平成8年版 通信白書

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第3章 情報通信が牽引する社会の変革―「世界情報通信革命」の幕開け―

1 ニュービジネスの起爆剤としての情報通信

 (1)  新しいビジネス・スタイルの出現による効率化

 企業の情報通信の高度化に伴い、新しいビジネス・スタイルが出現し、これまでの企業活動の仕組みを大きく変革しつつある。ここでは、その新しいビジネス・スタイルを、[1]企業内の生産性の向上及び協調的な業務遂行、[2]企業間のオープンかつ機動的な関係の形成、[3]企業と消費者との新しい関係の構築の三つに類型化し、情報通信システムの効果等について分析する。 

ア 企業内の生産性の向上及び協調的な業務遂行

 企業においては、社会のめまぐるしい変化に的確に対応するため、意思決定の迅速化を図り、業務遂行の協調化を図っている。これらの企業活動を支えるツールとして、電子メール、グループウェア、移動通信端末等の情報通信ソフトウェア・機器が活躍している。
 (ア)  電子メールによる迅速な意思決定
 電子メールは、相手や自分の都合に関係なく確実に情報を送受信できたり、受信したメールの転送や回覧が容易かつ迅速にできるなどの特長がある。このため企業にとっては、電子メールの活用により組織の上下関係によらない迅速な意思決定が可能となり、業務効率が大幅に改善され生産性の向上に寄与している。
 従業者数 500人以上の全国の企業を対象に、日本電子メール協議会が行った「企業における電子メールの動向調査」(7年11月)によると、最近企業において電子メールの導入が急速に進展している(第3-2-1図参照)。
 また、郵政省が行った「平成7年度通信利用動向調査(企業対象調査)」(7年9月)によると、企業全体の4分の1程度が電子メールを既に利用しており、利用予定がある企業まで含めると、約半数の企業での利用が見込まれる。これを産業別に見ると、利用率は「サービス業、その他」で最も高く、利用予定企業までを含めた利用見込みでは「金融・保険業」が最も高くなっている。従業者数別では、利用率は、 2,000人以上の企業では、5割を超えているが、 300人から 499人までの企業でも、利用予定も含めた利用企業見込みでは、4割ある(第3-2-2図参照)。
 電子メールに採用しているシステムを見ると、自社に設置したシステムが65.5%、外部パソコン通信ネットが26.5%、外部VANセンター(パソコン通信ネットを除く)が 4.8%となっている。前回調査(5年12月)と比較すると、外部VANセンターの割合が減り、代わって外部パソコン通信ネットの割合が増加した(第3-2-3図参照)。
 (電子メールの利用事例)
 東京都のある商事会社では、テレックスシステムの老朽化にともない、ホストコンピュータで一括情報管理を行う電子メールシステムを全社的に導入した。このシステムの特長は、全社的にテレックスとファクシミリと電子メールとを相互にメディア変換して、送信することができ、業務連絡の効率化が図られている。また、この電子メールシステムは、組織をまたがったコミュニケーション、出張先からのリアルタイム報告等にも利用され、迅速な意思決定が可能となっている。同社はさらに、今後このシステムの海外拠点への拡大を図り、既存の電子キャビネット機能を拡充させ、グループウェアシステムへと展開する予定である(第3-2-4図参照)。
 (イ)  グループウェアによる情報格差の解消
 グループウェアとは、コラボレーションと呼ばれる企業の業務等の創造的な協調作業を、コンピュータ通信網等を介して支援するためのソフトウェアである。基本的な利用の目的は、業務に関連する情報をグループのメンバー間で共有し、情報格差を解消することにより、グループ内の協調作業を効率化することである。
 企業内のグループウェアの利用に不可欠なLANについて、企業の導入が盛んになっている。郵政省が行った「平成7年度通信利用動向調査(企業対象調査)」(7年9月)によると、LANを利用している企業は50%を超え、利用予定がある企業まで含めると、約70%の利用が見込まれる。これを産業別に見ると、利用率は「金融・保険業」で最も高く、「建設業」及び「製造業」がこれに続き、これら3産業では6割を超える企業がLANを導入している。また、利用予定がある企業まで含めると、「建設業」が最も高く、「金融・保険業」がこれに続き、これら2産業では、8割を超える企業がLANを利用するか、利用を予定している(第3-2-5図参照)。
