メディアやゲーム、音楽などのコンテンツ制作分野においては、コンテンツそのものの制作や制作における補助として生成AIを利用することで、労働力不足の中で、クリエイターがより効率的にコンテンツを作成することが可能となる。
サイバーエージェントでは、2023年5月に、AIを活用した広告クリエイティブ制作を実現する自社開発の「極予測AI」に、ChatGPTを活用したキャッチコピー文案自動生成機能を実装した。これにより、広告画像の内容を考慮しながら、従来よりも詳細なターゲットに合わせて広告コピーを作り分けることができるようになった4。また、2023年12月にはAIを活用した商品画像自動生成機能を開発し、あらゆるシチュエーションと商品画像の組合せを大量に自動生成することが可能になった。さらに生成した商品画像と効果予測AIを活用し、予測を行いながらより効果の高い商品画像の提供を実現するとしている5(図表Ⅰ-5-2-1)。
顧客サービス分野においては、利便性向上のための利用者向けサポートと、利用者に対峙するスタッフの業務効率向上のための支援や教育、サービス自体の健全な利用のために不正検知を行うといった活用方法がある。顧客接点における満足度向上の側面や、さらに応対する個人の知識やセンスを問わず一定の品質を保てるようになることが見込まれている。特に離職率が高く人手不足になりがちなコンタクトセンター等の分野でオペレーターに適切な知識を伝え業務の後方支援を行うことによる労働力不足解消の可能性を秘めている。
例えば、アフラック生命保険では、保険代理店向けサービスとして、AIのアバターを相手とするロールプレイング研修「募集人教育AI」を開発した。営業担当者が保険セールスの会話の中で挙げるべきキーワードを盛り込んでいるかどうかなどを、音声認識をはじめとする技術を用いて分析して評価する仕組みであり、将来的には、実際の顧客の情報を取り込んで、営業活動を疑似体験できるところまで機能の発展を見込む7。
ソフトウェア開発等を行う情報サービス分野において、生成AIは要件定義、仕様生成、プログラミング、テストなどのあらゆる工程での活用が見込まれている。生成AIによる生産性向上により、エンジニアの需要が高まる中で人手不足解消の手助けとなる可能性を秘めている。特に、SIerにおいては、COBOL資産のモダナイゼーションへの活用も目論んでいる。
NTTデータでは、要件定義からテスト工程までシステム開発の全フェーズで生成AIの適用の推進を行っている。海外を中心にPoCだけでなく商用利用での適用実績があり、製造工程において7割の合理化によって工期を短縮した例や、生産性を約3倍向上させた例もある。2023年10月には日本におけるマイグレーションのPoCを始めている。製造工程やテスト工程における利用が現時点でメインとなっており、製造工程においては新規ソースコードの生成や古いプログラム言語を新しいプログラム言語に書き換えるモダナイゼーションに活用する。テスト工程においては過去の設計書や試験目標等のデータを生成AIに読み込ませ、テスト項目を自動抽出できるようにするとしている8。
建設分野においては、デザイン案の短時間での作成や、設計の際、測量データ、設計図書、仕様書の過去データを参照する場面などで活用が見込まれている。膨大な時間外労働、職人の高齢化による大量離職、資材価格の高騰などにより業界全体が圧迫されている中、書類作成などの効率化、ベテランの経験の活用、公開情報と社内の専門的な知見の結びつけにおいて効果が期待されている9。
大林組は、2022年3月に建築設計の初期段階におけるスケッチや3Dモデルからさまざまな建物の外観デザインを提案できるAI技術「AiCorb(アイコルブ)」を米SRI Internationalと共同で開発したと発表10し、2023年7月より社内運用を開始した(2024年5月末時点で3万枚以上の画像を生成)。AiCorbは2つのAIで構成され、社内運用を開始している画像生成AIでは、手描きのスケッチとデザインを指示する文章を基に、様々なファサード(建物の正面外観)のデザイン案を短時間で複数案出力することが可能である。もう一つは、生成したデザインの3次元(3D)モデル化を補助する3次元変換AIである(現在Revitモデルに対応するプラグインを開発済)11(図表Ⅰ-5-2-2)。将来的には、3次元化されたデータを活用して各種性能評価をおこなうことで、設計者や発注者の判断や合意形成をサポートするツールを目指している。
材料開発の分野においては、AIの機械学習や統計手法を使用して大量の実験・計算データを解析、モデルを構築し新材料開発につなげるデータ駆動型アプローチ(Materials informatics(マテリアルズ・インフォマティクス))が発展してきた。生成AIについても、敵対的生成ネットワーク(GAN)や変分自己符号化器(VAE)といった生成モデルを活用し、既存の材料データセットを学習し、理論上の新材料を設計することで新しい材料の分子構造や結晶構造を自動的に生成することが可能になるほか、生成AIを使用して実データに基づいた仮想データを生成し、実験データセットを拡張することで、モデル学習の改善につながる12。
