平成8年版 通信白書

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第3章 情報通信が牽引する社会の変革―「世界情報通信革命」の幕開け―

(2)  公共分野における変化

 ここでは、公共分野における情報通信の高度化について、保健・医療・福祉、教育、行政の国民生活に身近な三つの分野における状況を概観する。 

ア 保健・医療・福祉の分野

 (ア)  情報通信の高度化の状況
 保健・医療・福祉の分野における情報化は、まず業務の効率化の観点からのコンピュータの導入が先行してきた。
 例えば、医療の分野で見ると、(社)日本病院会の「病院概況調査報告書」(7年6月)によれば、コンピュータを利用している医療施設は全体の98.2%となっているが、実際にコンピュータを利用している業務としては、医療事務あるいは病院管理に限定している施設が65.7%となっている。一方、LANを用いた医療支援システムを構築している施設は 3.1%にとどまっている。
 しかし、高齢社会の進展に伴う患者の絶対数の増加に対し、保健・医療・福祉の分野においても、利用者の利便性の向上に直結したネットワークシステムの導入による情報通信の高度化が進みつつある。
 (イ)  導入事例
 (がん診療支援システム)
 東京都のある国立センターでは、がん診療に関する先端的な研究が行われている。がん研究においては、遺伝子レベルの研究に関する膨大な情報量の蓄積と、検索作業の効率化が必要である。
 このため、この病院では、これらの情報のデータベース化と、千葉県にあるキャンパスとの間で光ファイバー等を利用したLANを構築することにより、日常的に発生するデータベースの検索がいつでも簡単に行えるほか、電子メールやテレビ会議等が利用できるようになっている。また、[1]画像伝送を用いたテレカンファランスシステム(合同症例検討)、[2]X線画像の伝送によるテレラジオロジーシステム(遠隔放射線診断)、[3]顕微鏡の遠隔操作を含むテレパソロジーシステム(遠隔病理診断)等の先進的な利用についても取り組んでいる。
 また、外部のネットワークとも接続し、国内4か所のがん研究を行っている国立病院とも結ばれているのみならず、インターネットとの接続により、海外の関係機関等との連絡や情報収集を行っている(第3-3-9図参照)。
 (CATV総合情報ネットワークシステム)
 五色町(兵庫県)では、ケーブルテレビ網の双方向性を利用した情報通信システムを導入し、高齢者等の保健・医療・福祉に役立てている。
 「在宅保健医療福祉支援システム」は、在宅療養を希望する重症疾患者、要介護高齢者等が在宅のまま健康管理が行えるよう、携帯型又は据置型端末を使って、音声、映像のほか、必要な計測データ等を遠隔地の医療機関に伝送することを可能とするものである。医療機関まで移動する必要がなく、いつでも専門家と連絡を取ることができるため、利用者のみならず、介護者の心理的な負担も軽減されている(第3-3-10図参照)。
 また、「緊急通報システム」は、一人住まいの高齢者等が体調に異変を感じた時、ボタンを押すだけで医療機関等に通報され、必要な処置を迅速に受けることができるものである。
 (情報長寿社会構築に向けてのモデル実験)
 金沢市(石川県)では、郵政省及び厚生省と協力して7年度より、高齢者宅等と地域福祉センター、市の保健所、ボランティア宅等の高齢者の生活に密接な関係のある諸施設にテレビ電話やパソコン通信を導入し、高齢者の生活を支援するシステムを構築し、実際の利用を通じて有用性の検証を行っている。
 例えば、一人住まいの高齢者を訪問し世話をするボランティアと高齢者との間を結び、より緊密な交流を図ったり、老人ホームと地域福祉センターを結び、ホームの入居者とセンターを利用する高齢者間相互の交流を図ったりしている。また、商店と高齢者を結び、品物を確認しながら買い物の注文を行うといった利用がなされている。