 また、従業者数 300人以下の会員企業を対象に、東京商工会議所が行った「中小企業における情報ネットワーク化に関する調査結果報告書」(7年7月)(付表40)によると、中小企業のLANの利用率は約16%であり、今後利用予定がある企業まで含めると約35%の中小企業で利用が見込まれる(第3-2-6図参照)。これを業種別に見ると、最も、利用率が高い業種は「金融・保険業」で、これは大企業と同じであるが、以下利用率が高い業種は、「運輸・通信業」、「製造業」、「卸売業」と続き、大企業で利用率が高かった「建設業」は中小企業では低くなっている(第3-2-7図参照)。
 グループウェアは、従来、これまでの既存業務システムとの連携を取りながら利用が拡大してきたが、最近、ボイス・メールやビデオ・メール、テレビ会議システム等マルチメディア機能をグループウェアに取り込もうという動きが出てきている。また、1企業内だけでなく複数の企業間での情報共有のツールとして、インターネット上でグループウェアを利用しようという形態も現れている。
 (グループウェアの利用事例)
 東京都のある化学製造会社では、グループウェア機能を取り入れた社内パソコン通信システムを構築している。
 このシステムは、サーバ1台に、ユーザー数約1万5千名、同時利用可能回線数 128という構成であり、電子メール、電子掲示板、電子会議室(フォーラム)、インターネットを含む外部ネットとの接続、外部データベースとの接続等の機能を持つ。電子会議室は、現在 500件ほど開設されているが、そのうち取引先との間に開設している電子会議室もあり、取引先との情報は社内の部門を越えて共有できるようになっている。各電子会議室にはモデレータがいて、自主的に管理・運営を行っている。
 このシステムを利用することで、社員間の情報の共有化が進み、毎月行っていた定例会議が3か月ごとに削減された。営業所間の業務連絡の迅速化が図られるとともに情報格差の解消が図られた。研究部門から営業部門までの情報の共有化により、営業部門での技術情報の活用及び研究部門での営業・マーケティング情報の活用等が行えるようになった。全国の工場及び支社等に回す社内回覧等は、従来、約2か月かかっていたが、電子メールの活用により情報伝達が瞬時に伝わるようになった。
 (ウ)  移動通信による位置の制約からの解放
 移動通信端末の普及により、企業は位置の制約から開放されつつある。例えば、営業職が外出先から受注情報を送ったり、顧客サービスに関する情報を入手することが可能になり、営業職の生産性の向上が図られている。
 従業者数5人以上の全国の事業所を対象に、郵政省が行った「平成7年度通信利用動向調査(事業所対象調査)」(7年9月)によると、事業所における携帯電話サービスや無線呼出しサービスなどに代表される移動通信の利用は近年急速に普及しており、特に携帯電話の普及率は、6年調査結果と比べ、事業所の規模とかかわりなく増加している(第3-2-8図参照)。
 さらに、PHSサービスについては、現在、事業所での保有は数%と低いものの、30%程度の事業所で保有の意向があり、今後の普及が期待される(第3-2-9図参照)。
 今後、移動通信のマルチメディア化により、データ伝送や、ATM技術を中心にした基幹ネットワークとの接続等が可能になっていくと予想される。
 (移動通信端末の利用事例)
 東京都のあるビル管理運営会社は、6年10月、事業所用デジタルコードレス電話を導入し、ある複合利用施設のビル内と敷地内をカバーする内線電話網を構築して、セキュリティ管理と顧客サービス業務の効率化に役立てている。
 この施設には、約8万3千m2 の広大な敷地に、高層オフィスビル、ホテル、百貨店、劇場、美術館、高層住宅等がある。そのため、防災・設備管理・セキュリティ・駐車場管理を迅速に行う上で、施設内の位置に制約されない双方向通信可能なコミュニケーション・ツールが必要と判断され、本システムが導入された。
 本システムにより、平日は3〜4万人、休日は7万人を越す来客者の中で、駐車場への車の効率的な誘導等の日常業務や、病人発生時等における救急連絡のスピードアップが図られている。

