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特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生
第1節 AIの進化に伴う課題と現状の取組

(2) 著作権を含む知的財産権等に関する議論

生成AIの生成物は、主に、文章、画像、音楽・音声の3種類である。これらは、大量のデータからその特徴を学習し、プロンプト(入力)に応じて適切な結果を出力する「機械学習」の手法を用いて開発されている。この際、データを収集・複製し、学習用データセットを作成したり、データセットを学習に利用して、AI(学習済みモデル)を開発することがオリジナルデータの制作者等の権利を侵害しないかという開発・学習段階の論点がある。また、生成AIを利用して画像等を生成したり、生成した画像等をアップロードして公表、生成した画像等の複製物(イラスト集など)を販売する際に、既存の画像等の作品と類似したものを使ってしまう等の場合に、既存作品の制作者の権利の侵害等になることがある(生成・利用段階の論点)。

ア 生成AIの進展・普及に伴う著作権を含む知的財産権等に関わる問題提起

生成AIに関連する著作権や肖像権の侵害問題は国際的に注目されており、多くの訴訟が発生している。米国では、2022年11月、GitHub Copilotの開発に関連して、学習に使用しているオープンソースコードがプログラマーの著作権を侵害している可能性があるとして、Microsoft、GitHub、OpenAIに対する集団訴訟が提訴された33ほか、2023年7月には、米国の作家3名がOpenAIとMeta Platformsの2社を提訴した訴訟も発生した。同集団訴訟は、ChatGPTの機械学習に作家の著作物が無断で使用されたことによる損害賠償を請求するもので、同訴訟の結果、OpenAIは学習データから著作物を削除するのではなく、著作権侵害で訴えられた場合の訴訟費用を負担することを表明することとなった34

新聞社、通信社等のメディアでのAIの活用は慎重なものとなっている。米国のAssociated Press(AP通信)は2023年7月にOpenAIとの提携を発表し、生成AIをニュース報道に生かす方法等について共同で研究する契約を結んだが、8月にはAIを配信可能なコンテンツ作成のために使用しないとした。一方、New York TimesはAIによる記事の無断使用でOpenAIとMicrosoftを訴え、これが報道機関による初の訴訟提起となった35。日本国内においても、新聞・通信各社は、生成AIによる報道記事の無断使用について、生成AIによる記事の無断使用は許容できず、根本的な法改正に向けた検討を求める意見を表明している。

日本では、生成AI技術の発展と急速な普及に伴って権利者やAI開発者から著作権などの知的財産権の侵害に関する懸念の声が上がったことを踏まえ、2024年3月、文化審議会著作権分科会法制度小委員会において、「AIと著作権に関する考え方について」がとりまとめられるとともに36、(著作権を含む)知的財産権との関係について、2024年5月、AI時代の知的財産権検討会より、「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」が公表された37

イ 著作権を含む知的財産権等の侵害リスクに対する取組

生成AIの利用に際しての著作権等の権利侵害対策に向けては、データ・コンテンツの権利保持者とAI事業者双方が、互いの契約の中で対応を行うこと等が考えられる。技術的には、生成AI生成物であることの表示を可能とする電子透かしの実用化や、OpenAIによる知的財産権を侵害する恐れのあるデータ・コンテンツのAI入出力を抑制する仕様の提供等がある一方で、New York Times、CNN、Bloomberg、Reuters、日本経済新聞等の国内外のメディア側も、OpenAI等AI事業者のGPTボットのブロックを行う等の対策で自衛している38

技術を活用しながら著作権侵害の法的リスクに対してコミットする取組もある。Microsoftは、大規模言語モデル(Large Language Model:LLM)を組み込んだ自社の生産性向上ツール「Microsoft Copilot」に対する法的リスクに対して責任を負う、「Copilot Copyright Commitment」を2023年9月に発表している。Microsoft Copilotで生成した出力結果を使用して、著作権上の異議を申し立てられた場合、Microsoftが責任をとる仕組みとなっている39。著作物を使用しない、あるいは許諾済みの著作物を活用する方法で著作権等侵害のリスクを回避する方法もある。例えば、Adobeが提供する「Adobe Firefly」は、オープンライセンス等、著作権の問題の無い画像を学習段階で利用しており、著作権侵害の心配なく生成した画像の商用利用が可能としている。



33 3社はGitHub Copilotがオープンソースのコードから得られた知識を使用しており、著作権侵害は行っていないと主張し、裁判所に対して訴訟の棄却を求めている。Reuters, “OpenAI, Microsoft want court to toss lawsuit accusing them of abusing open-source code”,<https://www.reuters.com/legal/litigation/openai-microsoft-want-court-toss-lawsuit-accusing-them-abusing-open-source-code-2023-01-27/別ウィンドウで開きます>(2024/2/27参照)

34 生成AI活用普及協会,「AIの著作権はどうなる?生成AIで生成した画像やイラストの著作権や適法性、注意したいポイントを徹底解説」2023年12月28日,<https://guga.or.jp/columns/ai-copyright/別ウィンドウで開きます>(2024/3/2参照)

35 Reuters, “OpenAI, Microsoft want court to toss lawsuit accusing them of abusing open-source code”,<https://www.reuters.com/legal/litigation/openai-microsoft-want-court-toss-lawsuit-accusing-them-abusing-open-source-code-2023-01-27/別ウィンドウで開きます>(2024/2/27参照)

36 文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日),<https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdfPDF

37 AI時代の知的財産権検討会「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」(2024年5月),<https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2024/0528_ai.pdfPDF>

38 AI時代の知的財産権検討会「AI時代の知的財産権検討会 中間とりまとめ」(2024年5月),<https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2024/0528_ai.pdfPDF>

39 AIキャラクターに著作権はある? 違反したらどうなる? 弁護士に聞いた,<https://webtan.impress.co.jp/e/2023/12/19/46093別ウィンドウで開きます>(2024/3/2参照)

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