従来、IT業界は「GAFAM」(Google、Amazon、Facebook(現Meta Platforms)、Apple、Microsoft)に代表されるビッグテック企業に牽引されてきたが、AIの進展や普及に伴い、これらビッグテック企業への更なるデータの集中が懸念されている。デジタル市場のプラットフォームやクラウドサービスにおいて、ビッグテック企業は既に支配的な地位を占めているが、AIの登場により、GAFAMにAI関連企業を加えた「マグニフィセント・セブン」や、「ビッグ4」と呼ばれるテック企業もその支配力を拡大している。マグニフィセント・セブンと呼ばれるのは、GAFAMに、生成AIに欠かせない画像処理半導体(GPU)のシェア9割近くを持つと言われる7NVIDIAと、世界最大級の電気自動車メーカのTeslaを加えた7社である。また、ビッグ4とは「GOMA」(Google、OpenAI、Microsoft、Anthropic(米スタートアップ))とも呼ばれ、デジタル市場において、既に技術的及びビジネス上の優位性を蓄積している8。
上記のようなビッグテック企業の競争優位性が益々高くなっている理由としては、ネットワーク効果9や高いスイッチング・コスト10のほか、AIの開発と運用に莫大なコストがかかることが挙げられる。例えば、OpenAIの生成AI「ChatGPT」の運用には、1日70万ドル(約1億円)のコストがかかるといわれ11、また、Googleの生成AI「Bard」の実行には、Google検索の約10倍のコストがかかるとの試算もある12。
また、Microsoft、Google、Amazonが世界のクラウド・コンピューティングシェアの約3分の2を占め、Meta Platformsが独自の強力なデータセンタ・ネットワークを保有している中、AI製品を開発する企業等は、MicrosoftのAzure、GoogleのGoogle Cloud Platform、AmazonのAmazon Web Services(AWS)のいずれかのクラウドサービスやその組み合わせに依存しながら、AI製品を構築する必要がある。こうした主要なクラウドプラットフォームを使うほどにビッグテック企業の利益となり、その支配力も増していくこととなる。
さらに、AIのプログラム作成には、コンピューティング能力に加え、膨大な量のトレーニングデータも必要である。これらビッグテック企業は膨大なデータの収集においても競争優位性を持ち、結果として非常に有利な状況にある13。
こうしたデジタル市場における支配力を増すビッグテック企業に対し、日本ではこれまで、デジタルプラットフォームにおける取引の透明性と公正性の向上を図るために、2021年2月に「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(令和2年法律第38号)が施行された。同法では、デジタルプラットフォームのうち、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者14」として指定し、利用者に対する取引条件の開示や変更等の事前通知、運営における公正性確保、苦情処理や情報開示の状況などの運営状況の報告を義務づけている。
さらに、2024年、モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索サービスといったスマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェアを提供する事業者が、特定少数の有力な事業者による寡占状態となっており、様々な競争上の問題が生じているとして、セキュリティやプライバシー等を確保しつつ、競争を通じて、多様な主体によるイノベーションが活性化し、消費者がそれによって生まれる多様なサービスを選択でき、その恩恵を享受できるよう、競争環境を整備する必要があるとして、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」が国会に提出され、6月に成立したところである。
7 「なぜ半導体大手エヌビディアは「超儲かる」高収益企業になったのか。2兆ドル企業の「売上3.7倍成長」の秘密に迫る」,『Business Insider Japan PREMIUM』2024年3月11日号
8 The Atlantic,“The Future of AI Is GOMA Four companies are taking over everything.”,<https://www.theatlantic.com/technology/archive/2023/10/big-ai-silicon-valley-dominance/675752/>(2024/2/29参照)
9 あるネットワークへの参加者が多ければ多いほど、そのネットワークの価値が高まりさらに参加者を呼び込むこと。その結果、多くのユーザーを抱えるサービスは、更に利用者を獲得することが可能となり、規模を拡大していく傾向にある。(令和5年版情報通信白書第2章第2節)
10 現在利用している製品・サービスから、代替的な他の製品・サービスに乗り換える際に発生する金銭的・手続的・心理的な負担のこと。プラットフォーマーが様々なサービスを連動して提供している場合、スイッチング・コストによる乗り換え抑制効果がより高くなるり、サービス間の共創効果は弱まることとなる。(令和5年版情報通信白書第2章第2節)
11 「IT業界の覇権は「GAFAM」から「GOMA」に変わる…ビッグテックの力関係を一変させる「生成AI」のインパクト」,『プレジデントオンライン』2024年2月16日号
12 同上
13 AI Now Institute,“2023 Landscape CONFRONTING TECH POWER”
<https://ainowinstitute.org/2023-landscape>(2024/2/28参照)
14 2022年10月時点で、「総合物販オンラインモール」ではアマゾン、楽天、ヤフーの3社、「アプリストア」ではApple及びiTunes、Google LLCの2社、「ネット広告」ではGoogle、Meta Platforms、ヤフーの3社が規制対象となっている。