総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > 多様な情報発信・情報共有手段の補完的利用
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第3節 熊本地震と新たな災害情報等の共有の在り方

4 多様な情報発信・情報共有手段の補完的利用

熊本地震においては、従来から活用されているJアラート等による一斉配信情報の収集だけではなく、自治体職員各々が情報を収集し、集約・共有を行うためにタブレット端末を活用したり、被災者が発信したSNSに基づく情報からニーズの収集を行うなどICTツールを活用した情報収集が行われていたことが特徴として挙げられる。

自治体における情報収集手段の変化についてインタビュー結果等を基に整理すると、発災初期の緊急地震速報や津波情報等の収集に関しては、気象庁から消防庁に伝達された情報を衛星回線や地上回線を通じて瞬時に地方公共団体に発出するJアラート等が活用された。本フェーズでは、16日の地震の際に停電または庁舎の損壊があった自治体を除き、概ね問題なく情報収集が行われていた(図表5-3-4-1)。

図表5-3-4-1 時間経過と自治体における情報収集手段の変化
(出典)総務省「熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査」(平成28年)

一方、応急対応期・復旧期には、被災情報を把握し対応策を検討するため、救援情報や被害情報、安否情報等の収集が行われた。これらの情報について、各職員が収集した情報を集約・共有するため、携帯電話やタブレット端末が活用された。また、応急対応期・復旧期における情報収集にあたっては、職制を通じてあげられてくる情報は古くなってしまっているものが多かったことから、市民のニーズをタイムリーに把握し、業務に必要な情報を効率的に収集するためにSNSを活用した情報収集ニーズが顕在化した。一方、SNSを活用した情報収集にあたっては、情報の真偽の確認や膨大な情報の中から必要なものを取捨選択する必要があることから、SNS上で流れた情報の中から有用な情報を抽出したり、必要な情報だけを収集できるツールが必要とされている。

また、避難時・避難所における被災者のニーズの集約・発信においても、ICTツールを活用した分散した空間からの情報収集が行われていた。東日本大震災においては、発災時の燃料不足や県の拠点施設での物資の滞りもあり、被災者に必要な物資が適切なタイミングで供給されず、被災地でのニーズの変化等により、救援物資が一時的に被災地内外の倉庫に滞留する状況が発生したことが課題としてあげられた。

これに対し、熊本地震では、東日本大震災同様、発災後は物資が行き渡らない、トイレがないといった避難所ごとに様々な課題があったが、避難所や避難者に応じたニーズの集約・発信手段が活用されることにより、課題が軽減された事例も見受けられる。避難時・避難所における被災者の物資等に対するニーズの集約・発信を効率的に行うために、「自治体職員によるタブレットを活用したニーズの集約」「自治会長(区長)等による自治会メンバーのニーズの集約」「被災者によるSNS等を介したニーズの発信」の3つの方法がとられていた。「自治体職員によるタブレットを活用したニーズの集約」は、避難所担当の自治体職員が避難者のニーズを自治体に伝達する方法である。自治体と避難所の職員の間では、災害支援で提供された避難所運営アプリを導入したタブレットが活用された。「自治会長(区長)等による自治会メンバーのニーズの集約」は、自治会長(区長)が自治会メンバーのニーズをとりまとめ、自治体から発行された通行証をもとに必要な物資を直接集約した方法である。高齢者などきめ細かな対応が必要な人のニーズにも迅速なサポートが提供できたが、自治体との情報連携は対面や電話での共有が中心になり、情報共有を行うための時間が必要以上に長くかかることがあった。また、「被災者によるSNS等を介したニーズの発信」は、若年層を中心にTwitter等のSNSやAmazonの「ほしいものリスト」を活用し、被災者自身が必要なものを被災地域外に発信した方法である。必要な人が必要なものをリアルタイムに発信することができ、より迅速な対応ができた一方、情報の集約ができないため、物資が重複したり、不要になった時に取り下げをしていないと、古い情報が残り続け、いつまでも物資が届き続けることがあった(図表5-3-4-2)。

図表5-3-4-2 避難時・避難所における被災者のニーズの集約・発信
(出典)総務省「熊本地震におけるICT利活用状況に関する調査」(平成28年)

このように、自治体の情報収集・発信において、SNSの活用や災害時専用のアプリケーションの活用が進められている。一方で、SNSの活用については、情報の真偽や鮮度、必要な情報を適切に集約することに対する課題が顕在化しており、これらに対する解決策の提示が求められている。このようなSNSを活用する際の課題解決策として、災害状況要約システムD-SUMM(ディーサム)の活用が検討されている。D-SUMMとは、SNS(Twitter)上の災害関連情報をリアルタイムに深く分析し、自治体毎に整理して、一目で状況把握・判断を可能とし、救援、避難の支援を行うシステムである。被災報告が膨大な場合でも、短時間で被災状況全体を把握することが可能であり、場所毎の被災状況把握も容易に整理することができる(図表5-3-4-3)。

図表5-3-4-3 D-SUMMを活用した熊本地震(4月14日の地震)発災後1時間の熊本県の被災状況の要約
(出典)情報通信研究機構作成資料

このようなツールを活用することにより、自治体の情報収集・情報共有をより効率化し、災害時においてもより多くの被災者の声を拾い上げることができるようになると考えられる。

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