平成8年版 通信白書

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第3章 情報通信が牽引する社会の変革―「世界情報通信革命」の幕開け―

1 グローバルネットワークとしてのインターネットの急速な普及

 (1)  インターネットの普及状況

 インターネットは、世界中のコンピュータ・ネットワークをつなげたグローバルなネットワークであり、ここ数年、爆発的な膨張を続けている。
 インターネットにより、ネットワークにつながっている者はだれでも、都市・地方、国内・国外といった地理的な制約なしに、世界中の人々と情報交換ができる。また、インターネットを利用することで、中小企業や個人でも大企業と同じレベルで、全世界が相手の活動を行うことが可能となる。
 インターネットは、このように全世界に変革をもたらすものとして、「世界情報通信革命」を先導するものの一つであると言えるだろう。
 1996年1月現在、全世界では約 947万台(注28)のホストコンピュータがインターネットに接続され、その利用者は1億人(注29)に迫ろうとしているが、なおその勢いは衰えることなく増加を続けている。
 ここでは、これまでのインターネットの歴史を振り返り、劇的な増加を続けるインターネットの普及状況について概観する。 
ア インターネットの歴史
 インターネットの起源は、1969年に米国防総省高等研究計画局(ARPA)が軍事研究目的で開始した分散型情報ネットワークARPAnet とされている。このネットワークには軍事研究以外の一般の研究者も参加でき、インターネットの設計やアーキテクチャの研究が進められてきた。インターネットの標準プロトコルであるTCP/IPもここでの研究成果である。1983年にはARPAnet から軍事専用ネットワークが分離した。1986年には全米科学財団(NSF)がNSFnet の運用を開始し、ARPAnet は1989年にこのNSFnet に引き継がれることになった。
 その後NSFnet は1995年4月に運用を終了するまでの間、米国のコンピュータネットワークにおける最も重要なバックボーンであり、この高速・大容量のNSFnet に、大学や研究機関のコンピュータネットワークが次々に接続され、インターネットはさらに拡大していった。しかし、NSFnet の運営母体は政府機関であり、NSFが定めた運用基準「認められている利用法(AUP:the Acceptable Use Policy)」により、私的あるいは商業的な利用は禁じられていた。
 このAUPは、企業がインターネットを利用する際の障壁になっていたが、やがて大きな転機が訪れることになった。1991年に米国のネットワーク会社が集まり、インターネットのビジネス利用への道を開くため商用インターネットの相互接続に関する組織(CIX:Commercial Internet eXchange)を設立した。これにより企業はNSFnet のAUPに抵触することなくビジネスとしてインターネットを利用することが可能になり、その後、企業や個人のコンピュータをインターネットに接続するインターネット・サービス・プロバイダも次々と誕生している。
 一方、我が国におけるインターネットの起源は、1984年に開始された東京大学、東京工業大学、慶応大学間をUUCP方式(注30)で結んだJUNETの実験に始まる。このJUNETは、1986年には米国のUSENETと接続され、世界中とメール等でやり取りができるようになった。インターネット上の日本語環境の整備もJUNETでの大きな成果である。
 JUNETを発展させ専用線による本格的な接続を行うため、1987年にはWIDEプロジェクトが発足した。1988年には東京大学と東京工業大学との間がIP接続(注31)され、さらに1989年にはNSFnet との間で国際専用回線によりIP接続された。1988年以降、TISN(東京大学系)、SINET(学術情報センター)等の研究情報ネットワークが次々に誕生した。また、地域の学術研究活動を目的とした地域ネットワークも誕生し、我が国においてもインターネットは、学術研究用のネットワークとして成長していった。一方、商用インターネットサービスは1992年から始まり、昨今のニーズの高まりを背景にインターネット・サービス・プロバイダが続々と誕生した。また、1994年には大手パソコン通信ネットとの間でも相互接続され、インターネットを通じたネットワークコミュニティは確実な広がりをみせている(第3-1-1表参照)。 
