特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生
第2節 AIに関する各国の対応

(3) 英国

英国は米国と中国に次いでAI研究が盛んな国とされており、AI分野への民間投資額においても、シンガポールの躍進により2023年に初めて4位に転落したものの、2019年以来、米国・中国に次いで世界3位を保ってきた25。現スナク政権は、法的拘束力のあるAI規制には消極的で、安全に配慮しながらAIシステムの開発を促し、経済成長に繋げたいとする考えから、当面はEUのAI法のような厳格な規制を新たに整備せず、既存の枠組みで柔軟に対処する方針を表明してきた。同方針を踏まえ、英国政府が2023年3月に公表した政策文書「プロイノベーティブな規制手法(A pro-innovation approach to AI regulation)」26が、同国のAI規制の基本的な枠組みに位置付けられている。同文書では、セキュリティ、透明性、公平性、説明責任、争議可能性の観点から5つの原則が掲げられており27、AIガバナンスに取り組むに当たっては、「イノベーション促進型の、柔軟で法規制に縛られない、比例的で信頼できる、順応性があり、明確で且つ協力的な(pro-innovation, flexible, non-statutory, proportionate, trustworthy, adaptable, clear and collaborative)」アプローチをとるとしている。当面は既存の法規制の下、各政府機関の連携により、産業界に対して上記原則の実装を促しつつ、将来的には、原則について何らかの義務化を図る可能性があるとしている。

また、2023年11月27日、英国国家サイバーセキュリティセンター(National Cyber Security Centre:NCSC)と米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャー安全保障庁(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency:CISA)が中心となり、日本を含む18か国が共同で、AIシステムのセキュリティガイドラインである「セキュアAIシステム開発ガイドライン(Guidelines for secure AI system development)」28を公表した。同ガイドラインでは、AIの設計、開発、導入、運用とメンテナンスの各段階において、取り組むべき事項を取りまとめている。



25 Tortoise media, “The Global AI Index”,<https://www.tortoisemedia.com/intelligence/global-ai/#rankings別ウィンドウで開きます>(2024/3/21参照)

26 GOV.UK, “AI regulation: a pro-innovation approach”,<https://www.gov.uk/government/publications/ai-regulation-a-pro-innovation-approach別ウィンドウで開きます>(2024/3/19参照)

27 ①安全性、セキュリティと堅牢性:AIシステムは、そのライフサイクルを通じて、堅牢、セキュア且つ安全でなければならず、リスクは常に特定、評価、管理されなければならない。②適切な透明性・説明可能性:AIシステムの開発者・実装者は、関係者に対してAIシステムがいつ、どのように、どのような目的で使用されているかの情報を十分に提供し、関係者に対して、AIシステムの意思決定プロセスの十分な説明を提供しなければならない。③公平性:AIシステムは、そのライフサイクルを通じて、個人あるいは法人の法的権利を侵害してはならず、個人を不公平に差別したり、不公平な商業的成果を生み出したりするために使われてはならない。④説明責任とガバナンス:AIシステムの供給と使用について効果的な監視を確保するガバナンス体制が構築されなければならず、AIシステムのライフサイクルを通じて明確な説明責任が伴わなければならない。⑤争議可能性と是正:AIによる判断や結果が有害であり、又は重大なリスクを伴う場合、それによって影響を受ける者に対して不服を申し立て、是正する機会を提供しなければならない。

28 National Cyber Security Centre, “Guidelines for secure AI system development”,<https://www.ncsc.gov.uk/collection/guidelines-secure-ai-system-development別ウィンドウで開きます>(2024/3/12参照)

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る