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第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第5節 第4次産業革命の総合分析

第3章まとめ

第1章でデータを生成する重要な手段としてのスマートフォンの普及とその経済的インパクトについて、第2章でデータ流通と利活用をめぐる状況について取上げた。引き続いて本章では、それらから繋がる第4次産業革命とそのもたらす社会的・経済的インパクトについて整理した。

第4次産業革命は世界的な潮流となりつつあり、各国で様々な取組が行われている。我が国でも第4次産業革命への期待感は高まっているが、業種別に見ると、日本では情報通信業が突出して高い結果となった。一方でアメリカやドイツでは、情報通信業も高いが、加えて製造業も比較的高かった。情報通信業は最も第4次産業革命と関連が深い業種であり、期待感が高いのは当然と言えば当然であるが、日本においては他国と比べて他業種へのインパクトの認識が広がっていないことが窺える形となった。

また、第4次産業革命の重要な要素であるIoT・ビッグデータ・AIの導入状況及び導入意向を比較したところ、一般の日本企業は他国と比較して遅れているという結果であったが、日本でも先進的な企業に限って見ると、海外企業と同様の傾向であることもわかった。先進的な企業と一般的な企業との間では意識や取組状況等に大きな差があり、今後全体として先進的な企業の水準に近づいていくことが、我が国が世界的な第4次産業革命の流れの中で遅れを取らないために必要なことだと言える。

あわせて本章では、過去の「産業の情報化」等についての検証を行うとともに、第4次産業革命による変革が実現する場合の経済的インパクトについての試算を行い、IoT・AIの導入や広義の投資等の企業改革がともに進めば、内閣府のベースシナリオと比較して2030年に実質GDPを132兆円押し上げる効果があることが明らかになった。

第4次産業革命は、単なる技術革新にとどまらず、社会全体に変革をもたらし、経済成長にも大きく貢献する可能性を有している。その可能性を現実のものとするため、課題を含めた我が国の現状に着目し、解決に向けて取組む必要があると考えられる。

コラムSOHMO 3 重要性が高まるプライバシー/セキュリティ啓発

インターネットは、私たちの生活を便利にするものであると同時に、新たなトラブルを引き起こすこともある。ネット上での名誉棄損やプライバシー侵害、情報漏えいといったリスクは高まっている。こうしたネットトラブルの被害を最小限に抑えるには、私たちネット利用者一人ひとりが十分なリテラシーを持つことが必要だ。危機意識は広く共有されるようになっており、民間企業の支援する草の根の啓発活動や官民連携型の取組が展開されている。

すっかり定着した「情報通信の安心安全な利用のための標語」募集

電気通信事業者や通信機器メーカーを構成員とする「情報通信における安心安全推進協議会」では、「情報通信の安心安全な利用のための標語」を募集、表彰している。募集は個人部門と学校部門で行われ、毎年、小学生から高齢者まで、幅広い人々が参加している。情報通信を安心・安全に利用するためのルールやマナー、情報セキュリティに関する意識・知識の重要性を広く知ってもらうことが目的で、2017年6月5日には表彰式が行われた。

〈標語表彰式の模様と受賞作品〉
(出典)情報通信における安心安全推進協議会提供資料

2017年度の総務大臣賞は、都城ドミニコ学園高等学校が応募した「SNSでも ポジティブ言葉で わたしから」(学校部門)と、長野県の宮田明さんの作品「しのぶれど 世に出でにけり 我が書き込み」。

これらの標語を載せたポスターや栞が全国各地の学校や公共機関に掲示されているので、ご覧になった方も多いのではないだろうか。2017年度の標語の応募数は2万件を超え、全国に関心が広まっていることがわかる。ポスター等を「見てもらう」ことによる啓発効果だけでなく、多くの人が「自ら標語を考える」気付きの機会となっていることに意義がある。

事業者団体が乗り出したプライバシー侵害防止の啓発活動

2016年には、一つ新たな取組が開始された。インターネット利用者数の増加と低年齢層への利用拡大に伴い深刻化している、ネット上のプライバシー侵害情報の被害等の解決を図るため、インターネット関連の事業者団体が中心となって「ネット社会の健全な発展に向けた連絡協議会1」が設立された。

〈ネット社会の健全な発展に向けた連絡協議会ポスター〉
(出典)ネット社会の健全な発展に向けた連絡協議会提供資料

同協議会は初年度の取組として、インターネット上で他人を傷つける情報発信が行われないよう、利用者のマナーやモラルの向上を呼び掛けるポスターを作成・配布した他、「集中キャンペーン期間」を設けて14件もの普及啓発イベント2を開催した。参加団体・企業のウェブサイトには同協議会のバナーが掲載され、各社・団体が連携して情報発信者のリテラシー向上のための啓発に取り組んでいる。