イ インターネット普及の背景
 現在でも、その勢いは衰えることなく指数関数的に増加するインターネットであるが、インターネットは政府主導でもなく、一部の企業主導でもなく、多数の学術研究ネットワークや商用ネットワークを相互に接続してきたこと、すなわち、誰もが接続できるオープンなネットワークだからこそ、ここまで成長したとも言われている。
 ここでは、インターネットの普及状況を示す指標として、インターネットに接続されるホストコンピュータ数を用いて、普及の弾みとなった出来事についてデータ等を用いながら検証する。
 第3-1-2図によると、1991年からホストコンピュータ数の立ち上がりが目立つようになってきたが、この1991年は、米国において商用サービスの促進を目的としたCIXが設立された年でもある。このCIXの設立により、企業に対しては本格的なインターネットの商用利用の道が開けた。また、多くの商用インターネット・サービス・プロバイダも誕生し、以前よりも簡単にインターネットに接続できるようになったことで、インターネットがより身近なものになり、学術研究分野以外での利用が飛躍的に伸びている(第3-1-3図参照)。
 また、1993年ごろからホストコンピュータ数の増加に一層弾みがついているが、この1993年は、米イリノイ大学のNCSA(National Center for Supercomputing Applications) が、WWW(注32)の機能を十分に引き出すブラウザソフトMosaic を開発し、無償で公開した年でもある。このブラウザの登場により、インターネット上でのテキスト、静止画、さらには映像といったマルチメディア情報の取扱いが劇的に改善され、画面に表示された絵や表示が強調された単語をクリックするだけで、ハイパーリンクが張られたコンピュータからコンピュータへ飛び回りデータを検索することが可能となった。また、こういったソフトをインターネット上で簡単に入手できたことも利用者の拡大を促し、WWWによる企業や政府の、さらには個人の情報発信が活発化していった(第3-1-4図参照)。
 さらに、1994年以降もホストコンピュータ数は増加を続けているが、こうした背景には、
[1] インターネットの研究者や利用者が次々と魅力的なアプリケーションを生み出し続けてきたこと、また、これらがインターネット上でPDS(パブリック・ドメイン・ソフト)として無償で公開され、誰もがこれらを手軽に利用できたこと
[2] WWW等を利用すれば、大企業でなくても、中小企業や個人でさえ簡単に全世界に向けて情報発信ができること
[3] インターネットには無数の魅力ある情報があり、世界中の誰もがその情報を得ることができること
[4] 最近では、仮想商店街等のインターネットを利用したビジネスに向けた取組が本格化してきたこと、また、こうしたサービスの実現に不可欠な認証技術、電子現金等が実用化に向けた活発な取り組みが行われていること
等がある。
ウ データから見たインターネットの普及状況
 (ア)  インターネット接続ホストコンピュータ数の状況
 米Network Wizards 社が公表するインターネットに接続されているホストコンピュータ数(1996年1月現在)について、主な国別に見ると、米国が約 605万5千台(全体の63.9%)と圧倒的に多く、2位以下を大きく引き離している。一方、我が国は約26万9千台で世界第6位であるが、数の上では米国の20分の1以下であり、また、ドイツ、英国の約6割となっている。
 また、1996年1月までの1年間の成長率を見ると、日米欧の各国ともおおむね倍増しているが、インドネシア(13.3倍)、シンガポール(4.34倍)、中国(3.77倍)のように、主要先進国よりさらに大きく増加している国もある。さらに過去3年間の成長を見ると、ニュー・ジーランド(26.1倍)、シンガポール(16.7倍)、日本(11.6倍)、南アフリカ共和国(11.1倍)、インド(9.97倍)の成長が目ざましい(第3-1-5図参照)。