イ 企業間のオープンかつ機動的な関係の形成

 企業は、生産・物流等の分野でのコストダウンや製品開発期間の短縮等の理由から、電子データ交換(EDI)、CALS等の情報通信ネットワークに関連したツールによって、オープンかつ機動的な企業関係を形成してきている。また、バーチャル・コーポレーションの登場により個人・中小企業がオープンに結集することで、活力あるビジネスを展開している。
 (ア)  商取引データの共通化
 EDIは、情報通信ネットワークを用いて企業間において、商取引データ(発注・納品伝票等)を電子的に交換することである。ファイル転送や電子メール等の技術をベースとして、我が国でも約10年前から導入が始まった。EDIが普及することにより、商取引に関する情報授受の効率向上、事務処理の効率向上及び業務の標準化等の効果がある。現在は、業界によるEDIの標準化から、業種を越えて利用可能な標準EDIが普及しつつある。
 郵政省が行った「平成7年度通信利用動向調査(企業対象調査)」(7年9月)によると、EDIを利用している企業は40.0%あり、前回調査(5年12月)と比較して10ポイント以上伸びており、利用予定がある企業まで含めると、半数近くの利用が見込まれる。
 これを産業別に見ると、「卸売・小売業、飲食店」で最も利用率が高く50%を超える。「製造業」がこれに続き、利用予定がある企業まで含めると、50%を超えている。
 また、従業者数別に見ると、従業者数 2,000人以上の企業では利用率が5割を超えているが、 300人から 499人までの企業でも3割以上が利用している(第3-2-10図参照)。
 EDIによって情報を交換している企業の割合を情報の種類別に見ると、受注情報が半数を超え、以下、発注情報、入出金情報と続く(第3-2-11図参照)。
 また、それぞれのEDIの相互接続を図るため、標準化の動きも出てきている。
 (EDIの利用事例)
 東京都のある機械部品商業界団体は、23のメーカーが製造する総数約 280万点の部品について加盟員による受発注業務を支援するため、ソフトウェア会社の協力を得て、各部品を独自のコードで統一化したデータベースの構築を行い、メーカーへの発注を電子化して行うEDIシステムを開発した。5年からデータをCD-ROMに収めデータベース化し、月に1回の頻度でデータを更新している。
 従来は、加盟員の機械部品商は、部品の種類が膨大であるため、ベテラン従業員でないと、ユーザーからの問い合わせへの対応や部品の受発注ができなかった。しかし、本システムの導入によって、ベテラン従業員でなくても、部品の検索・受発注業務が可能になるとともに、受発注時間を大幅に短縮することができるようになった。しかも、伝票の即時発行が可能となり、また、売上計上漏れ、在庫の誤確認等がなくなり、業務が効率化、高信頼化された。
 (イ)  生産・調達・運用支援の統合化
 調達から設計、開発、生産、運用、管理、保守に至る製品情報を統合データベースで一元管理するシステムの概念として、CALS(注41)という語が用いられる場合がある。これは、言い換えると、情報通信を利用し、企業間においてデータのやり取りをスムーズに行えるようにするとともに、文書データ、取引データ、図面データ及び製品データの標準化を行いデータの再利用を行えるようにし、無駄な作業を排除することを目的とするものである。CALSは、開発期間の短縮、品質向上、コスト削減等様々な効果をもたらしている。
 (CALSの利用事例)
 東京都のあるメーカーは、コンピュータ開発部門及び製造部門においてCALSを取り入れたシステムを導入して、効率化を図っている。
 このシステムは、開発部門が管理していた設計情報と製造部門が管理していた製造情報を共有化するために、各部門間のデータの連携を図った。これにより、開発部門及び製造部門が使用するパソコン端末を高速専用線で自社製品及び他企業からの購入部品のデータベースに接続でき、設計・製造情報の統合管理が行われ、並行作業が促進された。従来、設計部門で利用されていたCADシステムにおいては、図面データと部品データの一致を行うことができなかったが、CADにより作成された設計情報を管理する設計情報管理システムにより、設計データ等がオンラインで製造拠点に送られ図面データと部品データの一致が可能となった。技術情報の共有化を行うために、総数約 100万ページに及ぶ規格文書等を、ISOで標準化された文書処理言語であるSGMLに対応させ電子化し、WWWサーバからイントラネットで提供している。
 取引先との資材調達に、納品書のバーコード入力が可能なEIAJ標準に対応したEDIシステムをこのシステムに組み入れたことにより、これまで伝票が到着するまで3〜4日かかっていたのが、翌朝には電子伝票が届くようになったことで、調達のリードタイムが短縮された。
 (ウ)  バーチャル・コーポレーション
 バーチャル・コーポレーションとは、情報通信ネットワークを活用し、複数の企業や個人があたかも一つの企業のようにビジネス活動を行う組織形態である。バーチャル・コーポレーションの利点は、中小企業や個人でも特定の分野で強みをもつ組織や人が集まることで、大企業より優れた製品やサービス等を提供することができることである。また、いつでも結成したり解散したりできる柔軟な組織形態をとることで、ビジネス環境の変化にすばやく対応することも可能になる。
 (ゲーム開発におけるバーチャル・コーポレーションの事例)
 東京都のある小規模のソフトウェア開発会社は、ゲーム開発、販売のため、バーチャル・コーポレーションを設立した。開発案件ごとに、外部のゲームクリエータ、プログラマ等で構成される。
 このバーチャル・コーポレーションでは、ISDN等の通信回線を通じてクリエータの自宅・オフィスのパソコンとバーチャル・コーポレーションのネットワークサーバを接続して、グループウェアソフトを利用し電子会議を行いながらゲーム開発を行っている(第3-2-12図参照)。
 (印刷業におけるバーチャル・コーポレーションの事例)
 広島県のある中小印刷業者が中心となって、全国14社の中小印刷業者が、7年11月、情報通信ネットワークを活用した共同受注組織を結成した。
 この共同受注組織は、各社がサーバを設置してISDN回線で結び、最近受注が急増しているインターネットのホームページ製作やソフトウェアの製作を集中受注・分散製作のスタイルで行うことを目指している。
 加盟各社は、それぞれ独立経営する一方で、バーチャル・コーポレーションとして提携している。例えば、ある会社の東京本社からホームページや印刷物を受注し、長野でデジタル編集し、北海道で印刷し、その会社の札幌支店に納入することもできるよう、受発注データは全国に瞬時に送られ、情報の共有化を行っている。
 この共同組織は、中小印刷業者で共同組織を作ることにより、大手印刷業者に対抗できる事業能力を身につけるとともに、インターネット等の新しい事業分野へ進出することもねらいとしている。

