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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT国際戦略の推進

(2)EUのICT政策の動向

EUは、デジタル分野において加盟国間で異なる制度等の調和を図ることにより、新たな経済成長を創出する統一的な市場、すなわち「デジタル単一市場」の実現を情報通信分野の最優先の政策目標として掲げている。欧州委員会は、三つの柱とそれぞれに連なる16の主要施策で構成される「デジタル単一市場戦略(A Digital Single Market Strategy for Europe)」を2015年5月に公表し、同戦略に基づき政策を遂行している。2016年には、電子商取引、著作権、電気通信規制、個人データ保護など様々な分野で進捗が認められた。また、2017年5月にはデジタル単一市場戦略の中間レビューが公表され、欧州委員会は、理事会及び欧州議会に対し、既に提出された関連法案について速やかに合意することを求めている。

この他、EU域内の国際ローミング料金の撤廃に関しては、2017年6月15日の完全施行に向けて詳細な制度整備が行われた。

ア デジタル単一市場戦略の進捗状況

2016年5月、欧州委員会は、越境電子商取引の促進を目的として、不当なジオ・ブロッキング(地理的要因による越境オンラインサービスへのアクセス拒否)を禁止する規則案等を提案した。また、デジタル単一市場戦略に基づく初の法案として2015年12月に提案されたEU域内におけるオンライン・コンテンツの越境ポータビリティ促進を図る規則案は、2017年2月に欧州委員会、欧州議会及び加盟国の交渉担当者間で基本合意に至り、欧州議会での最終採択等を経て2018年初めまでに施行される予定である。

2016年9月、欧州委員会は、近年の情報通信技術の進展等に対応するため、EU域内における電気通信規制の更なる調和、市場の公平性の確保及び高速ブロードバンド網への投資促進等を目的とし、周波数政策の調和、OTT事業者への規律対象の拡大等を盛り込んだ新たな電子通信指令案等を提案した。

この他、オンライン・プラットフォームへの対応等を目的として、視聴覚メディアサービス指令の改正案(2016年5月)や著作権制度の見直し案(2016年9月)等が欧州委員会より提案されている。

イ 個人データ保護及びデータエコノミー

欧州委員会が2012年に提案した「一般データ保護規則(GDPR)」は、2016年4月に欧州議会で最終的に採択され、2018年5月に施行されることとなった。これを踏まえ、GDPRの施行に向けたガイドラインの策定等の関連政策が順次講じられている。

一般データ保護規則に関するガイドラインについては、2017年4月、各加盟国のデータ保護監督機関の代表者等により構成されるワーキンググループ「第29条作業部会(WP29)」が、ガイドラインの一部(データ・ポータビリティ、データ保護責任者、主たる監督機関)を最終採択した。さらに、同作業部会は2017年中に、データ保護影響評価、データ主体の同意、データ漏えい時の通知等の新たな関連ガイドラインを策定する予定である。

個人データの越境移転については、米国との間で「セーフハーバー協定」に代わる新たな枠組みに向けた交渉が行われ、2016年7月、欧州委員会は「プライバシーシールド」を採択し、2017年秋から年次レビューを実施することとしている。また、2017年1月、欧州委員会は個人データの国際流通に係る戦略的アプローチに関する政策文書を公表し、2017年に日本及び韓国を皮切りに、東アジア及び東南アジアの重要な貿易パートナーと十分性認定に向けた議論を積極的に行っていく旨の方針が示された。

また、同月、電気通信分野のプライバシー保護を目的とした「eプライバシー規則」案が欧州委員会によって提案された。本規則案は現行の「eプライバシー指令」を加盟国に直接適用される規則とすることによりEU域内の更なる制度的調和を図ること、通信の秘密等の適用対象を従来の通信事業者から同等サービスを提供するOTT事業者(WhatsApp、フェイスブック・メッセンジャー、スカイプ、Gmail等)にも拡大すること等が主な柱となっている。

データエコノミーについては、2017年1月、欧州委員会は、欧州データエコノミーの創出に向けた政策文書を公表し、不公正なデータローカライゼーションに対して適切な施策を講ずることやデータを巡る制度的課題(データへのアクセス及び移転、データ由来の製品・サービスに関する責任、データ・ポータビリティ等)について引き続き検討を行う旨の方針が示された。

ウ 国際ローミング料金撤廃及びネットワーク中立性に関する取組

EU域内の国際ローミング料金の撤廃及びネットワーク中立性(オープン・インターネット)に関する規則は、2015年10月に欧州議会で最終的に採択された。

ネットワーク中立性については、2016年8月30日、加盟国の電気通信規制機関の代表者で構成される「欧州電子通信規制者団体(BEREC)」がガイドラインを策定した。

EU域内の国際ローミング料金の撤廃については、2017年6月15日の施行に向けて、フェアユース(公正利用)ポリシー及び卸売ローミング料金等の詳細な制度整備が進められた。

フェアユースポリシーについては、加盟国間の通信料金格差を利用したローミングサービスの濫用防止を目的としており、2016年12月に欧州委員会によって最終的に採択された。ローミングのトラフィックが居住国のトラフィックを大きく超えているか、ローミングの恒常利用を目的としてSIMカードを大量購入しているか等の観点から事業者が監視を行い、濫用が認められた場合に卸売ローミング料金の上限を超えない範囲で料金を課すことができる。卸売ローミング料金については、その上限を設定するルールが、2017年2月に欧州委員会、欧州議会及びEU理事会の交渉担当者間で基本合意に至った。

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