 続いて、第3-1-5図で取り上げた各国における経済規模から見たホストコンピュータ数(ホストコンピュータ数/GNP)については、ホストコンピュータ数では米国に大きく劣るニュー・ジーランドがトップで、次いでオーストラリア、さらに米国、カナダがほぼ同じ水準で続いている。一方、我が国は、総数では世界第6位であるが、これを経済規模から見ると、ホストコンピュータ数では我が国より少ないフランス、ニュー・ジーランド、南アフリカ共和国、韓国、台湾、シンガポール、香港よりも低い水準となっている(第3-1-6図参照)。
 さらに、各国の人口規模から見たホストコンピュータ数(ホストコンピュータ数/人口)については、圧倒的な台数を誇る米国がトップで、以下オーストラリア、ニュー・ジーランド、カナダと続いている。一方、我が国は、経済規模から見た場合と同様、低い水準となっている(第3-1-7図参照)。
 (イ)  インターネットのグローバル化
 インターネットが、全世界にその広まりをみせていることを示すのが第3-1-8図である。1995年6月現在、インターネットとIP接続が可能な国は世界65か国であり、電子メールによる情報交換が可能な国まで考慮すると、アジアとアフリカの一部の地域を除いて、全世界は、インターネットというコミュニティで一つにつながっている(世界 173か国の間で電子メールの交換が可能)。
 また、1995年の運営終了まで米国の最も重要なバックボーンであったNSFnet に多種多様なネットワークが次々と接続され、インターネットがネットワークのネットワークとして発展していったことを述べたが、その過程を示すのが第3-1-9図である。1988年以降ネットワーク数は毎年倍増ベースで増え続け、1995年3月末までの6年間に 100倍以上に増加した。また、国数も6年間で9倍を超える勢いで増加している。
 (ウ)  インターネットの利用主体
 インターネットの商用利用が可能となり、学術研究目的以外の利用者が飛躍的に増加してきたことを述べたが、ここでは、利用目的別のドメイン(注33)数によりインターネットの利用主体の傾向を見る。我が国では、企業の占める割合は58.8%で、大学等の学術機関は14.0%となっている。一方、米国では、企業の占める割合は82.0%で、大学等の学術機関は 4.3%となっており、企業ユースが多い傾向は我が国以上に顕著である(第3-1-10表参照)。
 (エ)  インターネットの利用形態
 ここ数年のインターネットの急成長は、WWWとそのブラウザの登場に負うところが大きいと言われているが、NSFnet 上を流れたWWWのトラヒックのシェアがどう変化したかその推移を見る。1993年1月時点ではファイル転送(ftp-data)のトラヒックが、全トラヒックの半分近くを占めていたが、1994年からWWWのトラヒックが増え始めると、相対的にファイル転送のシェアが小さくなり、1995年4月にはWWWのトラヒックがファイル転送のトラヒックを上回った(第3-1-11図参照)。
 また、WWWサーバ数(注34)は急速に増加を続け、全サーバに占めるWWWサーバの割合も増大している(第3-1-12図参照)。
 (オ)  インターネット・サービス・プロバイダ数の状況
 7年12月末現在、インターネット・サービス・プロバイダとしてサービスしている第二種電気通信事業者は 278社(届出ベース)であり、これは第二種電気通信事業者全体の約1割にあたる。また、第一種電気通信事業者についてはKDD1社のみである。また、6年3月以降の事業者数の推移を見ると、7年夏ごろから急速に増加していることが分かる(第3-1-13図参照)。


第3-1-1表 インターネットの歴史

第3-1-2図 インターネットに接統されるホストコンピュータ数の推移

第3-1-3図 分野別のインターネット接統ホストコンピュータ数の推移

第3-1-4図 WWWのトラヒック量の推移

第3-1-5図 国別のインターネット接続ホストコンピュータ数と成長率

第3-1-6図 経済規模とインターネット接続ホストコンピュータ数の関係

第3-1-7図 人口規模とインターネット接続ホストコンピュータ数の関係

第3-1-8図 インターネットの国際接続状況

第3-1-9図 NSF netへの接続状況

第3-1-10表 日米のドメイン数の比較

第3-1-11図 サービス別トラヒック量の推移

第3-1-12図 WWWサーバ数の推移

第3-1-13図 我が国のインターネット・サービス・プロバイダ数の推移

 

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