平成8年版 通信白書

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第3章 情報通信が牽引する社会の変革―「世界情報通信革命」の幕開け―

(1)  情報通信産業における最先端ビジネス

 ここでは、マルチメディア化のうねりの中で新たな展開を見せている電気通信業及び放送業自身が手掛ける最先端ビジネスのいくつかを紹介する。 

ア 移動通信を利用したニュービジネス

 新事業者の参入や端末売り切り制導入以降の競争促進による利用料金の低廉化、端末機の低価格化等を背景に、携帯・自動車電話サービス、無線呼出しサービス等の契約者数は大きく増加を続けている。また、7年度からは新たにPHSサービスが始まり、さらに、将来的にはMMAC、周回衛星システム、IMT-2000(International Mobile Telecommunications-2000)/FPLMTS(Future Public Land Mobile Telecommunication Systems)等の新たなシステムの導入も検討されている。このようにパーソナル通信に対するニーズが高まる中で、移動通信市場も近年急速に拡大している。昭和60年度には 1,044億円であった移動通信市場は、6年度には1兆 3,867億円までに拡大したが、なお移動通信市場は加速度的に成長を続け、7年度は2兆円を超える見込みである(第3-2-18図参照)。
 (ア)  PHS
 PHS(サービス概要、7年度の状況等については第1章第1節1(1) イ(イ) を参照)は、7年7月1日にサービスが開始されて以来、加入契約数は短期間に大きく増え、8年2月末には百万台を突破した。
 データ通信における移動通信サービスの利用形態を見ると、最近では携帯・自動車電話でも、デジタル通信の特性を生かした各種アダプタ、携帯型ファクシミリ等が商品化されるなど、様々な利用形態に合わせた形でのサービスの利用が始まっている。
 PHSでも、携帯・自動車電話より高速な32kb/sのデータ伝送、さらに将来的には2スロットを並列使用した64kb/sのデータ伝送が予定されている。なお、32kb/sのエアインタフェースの標準規格は7年12月に決定し、8年以降、商品化される予定である。PHSは、通話エリア、移動速度の面で一定の限界があるが、料金が携帯電話より安く設定されており、都市部を中心にマルチメディア移動通信のインフラとしての成長が期待される。
 7年10月には、PHSを利用したインターネット・アクセスやパソコン通信等の各種アプリケーションの開発を行うことを目的として、(社)電波産業会を事務局とする任意団体であるPHSインターネット・アクセス・フォーラムが設立され、無線分野及び情報処理分野から70社程度が参加している。このフォーラムでは、7年度中に伝送方式を開発し、相互運用性の実証を経て、8年度末に製品の実用化を目指している。
 また、立ち上がったばかりのPHSサービスの通話エリアの狭さを補うために、PHSと無線呼出しを併用したサービスが実施されている。無線呼出しは、カバーエリアが広く、高速移動中でも呼出しが可能であり、PHS利用者に対して着信を確実にするメリットがある。
 (イ)  衛星を利用した移動通信
 通信衛星を利用した移動通信サービスは、基地局の機能を衛星に持たせたもので、衛星が見通せる場所であれば、どこでもサービスが利用できる。
 この通信衛星を利用した移動通信サービスについて、まずは静止衛星を使って、国・地域を限定したサービスが始まっている。我が国においては、7年8月及び8年2月に静止軌道に打ち上げられたN-STARa及びN-STARbを使用し、NTTDoCoMoが8年3月から携帯・自動車電話サービスのエリア補完のため、日本全国をカバーする国内移動衛星通信サービスを開始している。なお、このサービスは、沿岸無線電話サービスの後継及びエリア拡大を目的としており、そのサービスエリアは日本周辺海域(ほぼ 200海里)をカバーしている。
 また、現在の携帯・自動車電話では、通信方式の違いなどから海外では使用できず、静止衛星による移動通信サービスもサービス利用地域が限定されるが、周回衛星を使うことにより全世界規模でのサービスが可能となる(第3-2-19表参照)。
 (ウ)  無線呼出し
 昭和49年から始まった無線呼出しサービスは、7年7月には加入者数が1千万を突破するまでに拡大した。その利用形態は、従来の呼出しのみの利用から情報伝送、メッセージ交換的な使われ方に大きく変化している。
 このような背景から、収容量の増加が図られ、大量のデータ伝送が可能となる高速無線呼出しサービスの早期実用化が求められていたため、8年春から「FLEX-TD方式」のサービスが開始される予定である。この方式では、1,600b/s、3,200b/s、6,400b/sの段階的な高速化が可能であり、1チャンネル当たりの加入者容量は、従来方式に比べて最大で約10倍であり、パソコン通信と同程度の通信速度により、多様なサービスが可能となる。また、基地局側で複数回呼出しを行い、受信率の向上を図ったり、端末の消費電力が少なくなるので、電池の長寿命化、小型化による端末本体の小型、軽量化が可能となる。
 また、FMラジオ電波のすき間を利用したFM多重無線呼出しサービスは、現行の無線呼出しのように専用の電波を使用せず、低コストでサービスの提供が可能であり、また、いわば通信と放送の融合を図る意味で先陣を切るものでもある。FM多重無線呼出しサービスでは、加入者容量やサービスエリアに制約がある反面、これまでの無線呼出しにない新しいサービス(例えば、ニュース、天気予報等の情報提供サービス)が登場することも予想され、無線呼出しサービスの多様化が一層進展するものと期待されている。
 現在、FM多重無線呼出しのサービス開始に向けては、FM放送事業者が中心に検討を行っている。FM多重無線呼出しの方式としては、HSDS方式とDARC方式の2方式があるが、若干加入容量が少なくなるものの、1つの放送局が両方式を短時間に切り替えて送信し、見掛け上両方式を同時に送信する「交互送信」についても検討が進められている(第3-2-20表参照)。
 都市型ケーブルテレビは双方向性機能を持っており、単にテレビジョン放送サービスだけでなく、様々なサービスの可能性を秘めている。テレビジョン放送以外の新サービスへの取組は、まだ始まったばかりであるが、現在までに広域電話サービス、インターネットへの接続、ビデオ・オン・デマンド、教育・在宅医療支援等について、多彩な実験が展開されている(第3-2-21表参照)。
 ケーブルテレビ網を使った各種サービスが実施された場合、ネットワーク設備を放送と通信で共用できるため、それぞれ専用に利用する場合に比べ安価にサービスが利用できるメリットがある。また、料金体系も放送に準じて現在の通信料金とは違った形になり、例えばエリア内の電話や、パソコン通信の月額固定料金の設定ができるなど、使用方法に応じたユーザーの選択範囲が広くなるものと思われる。
 (ア)  電話系サービス
 CATV電話やPHS/C、パソコン通信等、電話系サービスの実験は、プロジェクトの数としては最も多く、上り回線の流合雑音の問題等、ケーブルテレビ施設がパソコン通信やファクシミリを含む固定電話及びPHSの伝送路として活用できるかどうかの技術的検証が実験の中心課題となっている。複数のケーブルテレビ施設を公衆通信網で相互接続して広域ネットワーク化を目指す実験も行われている。
 主な実験プロジェクトとしては、フルサービス・ネット委員会における次世代ネットワーク研究会によるCATV電話、PHS/C実験等がある。
 (イ)  LAN系サービス
 最近の傾向として、インターネット接続を含む高速データ伝送系のサービスをケーブルテレビによるLANシステムで実現しようとする実験が急速に増えてきている。ケーブルテレビ網を一つのLANと見てケーブルモデムで各端末をつなぎ、インターネット接続、ビデオ・オン・デマンド、テレビ会議、英会話コンテント等へのアクセス、10Mb/s 程度の高速データ伝送等の実験が行われている。また、LANシステムにより、図書館情報ネットワークシステムや医療情報ネットワークシステムを構築する実験も行われている。
 なお、これらの実験により得たノウハウをベースに具体的な事業化に向けた取組として、あるケーブルテレビ会社では、7年12月に第一種電気通信事業の許可を取得し、9年4月から高速インターネット接続サービス(最大27.5Mb/s )を開始する予定である。
 (ウ)  その他のサービス
 早くからケーブルテレビ網を利用したサービスの代表例として見られてきたビデオ・オン・デマンドは、コスト面の問題から実験プロジェクトは大きなものに限られてはいるが、FTTHによる実験も開始されている。その他にも、一つの番組を時間をずらして複数チャンネルで放送することにより、少ない待ち時間で最初から見られるニア・ビデオ・オン・デマンド、ホームショッピング、在宅健康管理等の医療支援サービス、交通情報・地域情報等の情報提供サービス等、多彩な実験が展開されている。

