教育分野においては、学習者自身が生成AIと会話を行うことで個別にカスタマイズされた教材で自律的な学習、学習者の質問に回答するなどの学習支援、教材やテストの作成補助などの教師向けの支援等への活用が見込まれている。実際に学校に配置されている教師の数が、各都道府県・指定都市等の教育委員会において学校に配置することとしている教師の数を満たしておらず欠員が生じる状態である深刻な「教師不足」15が続くこの分野において、生成AI活用を行うことで学習者にはいつでも気兼ねなく質問ができる環境や自律的な教育支援、教師の教材作成における稼働削減につながる可能性を秘めている。
文部科学省では、2023年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を公表し、学校現場が生成AIの活用の適否を判断する際の参考となるよう一定の考え方をとりまとめている。また、同年、本ガイドラインに基づき、生成AIへの懸念に対して十分な対策を講じられる37自治体52校を生成AIパイロット校として指定し、学校現場における利用に関する成果・課題の検証を進めている。
他にも、ベネッセコーポレーションは、「自由研究お助けAI」、「AIしまじろう」、「チャレンジAI学習コーチ」等自社の教育サービスへの展開を行っている(図表Ⅰ-5-2-3)。2024年3月に提供開始された「チャレンジAI学習コーチ」は、「進研ゼミ」の学習や学校の宿題に取り組む中での疑問点をいつでもわかるまで質問できる、生成AIを活用した小・中学生向けのサービスである。教育における生成AIの活用における課題の一つとされる「答えを直接聞いてしまう」との懸念に対し、「チャレンジAI学習コーチ」は、問題の答えを直接教えるのではなく、子どもたちの疑問に寄り添い、AIキャラクターと対話を通じて考え方や視点を広げるサポートをし、自ら答えにたどり着けるように開発されている。
医療・介護分野において、生成AIは個々の利用者に合わせたケアプランの最適化や業務報告の自動化、利用者とのコミュニケーションの改善、研修や教育ツール等としての活用が見込まれており17、利用者だけではなく職員に必要な専門知識を補う効果や業務効率化が期待される。高齢者人口の増加により需要が増し、生産年齢人口の急減に伴い労働力不足が課題となるこの分野においては、生成AIがより自然な言語で職員の業務上の相談相手となる可能性を秘めている。
シーディーアイは、2023年6月にAIを活用したケアマネジメント支援ツール「SOIN」とChatGPTとの連携を開始した。ケアマネジャーが既に入力している利用者の属性情報、疾患、身体状態などの情報に基づき、SOINサーバーがChatGPT向けのコマンドプロンプトを自動作成し、ChatGPTはパーソナライズされた支援内容をケアマネジャーに提供する18。また、同社は2023年12月に「SOIN AI Chat」をリリースし、高齢者一人ひとりの個別状況を考慮した上で、ケアマネジャーの相談相手となる機能も追加している19。
行政サービスにおいては、情報収集や政策案の策定などの政策の検討、過去法案の収集や法案策定、(法案審議における)答弁作成などの一連の法制化事務、政策の周知や問合せ対応などの情報提供、様式の作成、チェックや判断、結果の交付などの執行、会議の実施などの事務における活用が見込まれている20。
例えば、自動処理は、2023年6月に国会議事録検索の出来るChatGPTプラグイン(The Diet Search Plugin)をリリースした。ニュース、トレンド、提案、要望、不満などの文章を元に、その意味に近い国会議事録の議論を出典元情報と共に検索できる。これにより、誰でも簡単に国会の議論を調査、取りまとめを実施することが可能となっている21(図表Ⅰ-5-2-4)。
バックオフィスにおいては、過去データを参照し経営や人事に活用、法務関連情報との連携を行った契約書修正等において活用が見込まれている。
2023年5月、エクサウィザーズは、株主総会や決算説明会における想定問答の作成を支援する「exaBase IRアシスタント powered by ChatGPT」を発表22。2023年12月には生成AIを活用した採用業務効率化サービスに参入、最初の取組として、生成AI技術を応用したサービス開発力と、HR Tech領域で蓄積した知見やデータを掛け合わせ、採用領域の業務効率化サービス「exaBase採用アシスタント」のβ版をリリースしている23。
15 文部科学省,「「教師不足」に関する実態調査」2023年1月,<https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf>(2024/3/25参照)
16 ベネッセホールディングス,「「進研ゼミ」が生成AI活用の新サービス「チャレンジAI学習コーチ」を3月下旬から提供開始。教科の疑問を、いつでも納得いくまで質問可能に」『PR Times』2024年2月2日,<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001239.000000120.html>(2024/5/26参照)
17 pipon「生成AI・ChatGPTによる介護業務の効率化:業界を変革する活用法」2024年2月4日,<https://bigdata-tools.com/ai-solutions-for-caregiving-challenges/>(2024/3/25参照)
18 シーディーアイ,「AIケアプラン SOIN(そわん)新バージョンリリース 「生成系AIへの対応」と「適切なケアマネジメント手法への対応強化」」2023年6月29日,<https://www.cd-inc.co.jp/wp-content/uploads/2023/06/20230629.pdf>(2024/3/6参照)
19 シーディーアイ,「AIケアプラン SOIN(そわん)、新機能「SOIN AI Chat」をリリース SOINとChatGPTの融合により、高齢者ごとにカスタマイズされたチャット機能を提供」2023年12月20日,<https://www.cd-inc.co.jp/wp-content/uploads/2023/12/20231220.pdf>(2024/3/6参照)
20 ボストン コンサルティング グループ「生成AIは行政をいかに変えるか――導入事例と今後の課題」2023年7月13日,<https://www.bcg.com/ja-jp/publications/2023/how-generative-ai-can-be-used-in-public-sector>(2024/3/25参照)
21 株式会社自動処理,「全国初!株式会社自動処理は国会議事録検索の出来るChatGPTプラグイン(The Diet Search Plugin)をリリースしました!」『PR Times』2023年6月16日,<https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000040.000067480.html>(2024/3/6参照)
22 日経クロステック「株主総会の想定問答をChatGPTで作成支援、精度を高めるエクサウィザーズの工夫」2023年5月24日,<https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02423/052200024/>(2024/3/6参照)
23 エクサウィザーズ,「エクサウィザーズ、生成AIを活用した採用業務効率化サービスに参入、「exaBase採用アシスタント」β版の予約受付開始〜求人票自動作成、スカウトメール自動生成、書類選考サポート機能等を順次提供〜」2023年12月18日,<https://exawizards.com/archives/26301/>(2024/3/6参照)