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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT国際戦略の推進

(7)韓国のICT政策の動向

「アルファ碁ショック」を契機として人工知能(AI)ブームが続く韓国では、2016年にAIの戦略分野指定など、AI育成基本戦略が打ち出された。2017年からは「第4次産業革命への対応」として、AI活用がもたらす社会的変化に対応するための広範な制度整備を本格的に進める段階に入った。そのため、AIの技術開発にとどまらず、安全面や倫理的課題などの包括的な分野での課題解決に向けた取組が始まっている。

また、2018年2月に開催を控えたピョンチャン冬季オリンピック・パラリンピック(以下、ピョンチャン冬季五輪)を「ICTオリンピック」と位置づけ、世界初の5G試験サービスや地上波4K放送等、最先端のICTサービスを公開することとしており、2020年に開催される東京オリンピックに合わせて5G商用サービスや8K放送等の公開を予定している我が国としても関心が高いところである。

さらに注目すべき政策として、MVNO促進と端末流通法を中心とした通信料金引き下げ政策が挙げられる。端末補助金の透明化を目的とした韓国の端末流通法は、日本の携帯電話料金の在り方の議論においても参考とされた。特に端末流通法に関しては、補助金上限規制が3年の時限措置であるため、期限を迎える2017年秋までにこれまでの成果の総括と見直しが行なわれる見込みである。

2017年3月10日に朴槿恵大統領が弾劾され、同年5月9日には新たに文在寅大統領が選出された。文大統領は選挙公約として「第4次産業革命の推進」や「家計通信費の削減」を掲げており、ICTを担当する政府組織の再編も含め、今後の動向が注目される。

ア 人工知能(AI)

2016年3月にGoogle DeepMind社が開発した囲碁人工知能(AI)AlphaGo(アルファ碁)がプロ棋士に勝利した対局の舞台となった韓国では、「アルファ碁ショック」と呼ばれるAIブームに火が付いた。アルファ碁ショックを契機としてAI分野の重要性が一般にも幅広く認識されるとともに、AI技術開発がICT分野の最優先課題に浮上した。

アルファ碁ショック以降の韓国政府のAI分野強化に向けた行動は素早く、対局終了直後の2016年3月に、朴大統領(当時)参席の下開催された政府懇談会で、向こう5年間でのAI分野育成基本方針を盛り込んだ「知能情報産業発展戦略」がまとめられた。大統領自らがAI分野育成策のスピードアップを宣言し、同年10月には国策AI技術研究所として知能情報技術研究院が設立されたほか、2016年からは様々な分野でAI活用を強調した新サービスや製品が登場している。

AI社会に対応するための政府横断的な政策として、政府の最上位のICT戦略を決定する情報通信委員会は、「第4次産業革命に対応する知能情報社会中長期総合対策」を2016年12月にまとめた。総合対策では、技術・産業・社会へとつながる中長期政策方向と2030年までの政策推進課題を盛り込んでいる。

2017年は特に、AIがもたらす広範な変化に包括的に対応するため、政府レベルの取組が本格化する。具体的には、ICT戦略決定の最高機関である情報通信戦略委員会を、中央政府・自治体・有識者・企業などが参加する「知能情報社会戦略委員会」に拡大し再編する。公共サービス分野では、国防・安全・教育の分野におけるAI活用を優先的に進める方針である。

イ ピョンチャン冬期五輪での世界初の5G試験サービス・地上波UHD放送

2018年2月に開催されるピョンチャン冬季五輪は、韓国が強みとするICTの最先端サービスを世界に向けてアピールする絶好の機会でもある。そのため、ピョンチャン冬季五輪を「ICTオリンピック」と位置づけ、官民挙げての準備が進められている。

2016年5月に情報通信戦略委員会が、ピョンチャン冬季五輪に向けたICT戦略としてまとめた「K-ICT冬季オリンピック実現戦略」に従い、ピョンチャン冬季五輪では、5G、IoT、4K/8K(UHD:超高画質)放送、AI、VR(仮想現実)の5つの新技術を駆使したサービスが提供される。特に、ピョンチャン冬季五輪開催期間中に世界初の第5世代移動通信(5G)の試験サービスが予定されていることから、「世界初の5Gオリンピック」のスローガンが掲げられており、5Gネットワーク活用の試験サービスとして、スマートフォンで競技映像を360°で見渡せるVRライブ動画視聴や、ホログラムによるK-POPコンサート、VRドローンレーシング大会開催などが計画されている。

我が国でも地上波による4K放送実現に向けた技術検討が始まったところであるが、韓国では2017年5月に世界に先駆けて地上波による4K本放送を首都圏で開始する予定であり、公共放送KBSは2017年2月末から地上波4Kの試験放送を首都圏で開始した。ピョンチャン冬季五輪期間中は、競技や韓国の自然景観を臨場感あふれる大画面超高画質映像(UWV:Ultra Wide Vision)と三面立体映像等で提供する予定である。

ウ MVNO及び端末補助金規制の現況

家計に占める通信料金負担軽減は、2008年の李明博政権期から重要な政権公約の一つと位置付けられている。特に、2010年以降のスマートフォンの急速普及の結果、通信料金支出が拡大する傾向にあった。そのため、通信料金引き下げに向けた様々な取組が政府主導で実施されている。現在の通信料金引き下げ政策の中心は、MVNO促進と、端末流通法(移動通信端末装置流通構造改善に関する法律)施行で導入された新たな料金割引制度である。

MVNO促進政策として、政府は毎年卸料金引き下げや販路拡大、知名度向上などのMVNO市場拡大につながる施策を導入している。韓国でMVNOが導入されたのは2010年以降であるが、MVNO促進策の一環で2013年9月に郵便局でMVNO代行販売が開始されたことで、普及に弾みがついた。一方、MVNOの大半が中小企業であり、LTEサービスではMNOよりも競争力が劣ることから、今後もMVNO促進政策が継続されると考えられる。

また、韓国では携帯電話端末販売時に通信事業者が支給する補助金が消費者差別につながったとして、2014年10月に補助金支給内容の透明化を図ることを目的とした、端末流通法が施行された。同法施行により、補助金上限規制を含めた補助金支給のルールが徹底されると同時に、補助金に代わるインセンティブとして新たな通信料金割引プランの提供が義務づけられた。

一方、端末流通法に関する議論は遅れているが、同法の主な規定は3年の時限措置であるため、期限を迎える2017年秋までに、本格的な見直しの議論が進められる見込みである。

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