また、インターネット上のプライバシーに関連する話題として、いわゆる「忘れられる権利」がある。これは、過去の自分に関する情報がいつまでもインターネット上に残り続けてしまう問題に対して、特に検索サービスの検索結果から情報の削除を求める根拠として欧州を中心に議論が活発化し、注目されるようになった。

日本でも、いわゆる「忘れられる権利」に関する基本的な考え方や法的位置付け等を議論することを主な目的として、2016年12月、学識経験者、検索サービス事業者、メディア関係者等が集まり、「インターネット上に掲載された過去のプライバシー関連情報等の取扱いに関するシンポジウム」が東京で開催された。

草の根啓発活動の支援とネットワーク化

インターネットは、誰もが情報発信者にもなりうるメディアであるため、ネットモラルやサイバーセキュリティの向上には利用者一人ひとりに地道に働きかけていかなければならない。全国各地で地域に根ざした啓発活動に取り組む団体やグループが生まれてきている。ただ小規模な取組であることが多く、活動資金の確保や教材、人材の不足が悩みの種だ。

そこで、こうした活動の支援とネットワーク化に乗り出したのが、一般財団法人草の根サイバーセキュリティ運動全国連絡会(Grafsec-J)」だ。Grafsec-Jは、各地で活動するサイバーセキュリティ啓発団体や個人に対し、助成事業等による資金援助、セミナー講師派遣等の地域支援活動、「全国大会」開催による交流の場の提供等、多面的な支援活動を展開している。

〈Grafsec-J助成事業の事例〉

  • 未就学児の保護者グループや保育士等への講座研修
    (NPO法人浜松子どもとメディアリテラシー研究所、静岡県)
  • 小中学生のネット依存防止のための講座カリキュラム開発
    (子どものネットリスク教育研究会、青森県)
  • 各地域の協力団体に関連講座のノウハウを継承する取組
    (一般社団法人LOCAL、北海道)
  • 小規模自治体向け情報セキュリティ対策支援活動
    (NPO法人電子自治体アドバイザークラブ、奈良県)

Grafsec-J常務理事の吉岡良平さんは、第一に地域密着の活動の意義を力説している。

「インターネットの利用で発生する問題や啓発へのスタンスは地域性などによっても微妙に異なるので、自らの地域を啓発する組織が各地に形成され、地域に最も合った内容や方法で啓発する仕組みづくりが重要なのです。」

第二に、吉岡さんが強調するのが多様な人材の参画だ。

「地域社会は、多様な人々で構成されています。ですから高齢者向け、障害者向け、保育士向け、保健師向けなど、それぞれの視点に寄り添った啓発手法が必要です。多様な立場の方に参加してもらって、次は自らの視点で身近な啓発活動に取り組んでもらえるようにしたいのです。」

Grafsec-Jが目指しているのは、リアルな地域社会の姿に寄り添った多様な啓発活動の展開だと言える。きめ細かい取組の積み重ねで、ICTユーザー一人ひとりに届くサイバーセキュリティ啓発が進んでいくことが期待される。

インターネット上のプライバシー問題は、インターネットが提供する利便性、情報発信や情報活用能力の飛躍的な向上が生み出す、いわば「影」の部分に当たる。それは、利用者一人ひとりに深く関わる問題だけに一朝一夕に解決できるものではなく、幅広い関係者が連携・協力した啓発活動の継続・展開をしていくことが必要となっている。



※「コラムSOHMO(草莽)」では、情報リテラシー向上やICT利活用推進に取り組んでいる民間団体の活動を紹介しています。

コラムSOHMO 4 CeBIT2017と今後の国際連携

2017年3月20日から24日の間、ドイツ連邦共和国(ハノーバー)で国際情報通信技術見本市「CeBIT 2017」が開催された。CeBITは、先端技術を活用したB2Bソリューションの世界最大級の展示会であり、70か国から約3,000の企業・団体出展と20万人の来場者があった。本年は日本がパートナー国となったこともあり、日本国内からは前年の10倍以上に上る118もの会社・団体が出展を行った。

日独首脳が参加したほか、経済産業省からは世耕弘成大臣、総務省からは太田直樹総務大臣補佐官等が参加した。安部晋三内閣総理大臣は、ドイツのメルケル首相とのCeBIT視察に先立ち、次のように述べた。

〈CeBITを視察する安部総理大臣とメルケル独首相〉
(出典)内閣官房内閣広報室提供

「IoT、ビッグデータ、人工知能といった技術が進展し、デジタル化の新しい波が到来しています。これらの新たな技術と従来から培ってきた産業技術をつなげ、エネルギー環境問題や少子高齢化等の社会問題を解決していくことが大切であります。」3

