国民の情報への接し方は、既存メディアと読者・視聴者との関係性に代表されるように大きく変わりつつあり、今後もさらに変わっていくことが予想される。特に若年層においては、現時点でもニュースの入手先としてYahoo!ニュースやスマートニュース等のニュースキュレーションサービスを高い頻度で利用する傾向にあり、それらにニュースを配信している個別の報道機関の存在感が薄れているという指摘もある15。また、検索サービスによる検索結果やSNS上のコンテンツは、ユーザーの利用履歴を反映したアルゴリズムによって表示されており、「フィルターバブル」16や「エコーチェンバー」17と呼ばれる問題が指摘されている。
【関連データ】(参考)令和5年版白書、オンライン上で最新のニュースを知りたいときの行動(日・米・独・中)
URL:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/datashu.html#f00087(データ集)
このように、国民がインターネットから情報を入手する傾向が高まる一方で、インターネット上の偽・誤情報の流通・拡散の問題が拡大している18。今後、AIがさらに精緻に進化すると、AIがよりピンポイントな情報を提示してくるといった状況を招く可能性があり、ユーザーの受け取る情報の偏りがさらに進む懸念もあるとも指摘されている19。さらに、昨今SNS上で著名人の顔写真や名前を悪用した偽の広告(なりすまし型のいわゆる「偽広告」)も問題となるなど、デジタル空間における情報流通の健全性確保は喫緊の課題になっている。
総務省ではこれまで、誹謗中傷などの違法有害情報に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)20の改正により発信者情報開示について新たな裁判手続(非訟事件手続)を創設する等の対応を重ねてきたほか、2024年にはプラットフォーム事業者に対して削除対応の迅速化や運用状況の透明化を求める改正を行い、2024年5月に成立したところである。あわせて、法律の題名を「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」(略称:情報流通プラットフォーム対処法)に改めることとした。
また、デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けては、国際的な動向も踏まえつつ、偽・誤情報の流通・拡散への対応について、制度面も含めた総合的な対策の検討を進めるため、2023年(令和5年)11月から新たに「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会21」を開催している。同検討会では、デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた基本理念、各ステークホルダーに期待される役割・責務の在り方や具体的な方策について議論を進めており、2024年(令和6年)5月には、インターネット上の偽・誤情報対策について、民産学官の幅広いステークホルダー間で参照しやすくするとともに、国内外における連携・協力を推進することを目的に、「インターネット上の偽・誤情報対策に係るマルチステークホルダーによる取組集」をとりまとめ、公表した。今後、能登半島地震におけるプラットフォーム事業者への要請に関する対応状況のフォローアップを含むプラットフォーム事業者ヒアリングや広告関係団体ヒアリング等を踏まえつつ、プラットフォーム事業者の取組の透明性・アカウンタビリティの確保、ファクトチェックの推進、普及啓発、リテラシーの向上、人材育成、情報発信者側における信頼性の確保、技術の研究開発や実証、デジタル広告に関する課題への対応、国際的な連携強化などの具体的な方策について、同年夏頃までに一定のとりまとめの公表を予定している。
さらに、総務省では2024年度に、生成AIに起因する偽・誤情報を始めとした、インターネット上の偽・誤情報の流通リスクに対応するため、「インターネット上の偽・誤情報対策技術の開発・実証事業22」を通じ、技術開発主体の公募を行い、対策技術の社会実装を推進することとしている。
15 桜美林大学リベラルアーツ学群 平和博教授インタビューによる(2024年3月8日実施)。
16 「フィルターバブル」とは、アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を指す。
17 「エコーチェンバー」とは、同じ意見を持つ人々が集まり、自分たちの意見を強化し合うことで、自分の意見を間違いないものと信じ込み、多様な視点に触れることができなくなってしまう現象。
18 総務省が2023年度に実施したアンケート調査によると、回答者の約半数(48.0%)が、SNS上で偽・誤情報を「週1回以上」見かけたとしている。(令和5年度国内外における偽・誤情報に関する意識調査
<https://www.soumu.go.jp/main_content/000945550.pdf>)
19 桜美林大学リベラルアーツ学群 平和博教授インタビューによる(2024年3月8日実施)。
20 インターネット上の情報の流通によって権利の侵害があった場合について、プロバイダなどの損害賠償責任が制限される要件を明確化するとともにプロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利を定めた法律。
21 「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」の開催(報道資料)
<https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000374.html>
22 総務省「インターネット上の偽・誤情報対策技術の開発・実証事業」
<https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/taisakugijutsu.html>