がとられていたが、1991年にDTIは、複占政策を終了させ、国際通信を除くすべての分野において競争を導入する政策転換を行った。この結果、複占政策の転換後に新規事業者の参入が増加し、1994年末現在、60の事業者に免許が交付されている。
 しかし、現状では電話サービス及び専用線サービス市場におけるBTの売上高の割合は約90%とマーキュリーの約8%に比べて圧倒的なシェアとなっている。そのため、1995年7月、OFTELは、「有効な競争:行動のための枠組み」と題する報告書を発表した。本報告書では、BTの反競争的行為に対応するため、[1]免許条件に一般的に反競争的行為を禁止する条項を規定すること、[2]反競争的行為に関するガイドラインを策定すること等を提案している。この提案が実施されない場合又は有効な競争が促進されない場合には、構造的分離を含めBTの在り方について検討する可能性があると言及している。
 英国では、1991年に電気通信市場への競争導入を実施した際、ケーブルテレビ事業者に電話事業への参入が認められたが、CATV電話は料金低廉化の影響もあり、急速に普及している(第3-1-30表参照)。
 (ウ)  フランスの主要な情報通信政策と情報通信市場の動向
 フランス政府は、1998年のEU域内での音声電話サービスへの競争導入に対応するため、フランス・テレコムの民営化が不可避であるとし、1993年にフランス・テレコムの民営化計画を閣議決定し、民営化を進めようとしている。しかし、実施時期については、労働組合の反対が強く、早くとも1997年まで先送りされることとなった。1993年9月に移動通信分野で、新たな事業者に免許が付与され、同市場での競争が開始された。
 さらに、フランス政府は、1993年10月に移動通信と代替インフラの接続を認める方針を発表していたが、1995年5月にこの方針に基づきフランス国鉄の持つネットワークを移動通信網と接続することを認可した。これにより、フランスでは、インフラ分野においてフランス・テレコムによる独占状態から競争状態へと入った。
 (エ)  ドイツの主要な情報通信政策と情報通信市場の動向
 ドイツでは、1989年の第1次郵電改革により規制体と事業体が分離され、電気通信事業運営の主体であるDBPテレコムが発足した。さらに、DBPテレコムは、1994年7月に第2次郵電改革に関する法案が成立したことにより、1995年1月からはドイツ・テレコム株式会社として新たに発足した。
 また、ドイツにおける電気通信市場の状況をみるとアナログ系移動通信、公衆網の設置及び音声電話サービスは、ドイツ・テレコムの独占となっているが、デジタル系移動通信ではドイツ・テレコム、マンネスマン・モービルフンク及びEプルスの3社体制がとられている。
 現在、ドイツでは、EUの1998年1月からの電気通信市場への競争導入政策に沿って、ドイツ・テレコムの独占を崩し競争を本格化させるため、新たに交付する事業者免許の数を制限しないこと、地域通信市場への参入を認めること等を内容とした通信改革法案が1996年2月に連邦議会に提出されている。本法案が可決されるとドイツ・テレコムの独占体制が崩れ、同国においても競争が本格化することになる。


第3-1-27図 米国情報通信市場における競争・提携等

第3-1-28図 AT&Tの再分割

第3-1-29表 EU諸国の電気通信事業者の状況(95.12現在)

第3-1-30表 英国におけるCATV電話加入者の推移

 

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