明確な目的を持って出展した日本企業

日本企業のCeBIT出展は、身近な生活や暮らしに始まり、働き方、工場における製造過程に至るまで幅広い領域にわたった。医療や介護、福祉、農業、建設、音楽、ゲーム、スポーツといった各業種におけるユニークな技術やサービス・製品が集結した。展示のカテゴリー別には、生活・オフィス・社会(67社)、インフラ・工場(35社)、要素技術(16社)の順に多かった。

〈CeBIT2017の出展企業〉

その結果として、4K・8K放送技術、バーチャルリアリティー、ウェアラブル機器、センシング技術、生体認証技術、コミュニケーションロボット、アシストスーツ、パーソナルモビリティー、ドローン、自動運転システムなど、次世代の情報通信分野を担う日本の革新的な技術やサービス・製品を幅広く世界に向けて発信した。当初よりCeBIT参加の目的として掲げられていた、B2Bソリューション企業としてのブランドイメージの確立や、ビジネスパートナーの拡大は、概ね達成できたのではないだろうか。

CeBITを主催するドイツメッセ株式会社では、イベント終了後速やかに事後レポートを公表している。その中で、公式パートナー国である日本から多数の企業が出展したことを高く評価するとともに、「日本がデジタル時代の先導的役割を果たすことを内外に示した」と特記している。

今回、注目度の高いパートナー国の立場での大規模出展により、日本の技術が世界の人々の生活を変えられる可能性を示したと考えられる。また、IoTが製造業の新たな成長機会を生む余地があることや、自社内で完結することが稀有なIoT分野では国際連携の必要性が高まっていることが再認識された。

IoT国際連携の推進

IoT関連の国内民間企業の業界としては、2015年10月に発足したIoT推進コンソーシアムがある。2017年3月末現在のその会員企業数は2,812である。IoTのテストベッド実証や標準化等に向けた国際連携が促進され、ひいては日本企業によるグローバルなIoTビジネスの創出・普及を目指すこととされている。

2016年10月、IoT推進コンソーシアムと、米国のIoT関連の団体であるインダストリアル・インターネット・コンソーシアム(IIC)及びオープンフォグ・コンソーシアムとの間でIoT分野の協力に向けた覚書(MoU)が締結された。MoUに則り、グッドプラクティスの発掘・共有や、テストベッドや研究プロジェクトの協力、アーキテクチャ等の相互運用性の確保、標準化に関する協力等の取組が進められている。また、2017年2月にインドの全国ソフトウェア・サービス企業協会(NASSCOM)と、2017年3月に欧州のIoTイノベーション・アライアンス(AIOTI)とそれぞれMoUを締結した。

2017年3月末に東京で開催された「IoT国際シンポジウム2017」4では、これら欧米の推進団体、IIC、OpenFog、AIOTIも参加し、今後のIoTの国際連携の方向性についてのパネルディスカッション等が行われた。ここでは、IoTデータの利活用は、消費者に付加価値をもたらすことが期待される一方、データの所有権など様々な課題があり、こうした課題の解決策を含め、ベストプラクティスをIoT推進団体間で共有することの重要性等が共有された。

〈IoT国際シンポジウム2017で開会の挨拶を行うあかま総務副大臣〉
〈欧米のIoT推進団体〉


※「コラムSOHMO(草莽)」では、情報リテラシー向上やICT利活用推進に取り組んでいる民間団体の活動を紹介しています。



1 https://www.fmmc.or.jp/net-shakai/index.html別ウィンドウで開きます

2 普及啓発イベント:「青少年のインターネット利用環境づくりフォーラム」、「高校生ICTカンファレンスサミット」「ぼくらのTwitterプロジェクト」、「こどもとインターネットの未来」等

3 このスピーチはメルケル首相との展示視察直前に行われた。
安倍総理展示視察直前スピーチ:http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201703/20germany.html別ウィンドウで開きます
なお、安倍総理は、CeBITの前夜祭及び日独共同記者会見においてもスピーチを行っており、前夜祭でのスピーチにおいては、我が国が目指す産業の在り方としての「Connected Industries(第3章第1節脚注4参照)」のコンセプトについて、①人と機械・システムが協調する新しいデジタル社会の実現、②協力や協働を通じた課題解決、③デジタル技術の進展に即した人材育成の積極推進を柱とする旨を紹介した。
安倍総理前夜祭スピーチ:http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0319welcome_night.html別ウィンドウで開きます
安倍総理日独共同記者会見スピーチ:http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0320kaiken.html別ウィンドウで開きます

4 IoT推進コンソーシアムの下にあるワーキンググループの一つであるスマートIoT推進フォーラムが主催

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