総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > 観光客の呼び込み、利便性向上に役立つICT利活用
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第3節 地方創生とICT利活用

(2)観光客の呼び込み、利便性向上に役立つICT利活用

自治体アンケート(図表4-3-1-3)によれば、インバウンド観光に関する取組の中で「開始予定」の自治体を含めると3割超の実施率であるのが公衆無線LAN環境の整備と多言語によるウェブ上の情報発信である。図表4-3-1-6から各種の観光振興策の訪日観光客観光客の増加への効果についての自治体側の評価が分かるが、両施策ともに相対的に高い効果があったと評価されている。ここでは公衆無線LAN整備の現状と、多言語によるWeb上の情報発信の具体的な事例をみていくこととする(図表4-3-1-7)。

図表4-3-1-7 交流人口増加に貢献するICT利活用の方向性
(出典)総務省「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」(平成29年)
ア 公衆無線LAN環境の広がり

観光庁による「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査(2014年度)」2によると、「旅行中困ったこと」としては「無料公衆無線LAN環境」が46.6%で最も多く、訪日外国人旅行者における無料公衆無線LANへのニーズが高い結果となっていた。

無料公衆無線LANの整備促進に取り組むため、総務省では観光庁と連携して「無料公衆無線LAN整備促進協議会」を設置し、無料公衆無線LAN環境の更なる整備促進、利用できる場所の周知・広報、利用手続きの簡素化等を検討している。

地方においても、交通拠点、ホテル、コンビニ、飲食店、自販機等での民間主導による無料公衆無線LANの整備とともに、防災拠点などの行政主導による整備が進められている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、全国約3万か所に公衆無線LANのアクセスポイントを整備する目標を立てており、2016年度末の時点で目標のおよそ半分に当たる14,800か所でのアクセスポイント設置が進んでいる3。これら無料公衆無線LAN整備の取組の進展もあり、観光庁が2017年2月に公表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート」では、「旅行中に困ったこと」として最も回答が多かったのは「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」4の32.9%であり、「無料公衆無線LAN環境」は28.7%で、2番目に多い回答となっている(図表4-3-1-8)。観光客の利便性向上を目的とした公衆無線LAN整備においては訪日外国人への情報提供や広域連携等の取組も同時に進められており、通信手段の提供と同時に観光客へのPRの面でも公衆無線LANが活用されることが期待されている(図表4-3-1-9)。

図表4-3-1-8 訪日外国人旅行者が旅行中に困ったこと(抜粋)(複数回答)
(出典)総務省・観光庁 無料公衆無線LAN整備促進協議会 第3回幹事会資料
「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査(2014年度実施)」(2016年1月公表)
観光庁「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート(2016年度実施)」(2017年2月公表)
図表4-3-1-9 観光客の利便性向上に向けた公衆無線LAN整備の事例
(出典)総務省「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」(平成29年)
イ 多言語によるウェブ上の情報発信のモデルケース(事例:高知県)

前出のとおり、多言語によるウェブ上の情報発信に取り組んでいる自治体は数多い。前述の自治体アンケートの計量分析の結果から、都道府県が「自ら運営・管理するホームページやWeb上の観光案内を多言語化」した場合、あまり高い効果は得られていない。

しかしながら高知県は例外である。同県の外国人延べ宿泊日数は、全国平均を上回る伸び率で増えている。その背景には、2015年9月に観光コンベンション協会が立ち上げた外国人向け観光情報サイト「VISIT KOCHI JAPAN」(以下「VKJ」)の存在がある(図表4-3-1-10)。

図表4-3-1-10 VISIT KOCHI JAPAN
(出典)VISIT KOCHI JAPAN(http://visitkochijapan.com/別ウィンドウで開きます)をもとに作成

ドローン等による迫力のある動画の再生で始まるVKJの特徴は、5言語(英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、韓国語、タイ語)圏別の趣味・嗜好にあわせてサイト構成を変えて情報発信していることにある。立ち上げに先立ち、日本在住の外国人に対面調査を行って、言語圏別にどのような観光資源に魅力を感じているのか等を明らかにした。また、外国人目線での情報発信を心がけ、外国人ライターにも記事を執筆してもらっている。

もう一つの特徴がウェブサイトとSNSを使い分けている点にある。SNSはタイムリーな情報発信に強く、口コミによる情報拡散も期待できる。一方、ウェブサイトは、検証と改善を繰り返すことによって情報の質を向上できるなど、長いスパンでのプロモーションを発信できる強みがある。互いのメディアの長所を活かし、ウェブサイトでは県内の観光資源や訪問時に便利な情報を提供し、SNSではタイムリーな情報を発信している。相互に導線を設けるなどして連携することで高知県への誘客を促進している。

宿泊客やクルーズ船での来訪者を対象に高知県が行った調査によれば、高知県を認知した媒体としてVKJを挙げる者が16%を占め、テレビ(19%)、雑誌(17%)と遜色ない。高知県の認知度も高まっている。2015年度に香港45%、シンガポール38%、台湾33%であった認知度は、2016年度に香港55%、シンガポール45%、台湾44%に着実に増加している。延べ宿泊者数も、開設前の2014年と比べ2016年には香港4.6倍、中国2.0倍、台湾1.5倍などと大きく増えている。

言語圏別のマーケティング調査を徹底的に行った上で、外国人目線で、それぞれの言語圏の趣味・嗜好にあった情報を提供するだけではなく、関連データを把握して継続的に改善等を図りながら効果的な誘客につなげている。



2 総務省・観光庁 無料公衆無線LAN整備促進協議会 第3回幹事会資料「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査(2014年度実施)」(2016年1月公表)http://www.mlit.go.jp/common/001115689.pdfPDF

3 総務省「防災等に資するWi-Fi環境の整備計画」の公表 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu06_02000131.html別ウィンドウで開きます

4 訪日外国人とのコミュニケーションを支援するICT利活用については、世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(2017年5月30日閣議決定)において訪日外国人の利便性向上の観点から「訪日外国人観光客等に有益な飲食店や観光資源等のオープンデータ化推進」「多言語音声翻訳技術の研究開発及び社会実証」が重点的に講ずべき施策として挙げられており、今後の改善が見込まれる。

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