総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > 我が国においてICT投資やICT人材育成が遅れた要因
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第4節 産業連関表によるICT投資等の効果検証

(2)我が国においてICT投資やICT人材育成が遅れた要因

我が国においてICT投資やICT人材育成が遅れた要因にはどのようなものが考えられるか。先行研究を基にすると、次の3つの点が挙げられる。

①情報化が価値創出につながることへの認識不足

②資金制約及びBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)市場が未成熟

③ICT投資等を行ったものの広義の投資(マクロ経済学の無形資産投資。組織改革や人的資本投資など)が不十分

1点目の情報化が価値創出につながることへの認識不足に関して、我が国企業はICTを効率化や費用削減の手段として考える傾向がある。IoTの導入状況と今後の導入予定をプロセス、プロダクトに分けて尋ねたところ、プロセスの方が高かったことや、後述の日本政策投資銀行の2016年の調査でもIoT投資の目的に「省力化や生産性向上」を挙げる割合が最も高かったことからもこうした傾向がうかがえる。

2点目の資金制約等に関して、Fukao, Ikeuchi、Kim, and Kwon(2015)では、海外の先行研究において規模の大きい企業や若い企業ほどICTを採用しやすいこと、日本では規模の小さい企業や社齢の高い企業が経済に占める割合が諸外国に比べて高いことに触れつつ、日本のデータを用いて企業の規模と社齢がICT投資とどのように関係していたかを調べている。結果、大企業ほどICTの活用が多いが社齢とICT活用との関係は明らかではなかったこと、企業規模と社齢によって生産関数が異なり、規模の小さな企業や若い企業ほどICTの限界生産力が高い、すなわちICT投入が最適水準よりも過小な水準にとどまっていることを指摘した上で、日本企業におけるICTの活用を妨げている障壁の存在を指摘している。障壁として、資金制約及びBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)市場が未成熟であることを挙げている。

3点目に関して、広義の投資(マクロ経済学の無形資産投資。組織改革や人的資本投資など)を示す指標の1つとして、TFP(Total Factor Productivity:全要素生産性)が挙げられる。先述の図表3-4-3-2を基に、日米のTFPの差をみると、特に1999年から2004年にかけて、年1%ポイント弱の差で我が国が低くなっていることからも、米国と比較し我が国では広義の投資が不十分であり、米国並みの経済成長を達成できなかったと考えられる。

広義の投資(マクロ経済学の無形資産投資)のあり方を考えるにあたっては、過去の歴史に学ぶことが有意義と考えられる。汎用技術(General Purpose Technology)の例として電力、自動車やコンピュータでは、技術の普及から遅れて社会の大きな変化が現れてきた17。見方を変えると、例えば第2次産業革命期における蒸気機関から電力へ、馬車から自動車へといった旧技術から新技術への転換期には、新旧の両技術が並存することに加え、他の設備、人材、業務フロー、組織など社会の様々なしくみに旧技術の影響が一定期間残るため、新技術のメリットを全面的に享受し大幅な生産性向上や経済成長を実現するまでに、十数年〜数世代の時間を要している。また、旧技術の衰退に伴い、一時的な経済の落ち込みや失業はあったが、その後中長期的には新技術から新たな産業や雇用が生まれている18。汎用技術(General Purpose Technology)は、初期段階においては必ずしも万人に受け入れられるものではなかったが、組織や社会の様々な仕組みを見直すことまで含め汎用技術を活用し、生産性を向上させられるか否かでそれ以後の地域や国の経済成長は明暗が分かれてきたことは重要な教訓と言える。新技術変化の時間軸に比べ、人的資源、組織体制、社会制度などの適応にはより長期を要することは歴史的事実といえるが、生産性を上昇させるべく人的資源、組織体制、社会制度などの適応を早める工夫は、IoT・AIの導入にあっても必要と考えられる。



17 篠﨑(2014)では、米国の19世紀末から20世紀にかけての第2次産業革命期における電力技術導入を取り上げたデービットの分析に言及し、1881年にニューヨーク中央発電所が建設されたが1899年時点で電気の普及率は製造業で5%、一般家庭で3%に過ぎず、普及率が5割を超えたのはさらに20年後、1920年代以降に米国の製造業のTFPが急上昇したことを引用した後、新旧技術の二重構造は人材育成や組織管理などの面で非効率となること、別の見方をすると一定の期間を経て旧技術から新技術への転換が完了したあかつきには、新技術導入による生産性上昇の効果が全面的に現れる旨述べている。

18 2017年時点で将来普及する新サービスを見通すことは難しいが、現在普及し一般的と考えられている技術・サービスの中には、登場初期には普及に時間を要しながらも、その後情報化と結びつくことで普及し生産性向上や新サービス創出に資している事例もあり、新需要の掘り起こしや情報化の意義という点で教訓となりうると考えられる。
ホンダでは、1981年に世界初のカーナビゲーションを導入、1998年にナビゲーションシステムとインターネットとを融合させ、2002年に双方向通信型のカーナビゲーション「インターナビ」のサービスを開始している。走行中の自動車の情報を集約することで、2017年現在ではドライバーのニーズに合わせた最適なルートの配信、事故多発地点の改善や災害時に通行可能な道路の把握等に活用している。
今後は、車の状況に応じたメンテナンスの最適化や自動運転の基盤技術としても活用が期待されている。
セコムは、1962年当時警備サービスという概念自体がまだ日本にない中日本初の警備会社として創業し、1966年には日本初のオンラインセキュリティシステムを開発した。これは契約先に設置したセンサーとコントローラーをセコムコントロールセンターと通信回線で結び、異常が発生した場合、緊急対処員が駆けつけるものである。それ以前の人的警備では多くの警備員が必要であり発展に限りがあったが、オンラインセキュリティシステムによりその後同社の事業規模は拡大し、2017年時点で対個人サービス業の企業の中で最大規模の時価総額となっている。

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