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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第3節 オンラインプラットフォームとデータ利活用

3 ポスト・スマートフォン考察

(1)進化する情報端末とその利用シーン

ア モバイル・ワールド・コングレスにおける主役交代

前項のとおり、生活のすみずみに至るまで普及しているスマートフォンを利用した消費行動は質・量ともに増加していくことで、スマートフォン経済自体は、レイヤー構造で上位に位置するアプリケーション・サービスを中心に更なる進化を遂げていくと考えられる。

他方、情報端末としてのスマートフォンの出荷台数の伸び率は急速に鈍化を見せている。2010-11年には58.5%だったスマートフォン出荷台数の年間伸び率は、2015-16年には1.7%まで低下している。民間調査機関IHSの予測によれば、今後は底を打つもののかつてのような高い伸び率は期待できず、2017年以降は5%前後で推移していくと予想されている(図表1-3-3-1)。

図表1-3-3-1 世界のスマートフォン出荷台数の前年比伸び率
(出典)IHS Technology

情報端末の主役の座の交代は、通信業界における世界最大級のイベントであるモバイル・ワールド・コングレス(MWC)からもうかがえる。毎年2月から3月にかけてスペインのバルセロナ市にて開催されるMWCであるが、そこでのブース展示やトークセッション、プレゼンテーションは、業界の現状と将来を見通すには格好の場となっている。

数年前までは、「携帯電話機の新機種発表会」のような趣があったといわれるMWCでは、世界の大手携帯電話メーカーが、先を争うようにスマートフォンの新機種発表を行っていた。しかし、本年2月のMWC2017の会場では、こうした動きはむしろ例外であった。大手のメーカーは大型の展示ブースこそ構えてはいるものの、スマートフォンの新機種展示コーナーにいるイベント参加者はまばらで、主役交代を印象づける場となっていた。

イ 音声データを認識するAIスピーカーの広がり

MWC2017において、消費者向け用途を意識した展示の中で目立っていたのが「AIスピーカー」だ。一般家庭用のスピーカーがマイクにもなっており、こうした端末機器と声でやりとりする利用シーンが特徴的だ。天気やスケジュール等を教えてくれるパーソナル・アシスタントになり、通信販売の注文窓口になり、家電製品のコントローラーにもなるといった多機能なものが目立つ。スマートフォンの次に来る生活密着型の端末機器として、多くの企業が開発に取り組み、すでに市場投入されているものもある(図表1-3-3-2)。

図表1-3-3-2 音声データ認識型のAIスピーカー
(出典)総務省「IoT時代のデジタル変革と情報通信業界動向に関する実態調査」(平成29年)
図表1-3-3-3 韓国のLG社のスマホ展示とSKテレコム社のAIスピーカー
(出典)総務省「IoT時代のデジタル変革と情報通信業界動向に関する実態調査」(平成29年)

【音声データ認識の事例】AIスピーカーの先陣を切るアマゾン「ECHO」

米国アマゾン社がAIスピーカー「ECHO」を発売したのは2015年のことである。2017年4月末現在、本国の米国の他では英・独の両国で発売されているが、日本では未発売である。

図表1-3-3-4 ECHOとAlexaの仕組み
(出典)総務省「スマートフォン経済の現在と将来に関する調査研究」(平成29年)

ECHOの利用手順は簡単だ。まず利用者が「アレクサ!」と呼びかけると、ECHOは起動する。利用者からの音声は、ECHOのマイクを通じてクラウド上にある人工知能「Alexa」へと届けられ、「Alexa」が指示内容を理解し実行に移される。ECHOの第一の機能は、日頃専ら屋内でPCやスマートフォンを通じて行っているネット検索や音楽再生、商品購入からニュースの読み上げ等を代行してくれることだ。

第二に、これまでPC・スマホで行っていたこと以外でも、ネットに接続されている家電や室内装置の起動等が可能だ。例えば、照明器具のオン・オフ、スマートフォンアプリで最寄りの店舗や商品の登録を事前に済ませておけばコーヒー等の注文をしてくれる。

第三に注目すべきは、アレクサ音声サービス(AVS:Alexa Voice Service)のAPIを公開していることである。パートナー企業は、Alexaと同期可能な家電を開発できる。本年1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES」では、冷蔵庫や洗濯機、ランプ等の様々な製品が発表された。

