総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > ICTを活用した定住人口増加に資する取組事例
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第3節 地方創生とICT利活用

(3)ICTを活用した定住人口増加に資する取組事例

地方圏の人口減少を防ぐためには、都市圏からの人口流入を促すと同時に地方から都市への人口流出を防ぐ必要がある。第1節で見たように、地方圏での人口流出の要因として地方には都市圏と比べて良質な雇用がないと考えられている事があるのであれば、地域において都市圏から移住してきた人々が安定して働ける環境を整備する事が重要であろう。また、内閣府が2014年度に実施した「農山漁村に関する世論調査」6によると、都市に暮らす住民のおよそ3割が農山漁村に移住したいという気持ちを持っている。このような地方への移住希望を持つ人々への情報提供等もICTを役立てられる分野であると考えられる。

これらの地域外から人を呼び込む施策と同時に、定住人口を増加させるためには既に地域に暮らす人々の生活を守ることで、すでに地域で暮らす人々の流出を防ぐ事が求められる。地域に暮らす人々の生活を守るためには働く事で安定した収入を得られる事が重要である。地域経済を活性化させ、安定した収入を得られやすくするための仕組みとしてICTを活用したり、地域にある資源を生かして新たな商品を開発し、販路を地域外に広げていく事もICT利活用の方向性として考えられるだろう(図表4-3-2-4)。

図表4-3-2-4 定住人口増加に貢献する取組の方向性
(出典)総務省「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」(平成29年)
ア ふるさとテレワーク×クラウドソーシングによる移住定住促進(事例:糸島市(福岡県))

糸島市(福岡県)は、福岡市の中心部から電車で30分ほどに位置し、美しい海岸線のある自然環境に恵まれた人口約10万人の市である。市内に働く場が少ないこともあって、若者の市外への流出による人口減が続いていた。そこで、市では働く場を創出するため、食品関連企業等の誘致や九州大学関連の新産業・起業創出に挑み、成功体験を積んだ。移住・定住促進の次なる展開として、民間との協働(糸島コンソーシアム7)で総務省のふるさとテレワーク事業に取り組んだ。

その第一歩として、東京からの移住、本社機能の移転等を念頭においたテレワークセンターを、市街地から離れた志摩芥屋地区に置き実証事業に取り組むこととした。コンソーシアムに参加しているクラウドソーシング会社の社員が、本社機能の一部をテレワークで行う。また、テレワーク協会の会員企業に属する社員が各社のテレワークシステムで業務を行い、クリエイティブな仕事や付加価値が求められる業務で高評価を得た。

次の一歩として、子育て世代家族の移住を念頭におき、駅の徒歩圏に前原テレワークセンターを開設した(図表4-3-2-5)。市街地から離れた志摩芥屋とは対照的な立地条件だ。アンケートをとってみると、女性の就業意欲が高いこと、また、仕事をしたい人たちと仲間づくりをしたいニーズが強いことが分かった。こうした母親がテレワークセンターに集まって来られるように、家事や農作業等のすきま時間に手掛けられるクラウドソーシングに取り組んだ。市の担当者は「一旦協力体制ができあがると、仕事について自分で考え、能動的に取り組める。その結果、ふるさとテレワークが女性の就業の選択の幅を広げるきっかけとなることが分かった。」とテレワークの効果を語る。

図表4-3-2-5 前原テレワークセンター(ママトコワーキングスペース)の様子
(出典)糸島女性支援プロジェクト提供

糸島市は、情報発信にも力を入れている。2013年度に定住促進Webサイト「糸島生活」、2015年度に子育て世代応援Webサイト「いとネット」を立ち上げた。続けて2016年に「テレワーク推進事業」を実施し、子育て中の女性のためのテレワーク技術習得を目的とした連続講座を開催した。2017年度には「ママライタースタートアップ事業」を実施予定で、これは市民女性ライターを育成し、将来的には市からの委託で情報発信を行うなど自立していくことを目指す事業だ。子育て中の母親目線で生きた情報を発信することを通じ、働く女性の後押しとなることが期待されている。

なお、同市の取組は、サテライトオフィス整備にとどまらない。2017年4月に入り、IoT向け製品の開発・生産を行っている会社8の工場誘致に成功した。福岡県の小川知事は「糸島リサーチパークに民間企業の第一号として新工場を建設され、新たな雇用が生まれる事を大変うれしく思っています」と述べている。

イ 行動履歴データを活用した観光客の行動履歴収集(事例:丸森町(宮城県))

宮城県の最南端に位置し、福島県に隣接する丸森町は、阿武隈川が流れる人口1万4千人、世帯数5千程度の町である。中山間地域にある自治体の例にもれず、少子高齢化及び人口減少が課題となっている。こうした現状を打破することを目的に、2016年4月に「まるもり移住・定住サポートセンター(じゅーぴたっ)」9を開設。移住検討者に対する、移住支援制度や住まい、就業に関する相談対応等、一人ひとりのニーズに応じたワンストップサービスを提供している。また、移住希望者向けのイベント(移住ツアー、移住体験プログラム)の実施や、受け入れ側の地域への支援などの活動もしている。

あわせて、「施策を企画、展開していくうえで、データ分析は必要」(同町担当者)という認識のもと、データの収集にも取り組むこととした。「じゅーぴたっ」では、来訪した観光客に対し、観光アプリ「JOYin!」を搭載したタブレットを貸し出す。アプリでは観光地やWi-Fiスポットなどの情報を提供して町内での回遊を促進する。加えて、移住希望者の利用を想定して公共機関や学校、空き家情報も提供する。来訪者の行動履歴をアプリから収集して蓄積する。GPS機能を利用することで訪問したポイントやそこでの滞在時間、移動経路や移動にかかった時間などが分かる。収集したデータを解析し、観光客の利便を高めていくといった施策の検討に役立てていく。移住アプリは、求人、空き家といった移住、定住や観光に関する情報をプッシュ配信する。アプリをダウンロードした人達の各サービスの利用データや行動情報をデータ解析に役立てる(図表4-3-2-6)。