イ 教育の分野

 (ア)  情報通信の高度化の状況
 高度情報通信社会に向けて、今後、情報の入手・加工・発信に関する基礎的な能力を身に付けることが求められており、学校教育においても積極的な取組が進められている。
 教育の分野における情報化の進展について、文部省の「学校教育における情報教育の実態等に関する調査結果」により、各教育機関におけるコンピュータの導入状況から見てみる。
 6年度末のコンピュータの設置率につき教育機関別に見ると、小学校が77.7%、中学校が99.4%、高等学校が 100%、盲学校が98.5%、ろう学校が 100%、養護学校が96.7%となっている。また、元年以降の設置率の推移を見ると、設置率が最も低い小学校においても、ここ数年間で急速に設置率が伸びている(第3-3-11図参照)。
 教育における情報通信の高度化の状況について、米国のカリフォルニア州の例を見てみる。米国カリフォルニア州のシリコンバレーは、半導体生産をはじめとするハイテク企業が集中する一帯として知られるが、このシリコンバレーの有力企業から組織される非営利団体が中心となり、2000年までに同州内の全小中学校をインターネットに接続するという計画が進められている。2万人近いボランティアが動員されるほか、コンピュータの供与及びシステム構築、月額定額料金のようなインターネット利用を想定した特別料金設定による通信サービスの提供、教師に対するコンピュータ教育等の技術サポートには民間企業が協力することとなっている。
 (イ)  導入事例
 山梨県のある小学校では、インターネットを利用した授業を行っている。
 この小学校には、テレビ会議システムが置かれた部屋及び20台のパソコン等の情報通信機器が設置された専用の教室があり、児童は2人で1台のパソコンを利用することができる。
 この小学校は大学の附属施設となっていることから、これらのパソコンは、大学が構築した学内ネットワークに接続され、インターネットの利用を含め外部のネットワークとの通信が可能となっている(第3-3-12図参照)。
 これらの情報通信機器は、低学年から高学年までの児童の学習進度や教科の内容に応じて柔軟に利用されているが、まず、端末操作を含め情報通信の特性を理解することから始め、次第に、情報通信を利用することにより、学校以外の外部との接触を学べるよう指導が行われている。
 例えば、課題追究活動を行う際には、ホームページを利用して、追究する課題に関する知識や情報の提供を広く一般に呼びかけ、知り合った協力者との間では、電子メールを利用して情報交換を行っている。研究成果がまとまると、ホームページ上での発表も行っている。このような児童の発表作品に対し、海外からのアクセスを受ける場合もある。

ウ 行政の分野

 (ア)  情報通信の高度化の状況
 行政における情報化は、当初、地方公共団体自身の内部事務処理の効率化を目的として庁内事務処理の分野から着手されてきた。最近では、窓口業務の改善、システムの統合による住民サービスの向上等、地域住民と接点がある分野において情報通信の利用が進んでおり、これに伴い、情報通信端末のネットワーク化が進展し、情報通信が高度化してきている。
 自治省の「地方自治コンピュータ総覧 平成7年度版」(8年1月)によれば、住民票の自動交付システムの導入が増加しており、このような例からも住民サービスの向上における情報化の進展が分かる(第3-3-13図参照)。
 また、自治省の「地方自治コンピュータ総覧」により、地方公共団体におけるパソコンの総設置台数及びホストコンピュータや他のパソコン等と接続されたネットワーク化率の推移を見ると、都道府県、市区町村とも近年、パソコンの総設置台数及びネットワーク化率が急激に伸びていることが分かる(第3-3-14図参照)。
 (イ)  導入事例
 浜松市(静岡県)では、LAN等の整備により住民サービスに関する受付窓口の一本化が実現されている。
 従来、浜松市役所では、各サービスごとに届出・申請窓口が分かれていたが、住民情報のデータベース化及びLAN等の導入により、受付窓口を一本化した「市民総合窓口センター」に住民が出向くだけで様々なサービスについて対応が受けられる、ワンストップサービスが実現されている。住民票の写しの交付等の定型化した申請・交付処理であれば、申請から交付料の支払い、交付までのすべての処理に要する時間はわずか3分であり、待ち時間はほとんど無くなっている。
 さらに、市内27か所には、ネットワークで結ばれた「市民サービスセンター」が設置され、市役所本庁とほぼ同様のサービスが受けられるようになっている。これにより、市役所本庁まで出向くことなく最寄りの市民サービスセンターで様々な住民サービスを受けることができ、住民の利便性が著しく向上されている(第3-3-15図参照)
写真。


第3-3-9図 がん診療情報ネットワークシステム

第3-3-10図 CATV総合情報ネットワークシステム(在宅保健医療福祉支援システム)

CATV総合情報ネットワークシステムの利用風景

第3-3-11図 学校教育におけるコンピュータの設置率の推移

第3-3-12図 インターネット利用システム図

第3-3-13図 住民票自動交付システムの導入件数の推移

第3-3-14図 地方公共団体におけるパソコン総設置台数及びネットワーク化率の推移

浜松市の市民総合窓口センター

第3-3-15図 浜松市市民総合窓口センター・市民サービスセンターLANシステム構成図

 

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