ウ 企業と消費者の新しい関係の構築

 情報通信ネットワークを利用して、企業と消費者が直接取引を行うことのできる電子商取引が始まりつつあり、企業と消費者の新しい関係が構築されつつある。ここでは、電子商取引のこのような側面と、それに伴う電子決済に関する動向を紹介する。
 (ア)  電子商取引(Electronic Commerce )
 電子商取引は、情報通信ネットワークを利用して、オンラインで商取引を行うことである。電子商取引の利点は、利用者にとっては、情報通信を利用し、24時間いつでも購入の申込みをすることができること、また、企業にとっては、在庫を抱えなくて済むこと、いつでも、無店舗で商品を販売することができるなどの流通コストの削減が可能となることが挙げられる。
 (電子情報媒体と情報通信を利用したコンテント販売の事例)
 東京都のあるメーカーは、パソコン通信会社の協力を得て、パソコン通信とCD-ROMを活用した新たな流通方法によるコンテントの販売ビジネスを行っている。
 同社は、複数のコンテントをまとめてCD-ROM等の媒体に収録し、パソコン通信の会員誌の付録として利用者に届ける。利用者は、コンテントの一部の内容を確認し、購入したい場合は、パソコン通信を利用して「鍵」を入手することにより、特定のコンテントを利用する資格を獲得することができる。決済(代金徴収)は、パソコン通信会社がパソコン通信サービス料金に付加することにより行う。
 (イ)  電子決済
 電子決済は、情報通信ネットワークを用いて資金決済を行うことである。価値をどのような媒体に保存するかによって、ICカード型とネットワーク型に分けることができる。電子決済の利点は、通信・情報処理技術の進展によって、迅速・低廉な決済サービスを可能とすることであり、その実用化が、電子商取引の普及のポイントとなっている。
 電子決済においては、オープンネットワーク上で資金を動かすことに伴うセキュリティの強化、例えば、[1]取引相手は真正な相手なのか、[2]取引情報を第三者に盗まれないか、[3]取引情報が途中で改ざんされないか、[4]取引した事実を相手に否認されないかなどをチェックする技術の開発が課題となっている。


第3-2-1図 電子メールの導入社数

第3-2-2図 電子メールの利用率及び今後の利用予定

第3-2-3図 電子メールの採用システム

第3-2-4図 電子メールシステムの概要

第3-2-5図 LANの利用率及び今後の利用予定

第3-2-6図 LANの利用段階(中小企業)

第3-2-7図 業種別のLANの利用段階(中小企業)

第3-2-8図 事業所規模別にみた移動通信の保有率

第3-2-9図 PHSの保有率及び保有の意向

第3-2-10図 EDIの利用率及び今後の利用予定

第3-2-11図 EDIによって情報を交換している企業の割合

第3-2-12図 ネットワークの構成

 

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