総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > フランスのICT政策の動向
第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT国際戦略の推進

(4)フランスのICT政策の動向

フランスでは、2016年10月に「デジタル共和国法」が公布され、ICT振興及びICT産業の発展に伴って生じる社会的問題への対応に関する今後の国家的方針が明確化された。近年のICT政策の中心は、高速ブロードバンドサービスの堅調な伸びに基づき、通信事業者間の競争環境整備からICT産業全体にわたる投資振興へと移りつつあったが、同法により、ICT技術開発とその普及への支援が関連官庁の主要な役割であることが定められたといえる。なお、フランスの固定通信分野で超高速ブロードバンド18がインターネット加入者全体に占める割合はまだ約20%ではあるが、最大接続速度100Mbps以上の光ファイバサービスが都市部をほぼカバーし、FTTHサービス加入の増加率は2016年には52%に達している19。また、移動分野では、LTEサービスの加入者の携帯電話全体に占める割合が40%まで増加、スマートフォンの所有率も60%を超えた20

2016〜2017年には特に、IoT及びAI分野の成長が期待されている。政府は同分野を政府支援プロジェクトの中心に位置づけ、また国際競争力強化や成果のアピールのための新たな戦略を打ち出した。通信規制機関も近年の通信産業動向を踏まえ、IoT支援のための資源開放の道筋を示した。

ア デジタル共和国法

経済・産業・デジタル省(現経済・財務省)が立案し、2016年10月に発効したデジタル共和国法は、産業及び市民生活全体のデジタル化を推進し、今後のICT普及政策の原則を示すものと位置付けられ、以下の3部構成で、15の主要目標を提示、関連法規則の改正を指示している。

・第1部:イノベーションの自由化:①公益に資する政府データの公開、②研究者、統計関係者のためのデータアクセスのセキュリティ確保、③公共の機関による研究の成果への自由なアクセスとデータ収集の許可

・第2部:ネット空間における信頼性の確立:④ネット中立性、⑤データ持ち運びの権利、⑥消費者向け情報の信頼性、⑦個人情報保護、⑧リベンジポルノへの罰則、⑨故人の情報の収集に関する生前の本人の意思の尊重

・第3部:開放的かつ包括的に保証されるデジタル共和国の設立:⑩インターネット接続維持の権利、⑪SMSによる寄付の容易化、⑫超高速ブロードバンド網のカバレッジ拡大推進、⑬デジタル・サービスへのアクセシビリティ向上、⑭全国レベルでのデジタル・サービスの展開と普及の支援、⑮eスポーツの公的な承認と規制の確立

2016年11月、外務・国際開発省は、同法を踏まえ、①世界的にオープンで多様性に富み信頼性の高いデジタル世界の促進,②経済成長・基本的権利・自由とセキュリティにおいて共通した欧州モデルの構築③仏や仏企業のデジタル分野における影響力・魅力・セキュリティ・商業的ポジションの強化を3原則とする「仏デジタル国際戦略」を発表した。2017年2月半ばまでパブリック・コンサルテーションが実施され、132機関が参加した。

また、仏通信分野の基本法である「郵便・電子通信法典」は2016年に「デジタル共和国法」等により大幅に改正された。電子通信分野の事業者規制機関である電子通信・郵便規制機関(ARCEP)は、2016年からその役割を従来の通信事業規制のほか、インフラやサービスに対する投資促進に拡張する意思を表明していたが、この改正によりその方向性が明確化された。改正により追加された新たな役割は、事業者のサービスの質及びカバレッジに関する調査・監督、光ファイバ網への投資促進、ネット中立性の維持等である。

イ 人工知能(AI)戦略

2017年2月、マンドン国民教育・高等教育・研究大臣付高等教育・研究担当長官及びルメール経済・財務大臣付デジタル・イノベーション担当長官(当時)は、仏の人工知能産業発展のための国家戦略「FRANCE IA」を公表した。

同戦略は、「デジタル共和国法」の趣旨にのっとり、AI技術が、今後の研究、新製品・サービスの開発、産業界の革新の要であるとし、既存の関連イニシアティブと連携しつつ、この分野で仏産業の有する潜在能力を全国レベルで強化することを目指している。同戦略と関係が深い近年の産業支援策としては、2010年に開始された先端産業育成プログラム「未来の投資」の第3弾「PIA3(2016~)」でAIが中心的な支援分野の一つに位置付けられたことが挙げられる。

一方、AIに係る倫理的問題については、2017年1月に、CNILが、多くの産業分野で顕在化しつつあるAIのアルゴリズムに対し、人間の意思決定の自由という点で世代間の意見の相違が目立つ等、このテーマが社会的争点となっている点に注目し、教育、研究、法曹等各分野の関連機関からなる検討会議を結成した。当初の参加団体は官公庁や大学を中心に20機関で、プライバシーへの尊重や個人情報データの保護を保証しつつAIの発展を促進するという観点から協議を進め、2017年秋に協議結果を公表する予定である。

ウ FRENCH TECHへの継続的支援

「FRENCH TECH」は、経済・財務省が2013年から主導するベンチャー支援プログラムで、ベンチャーの発展による先端産業の国際競争力強化や地域経済活性化を目標に、政府金融機関からの融資や公共事業のプロジェクト公募を行っている。またICTサービスを中心に国内外でのベンチャーの成果発表を後押しし、2016年6月には、パリで、スタートアップ企業の見本市「VivaTechnology」を開催した。同年末には、参加企業の総投資額は、2014年比90%増の約16億ユーロに達した。

経済・財務省は「FRENCH TECH」への支援を2016〜2017年にはさらに強化、2017年予算案で新興中小企業への優遇税制を採択した。2017年には特に、国外ベンチャーの誘致や研修支援等の国際化プログラムの充実を図るとしている。



18 フランスにおいては、下り最大接続速度30Mbps以上

19 2016年12月現在

20 2016年9月現在

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る