図表4-3-2-6 丸森町CRM導入構築事業の概要
(出典)丸森町への取材より作成

本事業が、地方創生交付金の対象となっているCRM導入構築事業の一部であり成果展開が求められることから、2016年10月にICTベンダーや地域のソフト会社、岩美町(鳥取県)など5社2町でパートナーシップ協定を締結した。この協定を通じて、データを収集するためのアプリ及びCRMをベースとするデータ蓄積・解析のための基盤整備と、町の取組を広く発信するためのプロモーション活動をパートナーとともに行う。

本システムの本格稼働は、2017年4月以降であり、成果が現れるのはこれからだ。同町の担当者は「本事業が実用段階に移行した際は、収集、解析したデータを役場だけで利用するのではなく、企業や商店なども含め、町、地域全体で共有するとともに、周辺自治体との連携も視野に入れていく」としている。

ウ ICTを活用した地産地消で地域活性化(事例:さいさいきて屋(愛媛県))

さいさいきて屋は、JAおちいまばりが運営する直売所である。高齢化に伴う担い手の減少や兼業農家・小規模農家の農協離れによる集荷量の落ち込みに対する問題意識があり、出荷規模の小さな兼業農家や高齢者、女性等の受け皿になるために2000年にオープンした。

オープン当時、ファクシミリが主だった農家との情報のやり取りについて、POS更新にあわせて、携帯電話に電子メールで売上を配信するシステムを独自開発した。生産者側で農作物など商品ごとの売上がリアルタイムに把握できる。生産者は午前中の販売状況をメールで確認し、それを受けて午後からの収穫、出荷量を調整する。商品に貼付するラベルは、生産者自身がタッチパネル式ディスプレイを操作することで作成する。バーコード作成情報は出荷履歴として蓄積され、精算時に反映される。POSシステムにより、店舗、生産者、商品などを、日次、月次で売り上げ管理、分析ができ、生産者に売上実績をメール配信するほか、生産者自身がラベル発行端末のタッチパネルを利用して、個人の売上実績をみることができる。

リアルタイムで売上が分かる効果はてきめんだ。JAの担当者も「売れるから面白く、もっと売れるよう品質や作物種別、時期などを工夫する」と、生産者の農業に対する姿勢が大きく変わったことを実感したという。当初90人ほどだった生産者会員(農家等の出荷者)は、現在では1,200人に拡がり、女性の会員も増えている。さいさいきて屋の売上は、2億円ほどから28億円にまで拡大し、雇用も4人(うち職員1人)から130人(職員15人)に増えた。今では、近隣住民だけでなく、観光バスで訪れる人も多く、100万人以上が来店する人気となっている。開発したPOSシステムは、産直施設運営向けの統合型POS販売管理パッケージとして、全農(全国農業協同組合)がライセンスを譲り受けることで全国のJA直売所、道の駅への普及も進み、全国で200を超える店舗での導入実績がある。

地域への貢献活動の一環として、2014年からタブレットを利用したネットスーパー事業を始めた(図表4-3-2-8)。特に高齢化が進んでいる島嶼部を管内に持つことから、買い物難民対策として実施するもので、さいさいきて屋の商品、日用品約1,000品目についての注文ができる。高齢者でも簡単に利用できるよう、タブレットは専用端末とし、インターネット接続等の機能はつけず、通信料金も抑えた。利用者ごとに端末が決まっているので、買い物時の認証も不要である。また、タブレット画面に手書き入力した手紙を、画像データとして前もって登録した相手先に送る機能がある。このほか、高齢者の見守りの機能をつけている。トップ画面にある花の種に、毎日水をやるというゲームのようなもので、買い物も水もやらない日が2日続くと、システムが自動検知し、スタッフが電話連絡や訪問することで見守りをする。今治市とは見守りのための協定書を結んでいる。

近隣に大型店が出店するなど競争が激しくなってきており、JA担当者は「今後は、大きな経費も必要としないSNSなどインターネットを活用した情報発信に力を入れていく」としている。

図表4-3-2-7 ネットスーパーのタブレット画面
(出典)総務省四国総合通信局ホームページ10


6 内閣府「農山漁村に関する世論調査」http://survey.gov-online.go.jp/h26/h26-nousan/別ウィンドウで開きます

7 総務省「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」のために設立されたコンソーシアムで、糸島市、九州大学、西日本新聞社、ランサーズ、日本テレワーク協会(代表者)がメンバー。現在は、これら5社に加えて、糸島女性支援プロジェクト、スマートデザインアソシエーションが追加メンバーとなっている。

8 株式会社Braveridgeを指す(https://ssl.braveridge.com/別ウィンドウで開きます)。同社は、LPWA(省電力で広域をカバーできる新たな無線通信規格)として認められているLoRaWANに対応した製品の量産化を目指している。2017年4月27日、福岡県より国家戦略総合特別区域法に基づく課税の特例措置を受ける法人として指定された。

9 丸森町ホームページ「まるもり移住・定住サポートセンターの開設について」
http://www.town.marumori.miyagi.jp/kosodate/t10/suport_center.html別ウィンドウで開きます

10 http://www.soumu.go.jp/soutsu/shikoku/ict-jirei/anshin01-saisai.html別ウィンドウで開きます

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