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特集② 進化するデジタルテクノロジーとの共生
第1節 デジタルテクノロジーとのさらなる共生に向けた課題と必要な取組

(1) AI開発力の強化に向けた取組

AIの技術発展はロボットや自動運転といった他のテクノロジーの進歩をもたらし、より高度なサービスの提供を可能とする鍵となる。AIを活用することで生産性の向上、産業競争力の強化や、新たな市場を生み出し、AIが経済成長の原動力となると期待される。研究開発の面でも、AIを活用して自律駆動による研究プロセスの革新につなげようとする研究領域が生まれるなど分野横断的に研究開発の基盤までを変えようとしている1。また、安全保障の観点でも、AIはサイバーセキュリティ分野や軍事面での利用が進められている。このように、私たちの生活・福祉の向上、産業競争力、技術(研究開発)、安全保障など幅広く大きな影響を及ぼすと考えられるAIについて、自国の開発力を整備拡充することは、今後さらに重要となる。

そのため、政府としては、AI開発のインフラというべき計算資源とデータの整備・拡充が重要との認識の下2、事業者の取組や研究開発への支援などに着手している。計算資源については、スーパーコンピュータ「富岳」を活用したLLM開発3やGPUクラウドサービスの提供に対する支援などが行われている。また、AIモデルの性能を大きく左右する訓練データについて、高品質なデータを収集、生成、管理し、そのような高品質データを研究機関や企業間で共有する取組が進められている。情報通信研究機構(NICT)では、従来からの多言語音声翻訳などのAI自然言語処理に関する研究開発を通して蓄積した言語データ構築に関する知見を活かし、AI学習に適した大量・高品質で安全性の高い日本語を中心とする言語データを整備・拡充し、民間企業やアカデミアにアクセスを提供する取組が進められている4。さらに、基盤モデルの原理解明を通じた、効率が良く精度の高い学習手法、透明性・信頼性を確保する手法等の研究開発力の強化のための支援にも取り組む5

こうした産官学の連携を通じて、国産LLM(大規模言語モデル)の開発を推進し、国内のニーズに特化したモデルの作成や、日本語や日本文化に最適化されたAIの提供を実現していくことが重要となっている(第4章第1節参照)。

また、開発の進む国産LLMは、東南アジア諸国などの非英語圏における独自言語モデル構築への展開可能性が十分にあると期待されている6。東南アジア諸国においては、短期間でそれぞれの言語モデルを独自に開発することは、データ不足等の要因もあり厳しいと予測されるため、日本語モデルの構築ノウハウを、東南アジア各国における言語に展開していくことは、アジア地域として欧米に対する経済競争力を持つよい機会と捉えられるとされている。また、欧米のビッグテックによるサービスの日本展開にあたり、国内で開発した日本語モデルを活用してライセンス料を得るという形も考えられる。従来は、欧米と言語圏が異なることが経済競争においてハンディキャップであったものを、逆手にとれる状況である。上記において、政府が戦略的に投資していくことで、国産LLMの国際的な存在感を確立することにつながると期待が寄せられている。



1 文部科学省が2024年3月15日に公表した「令和6年度の戦略的創造研究推進事業の戦略目標等」の分野横断で挑戦する6つの目標の一つに、「自律駆動による研究革新」が挙げられた。自律駆動型の研究アプローチでは、最も時間を要する実験のプロセスにおいてロボット等による物理的な実験の自動化による効率化・スピードアップを図るだけでなく、仮説立案や予測のプロセスにおいて、方程式に書ききれない複雑な事象に対して規則性を見出すなど、人間の認知能力を超えた論理推論をも実現することで、研究活動のパラダイムシフトを起こすことが期待される。自律駆動型の研究アプローチは人の認知限界・認知バイアスを超えて複雑現象の解明や探索領域の開拓が可能であり、科学研究の方法論を革新させる可能性を持つ。
<https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2023/mext_000010.html別ウィンドウで開きます>

2 「AIに関する暫定的な論点整理」(2023年5月26日第2回AI戦略会議)15ページ 3-3 AI開発力参照
<https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/2kai/ronten.pdfPDF>

3 東京工業大学、東北大学、富士通、理化学研究所は、「富岳」政策対応枠において、スーパーコンピュータ「富岳」を活用した大規模言語モデル分散並列学習手法の開発に取り組むことを発表した。また、2023年8月より、名古屋大学、サイバーエージェント、Kotoba Technologies Inc.が参画機関に追加された。
「スーパーコンピュータ「富岳」政策対応枠における大規模言語モデル分散並列学習手法の開発について」2023年5月22日,<https://www.titech.ac.jp/news/2023/066788別ウィンドウで開きます>

4 「総務省・NICTが整備する学習用言語データのアクセス提供について」(2023年9月8日第5回AI戦略会議資料3-4)
<https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/5kai/datateikyou.pdfPDF>

5 「AI関連の主要な施策について(案)」(2023年8月4日第4回AI戦略会議資料2)
<https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/4kai/shisaku.pdfPDF>

6 東京大学工学系研究科 川原圭博教授インタビューによる(2024年3月19日実施)

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