ウ 衛星放送のニュービジネス

 最先端のデジタル技術を使用した衛星デジタル多チャンネル放送(50チャンネル以上のテレビ放送、 100チャンネル以上の音声放送)については、7年8月に打ち上げられた通信衛星JCSAT-3を使って、8年4月から試験放送が、秋ごろからは有料放送が本格的に始まる予定である。
 このデジタル技術による多チャンネル化により、従来よりも個々人の趣味に応じた番組内容が様々な形で提供されることになる。その他にも、見た番組に応じて料金を払うペイ・パー・ビュー、ニア・ビデオ・オン・デマンド等の新しいサービスが開始される予定であり、さらに将来的には、テレビ画面上での注文が可能となるホーム・ショッピングや旅行予約等のサービスも可能となる。
 なお、デジタル放送は、既に米国等において開始されているが、我が国ではこの衛星デジタル多チャンネル放送により、初めて本格的なデジタル技術が放送分野に導入されることとなる。この技術の利用により、例えば、従来のテレビジョン放送であれば1チャンネルしか放送できなかった周波数を使用して、4〜8チャンネルの放送ができる。このため、放送にかかるコストの低下や少ない周波数資源の有効利用が可能となる。


第3-2-18図 移動通信市場の拡大

第3-2-19表 衛星を利用した主な移動通信サービス等

第3-2-20表 各種無線呼出しシステムの比較

第3-2-21表 ケーブルテレビを利用したニューサービス(実験プロジェクト)

ケーブルテレビを利用した電話システム(実験システム)

ケーブルテレビを利用したインターネット接続実験(インターネットアクセス)

 

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