2021年7月に、Preferred NetworksとENEOSはPreferred Computational Chemistry(PFCC)を共同で設立し、ディープラーニング(深層学習)を活用した汎用原子レベルシミュレーター(Matlantis(マトランティス))をクラウドサービスとして提供開始した。生成AIを活用した原子シミュレーションによって、原子レベルでの有望な材料の特性把握や新材料開発や材料探索を支援する。従来のシミュレーションと比べて精度を保ったまま10万倍から数千万倍高速化し、高性能なコンピュータを用いて数時間〜数か月かかった原子レベルの物理シミュレーションを、数秒単位で行うことが可能となったほか、55種類の元素をサポートし未知の分子や結晶など未知の材料に対してもシミュレーションできる汎用性を兼ね備え1314、国内外で80以上の大学・企業に利用されている(2024年1月時点)。
4 サイバーエージェント,「極予測AI、大規模言語モデルを活用した広告コピー自動生成機能を実装 ―自社LLM技術およびChatGPTの活用により画像やターゲットを考慮した生成が可能に―」2023年5月18日,<https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=28828>(2024/3/6参照)
5 企業ヒアリング(サイバーエージェント)に基づく。
6 サイバーエージェント,「極予測AI、生成AIを活用した商品画像の自動生成機能を開発・運用開始へ」2023年12月7日,<https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=29572>(2024/3/6参照)
7 日経クロステック,「保険の「挙績」が30%以上アップ、アフラックがAIアバターの営業ロープレで成果」2022年12月8日,<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01302/110800008/>(2024/3/6参照)
8 DATA INSIGHT「生成AIを使ったNTTデータ流「新時代のシステム開発」とは〜グローバルで商用への適用実績拡大中!レガシー資産を高品質・高生産性でモダナイズ〜」2023年11月16日,<https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/data-insight/2023/1116/>(2024/3/26参照)
9 燈,「燈株式会社がChatGPTをはじめとする大規模言語モデルを建設業に特化させた「AKARI Construction LLM」の提供を開始」2023年3月16日,<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000083531.html>(2024/3/6参照)
10 大林組,「建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発」2022年3月22日,<https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220301_3.html>(2024/3/6参照)
11 日経クロステック,「大林組のAIツールはビル外観を生成して3次元化もこなす、7月に社内運用開始」2023年7月4日,<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02449/062900008/>(2024/3/6参照)
12 JST研究開発戦略センター(CRDS)「マテリアルズ・インフォマティクスの発展と今後の展望」<2022年4月5日,https://www.jst.go.jp/crds/sympo/20220325/pdf/20220405_01.pdf>
13 川口 順央「講演報告_汎用原子レベルシミュレーター『Matlantis™』がもたらす素材・材料開発の未来 〜AI駆動超高速計算が材料開発の世界を変える〜」2024年4月10日,<https://matlantis.com/ja/news/oilchemistrydx202404>
14 日経クロステック「AIを使った汎用原子レベルシミュレーター、Matlantis」2021年08月10日,<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/rob/18/00007/00041/>