第四に、ECHOには「Alexa Skills」と呼ばれるプログラムを追加できる。Skillはアマゾン以外のサードパーティーも開発しており、アマゾンのAlexa Skillsサイト4上で公開されている。2017年5月末現在、約1万4000のSkillが登録されており、例えば、ピザのDomino’sやフィットネスのFitbit、航空券/ホテル予約のKAYAK、ライドシェアのUberといった各サービス業の代表的な企業が数多く含まれている。

なお、調査会社eMarketer社によると、2017年4月末現在、米国における音声認識型のAI対応機器市場の約71%をAmazon社が占め、約24%のGoogle社が続いている。先行する両社が、市場の大半のシェアを握っていることとなる5

ウ 画像データ活用とAR/VR

コンピュータの処理速度の向上やスマートフォンやタブレット等の普及に伴い、カメラで撮影した画像上に補足情報を重ねて表示できるAR技術と、画面上にコンピュータグラフィックスを用いて仮想空間を表現するVR技術の利用が進もうとしている。

AR技術で最も一般的なのは、本節のアプリダウンロードランキングで上位を占めたPokemon GOであろう。同ゲームアプリでは、画面上で追いかけていたポケモンをAR技術のモードに切り替えることで、現実の空間上で追いかけることが可能となる。

AR技術について、2017年時点ではゲームやアミューズメント施設などのコンシューマ向けエンタテイメント分野での利用が最も多いが、サイバー空間とリアル空間とをつなぎ、データ流通を深化させるとともに工事作業や公共交通機関などでの活用をはじめとしたビジネス面でも価値創出に貢献することが期待されている。以下では、AR技術を活用して、製造プロセスを改善し生産性を高めた製造業の事例を取り上げる。

なお、調査会社のIDC Japan社の推計によれば、2017年の世界のAR/VR技術を用いたサービスの市場規模は139億ドルで、コンシューマ分野40%、組立製造業10%、小売7.4%、個人向けサービス5.7%等となっている。

【画像データ活用の事例】実用段階に入ったAR技術「3D重畳システム」

「3D重畳システム」とは、製造部材の3次元設計図とスマートフォンやタブレットで撮影した各部材の写真とを、AR技術により比較する設計製造物診断を行うことで製造ミスの早期発見を目指したソリューションである。橋梁・鉄塔等の建設業を営む株式会社巴コーポレーションと富士通株式会社が共同開発したもので、2016年末に実用化したばかりのシステムである。

巴コーポレーションが橋梁・鉄塔等の建設に用いる溶接前の部品や鋼管のほとんどは、大量生産が可能なものだ。同社は、それらを組み合わせた最終製品の強度をいかに保持できるかという点を強みとしてきている。一方、各工程で必須となる製造物の診断は、メジャーによる計測や目視でのチェックといった作業者の技量に依存する部分が多く、確認作業に長時間を要し製造不良を見落とすこともあった。

新たに導入された「3D重畳システム」では、タブレットで撮影した部材画像と設計図の3Dモデルとを画面上で重ね合わせ、確認作業者が特徴的な線を確認作業者が4箇所指定すると、部材が設計図どおり作成されているかどうかを判断できる。確認作業については、これまで30分以上を要していたところ2分程度まで短縮されたほか、同作業のための待機時間の削減や工場外での同作業の実施が可能となった。

今後は、システムの使い勝手を更によくすべく、画像と設計図データを重ね合わせの自動化を検討中である。また、診断した結果のサーバに保存することで、ノウハウ共有や進捗管理、品質記録といった産業データとしての利活用を通じ、生産プロセス全体の改善を目指している。

図表1-3-3-5 検査風景
(出典)巴コーポレーション提供資料
図表1-3-3-6 部材と設計図とをARで重ねあわせた例
(出典)富士通株式会社ホームページ6


4 Alexa Skills https://www.amazon.com/b?ie=UTF8&node=13727921011別ウィンドウで開きます

5 Alexa, Say What?! Voice-Enabled Speaker Usage to Grow Nearly 130% This Year
https://www.emarketer.com/Article/Alexa-Say-What-Voice-Enabled-Speaker-Usage-Grow-Nearly-130-This-Year/1015812別ウィンドウで開きます

6 http://pr.fujitsu.com/jp/news/2016/12/27.html別ウィンドウで開きます

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