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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第2節 働き方改革とICT利活用

(2)ICT投資と両輪の関係にある業務改革

図表4-2-1-3で示したように、企業が働き方改革に取り組む目的として、「人手の確保」(48%)に次いで多いのが「労働生産性の向上」(44%)である。長時間労働の是正や柔軟な労働時間制度を導入することで、女性をはじめとした多様な人員を確保できた会社は、次の段階として、成長のための労働生産性の向上を目指すようになるからと考えられる。

以下では、ICT利活用を伴う働き方改革において、労働参画と労働生産性の向上という二兎を追いつつも成功を収めている組織の3つの事例を紹介する。下表のとおり3事例それぞれは特徴を有するが、共通するのは、単にICT投資だけでなく業務改革を同時に実施している点である(図表4-2-2-4)。

図表4-2-2-4 働き方改革とICT利活用の事例
ア 女性活躍のためのICT利活用と業務改革(事例:株式会社ユーシステム(兵庫県))

2002年設立の株式会社ユーシステム7は、システム開発を担当するメーカーの関連会社から独立した従業員20人の会社である。システム受託開発、Web制作、クラウドサービス等のICT活用支援等の業務を手掛け、社長をはじめとする社員の半数が女性である。

前提条件として、知名度に劣る中小企業は、新卒採用することが難しく中途採用に頼らざるを得ない。一般に労働集約的な要素が強い情報産業は、3K(きつい、帰れない、給料が安い)の職場と言われることも多い。長時間残業が常態化してしまうと、せっかく苦労して採用し、育成した社員の離職を招いてしまう。「女性には結婚、出産の壁がある。そこで女性にとって働きやすい職場にするためにICT活用をテコにした業務改革に取り組むことにした」と同社の佐伯社長は強調した。

第一の取組が、業務の見える化だ。どういう業務にどれだけの時間をかけたか、個人・グループ別の状況がリアルタイムに分かるようにした。また、クラウド上でプロジェクトを管理するようにして在宅勤務可能な環境を整えるとともに、社内SNSをはじめとするICTツールを活用してコミュニケーション・情報共有することとした。

図表4-2-2-5 勤務状況をはじめ業務に関する様々なデータを表示するダッシュボード
(出典)株式会社ユーシステム提供

第二に取り組んだのが、社内制度改革である。フレックスタイムや半日休暇、傷病積立休暇といった就業制度を次々に整えていった。在宅勤務が可能な環境は整っていたので、傷病や家の都合などの場合には臨機応変に在宅勤務をすることが認められるようになった。

第三に、組織改善を実施した。日本生産性本部のマネジメント強化プログラムの紹介を受け、「実効力ある経営」の評価制度を導入した。10のアクションプランごとに従業員のリーダーをおいて、Webからの集客強化や、顧客対応のスピード化で受注効率を上げるといった課題解決に取り組んだ。

成果は、様々な形で現れた。女性にとって働きやすい環境を整えることで、結婚や出産を理由とした退職を減らせただけでなく、残業時間を大幅に削減することができた。「女性が輝く先進企業表彰」内閣府特命担当大臣賞も受賞した。受賞を機にメディアへの露出も増え、昨年の採用面接での応募者数は100人を超えた。

ICTを利活用した業務改革の好影響は、雇用の面だけでなく業績にも及んでいる。一連の改革の中での取組をサービス商品化することにも成功し、大企業からも引き合いがくるようになった。社内改善を端緒とした取組は、同社のビジネスモデルをシステム受託開発という労働集約型から、クラウドを活用した高付加価値型への転換を促そうとしている。佐伯社長は「今後はICTを使いこなした会社が伸びていく。ICTによる業務改革でクライアントの成長をサポートしていきたい」としている。

イ 競争優位性確保のためのデータ利活用(事例:明豊ファシリティワークス(東京都))

明豊ファシリティワークス株式会社8は、建設プロジェクトに関して発注者側に支援業務を提供するコンストラクションマネジメントサービス(CM)を行っている会社である。20年以上前から、ICTを活用した生産性向上と社外顧客の満足度向上の双方を目的とした取組を行ってきた。そのための専門組織として、データ活用推進室も立ち上げた。先頭に立って取組を進めた同社の坂田会長は「ICT投資については、10年先を見据えた競争優位確保のための先行投資と位置付けている。目先の費用対効果だけで判断はしていない」と語る。

