AIの爆発的普及、ロボット等のデジタルテクノロジーの利用拡大により、従来よりも瞬時での処理や判断等が求められる場面が増加すれば、情報通信ネットワークに求められる低遅延性や信頼性・強靱性などの要求が高まることが想定される。また、小規模なAIを分散させ連携させることにより機能させる「AIコンステレーション」といったアイディアも出されてきており、そうした機能を実現する上でもネットワーク機能の高度化が求められる可能性があるほか、データセンターやエッジコンピューティング等の計算資源とネットワークの連携や一体的運用が更に進むことが想定される。
また、社会の様々な現場においてAIが学習・高度化するために必要となるデータ等が発生・流通し、これが通信トラヒックの増加とそれに伴う消費電力の増大に拍車をかける可能性が考えられる。三菱総合研究所によると、2030年代にかけてAIで駆動されたアバターやロボットが広く実用化されることを見越すと、2040年のデータ流通量は、2020年の348倍に増えるとされている(図表Ⅰ-6-1-1)。
こうしたデータ通信トラヒックの増加とそれに伴う消費電力の増加に対応し、デジタルテクノロジーの活用を進めるためには、電力消費を抑えつつ、リアルタイムかつ大容量のデータの送受信を可能とするBeyond 5Gの実現が求められる。Beyond 5Gは、5Gの特長とされている高速大容量、低遅延、多数同時接続といった機能を更に高度化するほか、近年のリモート化・オンライン化の進展等による通信トラヒックの増加に伴うネットワークの消費電力の増加に対応した低消費電力化、通信カバレッジを拡張する拡張性、ネットワークの安全・信頼性や自律性といった新たな機能の実現が期待されている。また、電気通信と光通信を融合させることでネットワークの高速化と大幅な低消費電力化を実現する光電融合技術を活用したオール光ネットワーク技術が注目されている。
総務省では、2021年9月に情報通信審議会に「Beyond 5Gに向けた情報通信技術戦略の在り方−強靱で活力のある2030年代の社会を目指して−」について諮問し、2022年6月に中間答申を受けた。中間答申においては、我が国として目指すべきネットワークの姿、オール光ネットワーク技術や非地上系ネットワーク(NTN:Non Terrestrial Network)技術、セキュアな仮想化・統合ネットワーク技術など国として注力すべき重点技術分野、研究開発から社会実装、知財・標準化、海外展開までを一体で戦略的に推進する方向性が示された。その後、中間答申を踏まえて設置されたNICTへの恒久的な研究開発基金の運用が本格化していること、オール光ネットワークについて官民関係機関による活用に向けた検討の動きが進展していること、国際的にはBeyond 5Gをめぐり市場獲得を目指した研究開発及び国際標準化における様々な取組が拡大していること等を踏まえ、2023年11月より情報通信審議会における検討が再開され、2024年6月に最終答申が行われた。
最終答申においては、AIは、従来想定されていた情報通信ネットワークの運用効率化のためのツール(AI for Network)やCPS(Cyber Physical System)において、実空間から吸い上げた膨大なデータを高速・効率的に解析するためのツールとして活用されるにとどまらず、情報通信ネットワークが、AIが隅々まで利用された社会、いわば「AI社会」を支える基盤(Network for AIs)としての機能を果たしていくことが想定されるとしている25。
24 https://www.mri.co.jp/knowledge/mreview/202307.html
25 Beyond 5Gの動向については、第Ⅱ部政策フォーカス「社会実装・海外展開を見据えたBeyond 5Gの推進戦略」を参照