第3章で述べたように、生成AIの登場は社会・経済活動に大きなインパクトを与え、様々な業務領域で変革を起こしている。「研究開発領域に限らず、ビジネスにおいて生成AI活用による変革を推進するためには、経営層が投資判断などの意思決定を適切に行うための基礎知識が必要」との指摘もあり、「基盤モデルを構築するためにどれだけのデータや計算資源が必要になるか、従来型の情報処理で十分なものと基盤モデルやディープラーニングを必要とするものとの違いなど、テクノロジーを適材適所で使うための知識は、どの業界の経営層も持っておかなければ、怪しい宣伝文句につられて不必要な領域に多額の投資をすることになりかねない」とし、経営層を含めたあらゆるビジネスセクターに対して基礎知識を身につけるための教材が重要になると示唆されている23。
経済産業省において2021年2月から開催している「デジタル時代の人材政策に関する検討会」では、2023年度の主な検討事項として「デジタル人材育成に係る生成AIのインパクト」が議論されてきており、2023年8月「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」を取りまとめた。この報告書においては、生成AI時代に必要なリテラシーレベルのスキルとして、①環境変化をいとわず主体的に学び続けるマインド・スタンスや倫理、知識の体系的理解等のデジタルリテラシー、②指示(プロンプト)の習熟、言語化の能力、対話力、③経験を通じて培われる「問いを立てる力」「仮説を立てる力・検証する力」等が重要になるとされている。これを受け、経済産業省は、デジタルスキル標準のうち、DXに関わる全てのビジネスパーソンが身につけるべき知識・スキルを定義した「DXリテラシー標準(DSS-L)」(2022年3月策定)について見直しを実施し、生成AIの適切な利用に必要となるマインド・スタンス、及び基本的な仕組みや技術動向、利用方法の理解、付随するリスクなどに関する文言追加を行った。今後も、生成AIの進展がもたらす新たな課題について、引き続き議論を続けていくこととしている。
23 東京大学工学系研究科 川原圭博教授インタビューによる(2024年3月19日実施)