同社がまず手掛けたのが、業務のデジタル化(デジタルな働き方)と、それを支える制度設計、システム化、丁寧な運用だ。CMサービスに関わる業務だけでなく、個人スケジュール管理、経費処理など一般事務、人事評価、教育など会社のすべての業務を対象とした。

全面デジタル化の効用とは何か。それは、あらゆるデータが入手可能となることだ。例えば、「明豊マンアワーシステム」上で、提案書作成、顧客との打合せ、社内会議、現場管理等の活動毎に要した時間が記録される。そのデータを分析すれば、新規案件の見積書作成や人件費の予算・実行管理といった収益管理の高度化のほか、社員別の適性に配慮したキャリアプラン作成に役立てることができる。

デジタル化のもう一つのメリットが、どこでも仕事ができるようになったことだ。プロジェクトマネージャーや営業担当者は、客先や施工現場に出向く機会も多く、場所が限定されずに仕事をすることで労働生産性が向上するようになった。もちろん、テレワークも可能になった。そのための制度として、在宅勤務ポリシーやペーパーレス化といった制度が整えられた。テレワーク導入は会議時間短縮、男女にかかわらず優秀な社員の継続雇用にも好影響を及ぼしている。

社外の顧客からサービスフィーを支払ってもらうには、それに見合った価値のあるサービスを提供していると顧客に認めてもらわなければならない。業務のデジタル化を通じて得られたデータを示し、業務プロセスを可視化することは、顧客の納得感と信頼関係の醸成に大いに貢献するとともに、会社の競争優位性にもつながっている。

図表4-2-2-6 テレワークを支える「経営の見える化」とマンアワーシステム
(出典)明豊ファシリティワークス株式会社提供
ウ 地方自治体によるICTを活用した働き方改革(事例:豊島区役所(東京都))

豊島区役所では2015年5月の新庁舎への移転を機に、業務効率化と区民サービス向上を目的として、ICTを活用した働き方改革に着手した。特別な機器を一足飛びで導入するのではなく、計画的に行政事務の電子化をすすめることで、できるだけ多くの成果を得ようというのが基本姿勢だ。

新庁舎では、庁内無線LAN整備、タブレット配布、ユニファイド・コミュニケーション・システム(IP電話他の機能)の導入等が進められた。これらの取組の効果は小さくはない。無線LANによって庁内のどこででも仕事ができるようになった。特にタブレットを配布された管理職職員は、出張先でも文書の電子決裁を行ったり区議会出席中に資料を検索したりすることが可能だ。IP電話への移行により、職員全員に電話を割り当てることができ、一度に多くの電話対応が出来るようになった。

図表4-2-2-7 タブレットを利用した会議の様子
(出典)豊島区役所提供

ユニファイド・コミュニケーション・システムでは、電話や電子メールに加えて、インスタント・メッセージやウェブ会議をはじめとした多様な機能が装備されている。複数ユーザー間で会議中に共同して議事録作成することも可能となり、作業効率化につながっている。

既に述べたとおり、ICT機器の導入に伴って業務の在り方が大きく変わった。新庁舎への移転が改革のきっかけであったので、スペースの有効利用とペーパーレス化も当初から大きな課題だった。セキュアプリントシステムで複合機の集約を図るとともに、個人所有の書類をなくして原本一つだけを保存することで書類収納スペースを最低限にした(ファイリング・システムの導入)。無線LANのおかげでPCさえあれば会議用資料も原則は不要ということで、ICT活用とペーパーレス化等の業務の見直しを同時並行で進めることができた。

区の担当者は「インフラは整ったので、ICTツールを使いこなしていく段階に入っている。庁内での業務改善とともに、庁外での活用も考えている。」としている。例えば、地震等の災害発生時において帰宅困難者の駅での様子をタブレットで撮って災害対策センターと情報共有することや、工事現場の様子を本庁の土木担当課に報告するといったことなど様々な場面が想定されている。



7 株式会社ユーシステムホームページ http://www.u-sys.co.jp/別ウィンドウで開きます

8 明豊ファシリティワークス株式会社ホームページ http://www.meiho.co.jp/別ウィンドウで開きます

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