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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第5節 第4次産業革命の総合分析

(1)ICT投資と広義の投資

前節では、ICT投資は、ハードからソフト、そしてサービスへという変遷があること、また、ICT投資が経済成長につながるためには、ICT投資のみならずさまざまな仕組みの見直し―具体的には、業務プロセスや組織の改革、研究開発、人材育成など―が必要であることを取り上げた。これらの様々な仕組みの見直しは「広義の投資」またはマクロ経済学において「無形資産」(Intangible Assets)とも呼ばれる。ICT投資と広義の投資(マクロ経済学における「無形資産」)について、先行調査を基に概観する。

日本政策投資銀行では、戦後60年間にわたり主に大企業を対象に設備投資計画調査1(以下「設備調査」)を実施してきており、2016年度の設備調査の中で情報化投資の増加要因の結果をまとめている(図表3-5-1-1)。回答割合が最も多かった「省力化や生産効率向上」は5割程度、続く「情報セキュリティ対策強化」は3割程度であった。

図表3-5-1-1 情報化投資の増加要因
(出典)日本政策投資銀行「2016年度設備投資計画調査の概要」(2016年8月4日)
「図表3-5-1-1 情報化投資の増加要因」のExcelはこちらEXCEL / CSVはこちら

他方、「IoT、ビッグデータ活用のため」という回答は1割にも満たず、IoT投資への優先順位が高くはないことが分かる。さらに、IoT・ビッグデータへの対応に関する個別質問では、「活用している」は1割程度、「活用を検討」は2割程度、両者の合計を潜在的なIoT導入企業とすると3割程度ということになる2。2016年度の設備調査を見る限り、日本の大企業におけるIoT投資への消極姿勢が目立つ。

なお、日本政策投資銀行では、広義の投資を、「将来に亘る企業としての成長、永続、企業価値の向上に向けた取組全般」として類型化も行っている(図表3-5-1-2)。

図表3-5-1-2 日本政策投資銀行による広義の投資の類型
(出典)日本政策投資銀行「2016年度設備投資計画調査の概要」(2016年8月4日)

広義の投資や無形資産の考え方を取り込もうとする動きは、GDPにおいてもみられる。GDP推計に用いられるSNA(国民経済計算)は国連統計委員会において1953年に初めて定められ、その後、1968年、1993年、2008年と改定が重ねられ、各国はこれに対応した基準を作成しGDPを推計している。2008SNAでは、無形資産をより幅広くGDPの対象としており、我が国においても2016年12月から新基準である2008SNAに対応したGDPが公表されている。

図表3-5-1-3 2008SNAにおける知的財産生産物の分類
(出典)United Nations Statistics Division The System of National Accounts 2008 Annex3

2008SNA改定のポイントでありインパクトが大きいのが研究開発であることも、イノベーションの重要性の証左とも考えられる。

マクロ経済学において、無形資産に関ししばしば引用されるのが、Corrado, Hulten, and Sichelの分類であり、無形資産を情報化資産、革新的資産、経済的競争力に分類している。

図表3-5-1-4 Corrado, Hulten, and Sichelによる無形資産の分類
(出典)宮川他『インタンジブルズ・エコノミー』(2016年)

上記にて現れる傾向を類型化すると、「ソフトウェア・データベース」、「R&D」(IPR含む)、「人材」、「組織改革」が挙げられる。これらは、データに関する要素が中心であるもの、人材・組織に関する要素が中心であるものとに大別できると考えられる(図表3-5-1-5)。

図表3-5-1-5 広義の投資・無形資産と本調査における類型化
(出典)総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年)より作成

第2項にてIoT・AIの経済的インパクトを定量的に分析するにあたっても、IoT・AI関連の投資やサービスの投入にとどまらず、企業改革として様々な仕組みの見直し、すなわち、イノベーションの促進も含めた人材育成や組織の見直しを考慮している。

データを定量的に分析して付加価値や課題解決につなげ、人材や組織改革のあり方を考えるにあたって、示唆に富むと考えられるのが、データ分析にて成果を挙げていると言われている企業の事例である。

データセットをコンピューターで分析し結果を出力すること自体はここ十数年でハードルが下がり、一般人にも手の届くものとなっているが、分析の目的を明確化し、どのような仮説を立て、分析にどのようなデータを使い、実際に企業の意思決定にどう役立てるかがデータを付加価値や課題解決につなげるうえで重要と考えられる。

データ分析にて成果を挙げていると言われている事例も踏まえると(図表3-5-1-6)、業務の流れや組織の改革まで行い部分最適ではなく全体最適を実現していること、現場レベルで仮説やデータが生まれていること、データの蓄積と課題解決とに正のフィードバックがあること、最終的にビジネス上の意思決定に活用されていることなどの傾向があると考えられる。

図表3-5-1-6 企業におけるデータ分析の先進事例
(出典)総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年)より作成


1 日本政策投資銀行「2016年度設備投資計画調査の概要」(2016年8月4日)
http://www.dbj.jp/investigate/equip/national/pdf_all/201608_summary.pdfPDF

2 「活用している」又は「活用を検討している」企業は、製造業(486社)が34%、非製造業(674社)が30%(「2016年度設備投資計画調査の概要」中の図表2-5-4より)

3 IoXとは、新日鉄住金ソリューションズが提唱する、モノ(IoT)とヒト(IoH)が高度に連携・協調することで生産性を向上させ、安全・安心に働ける現場を作り上げることを目標としているソリューションの総称。

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