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第2部 基本データと政策動向
第7節 ICT国際戦略の推進

(5)ドイツのICT政策の動向

ドイツでは、「ものづくり立国」としての地位を再び取り戻し、国際競争力を確保するため、国全体でデジタル化を推進している。ドイツのデジタル化をいかにして実現するかは従来のICT戦略である「デジタルアジェンダ2014-2017」から一貫している課題である。

2017年3月の「CeBIT 2017」、4月にG20として初めて開催された情報通信大臣会合(デジタル大臣会合)でも、デジタル化がメインテーマに掲げられており、CeBIT 2017では、我が国との間でIoT/インダストリー4.0に関するサイバーセキュリティ、国際標準化、研究開発分野等での協力の枠組を定めた「ハノーバー宣言」が署名された。

ドイツのデジタル化を進めていくうえで重要となる施策のひとつがデジタル・インフラの全国整備である。政府が推進する一連のデジタル化に関する施策では、デジタル・インフラ整備の加速化に重点が置かれており、デジタルアジェンダでは2018年までにドイツ全土で50Mbpsの高速ブロードバンド網を提供するとしていたが、2016年3月に策定された「デジタル戦略2025」では、その目標が、2025年末までにギガビット級の光ファイバ回線網の全国整備へと上方修正されている。

ドイツのデジタル化は、ドイツを代表するBMWやフォルクスワーゲン、ボッシュ、シーメンスなどの大手企業だけのものではなく、ドイツ経済の発展を支えてきた「ミッテルスタンド」と呼ばれる中小企業にも支援の目を向けているところが特徴である。これは、ドイツが国全体として発展するには、企業数で約99%を占めている中小企業をデジタル化の波に取り込むことが必要不可欠と考えているからである。

ア CeBIT 2017

30年以上の長い歴史を有し、毎年ドイツのハノーバーで開催されている世界最大の国際情報通信技術見本市「CeBIT」は、ドイツを代表する大手ICT企業やドイツ経済の発展を支えてきた中小企業が、自らの技術やアイディアを世界市場に向けて発信する機会としても重要視されている。近年のCeBITは、デジタル化にいかに対応するかが同国の産官学を挙げた課題であることを反映し、そのトップテーマのキーワードとして「デジタル化」を標榜している。

2017年3月20日から24日までの間開催されたCeBIT2017のトップテーマは「d!conomy(デジタル化とエコノミーをつなげた造語)− no limits」であり、これには、デジタル化の波が経済・社会のあらゆる分野に浸透し、単なる一時的な現象ではなく、長期かつ継続的に経済・社会のあり方を変革する力を持っているという意味が込められている。

CeBIT 2017においては、IoT/インダストリー4.0に関する日独協力の枠組を定めた「ハノーバー宣言」が署名された。ものづくり立国、技術立国という点が我が国と共通するドイツは、2015年3月の日独首脳会談を機に、IoT/インダストリー4.0の推進に関して協力関係を深化させており、2016年4月には日本の経済産業省とドイツの連邦経済エネルギー省(BMWi)の間で「IoT/インダストリー4.0協力に関する共同声明」に署名していた。

この共同声明では、「産業向けサイバーセキュリティ」、「国際標準化」、「規制改革」、「中小企業支援」、「人財育成」、「研究開発」の6項目について、民間企業・団体の参加を得て両国間で連携していくというものであったが、「ハノーバー宣言」は、次官級で締結された共同声明を、総務省が参画する閣僚級のものへと拡大するものであり、新たに「プラットフォーム」、「自動車産業」、「情報通信分野の協力」を加えた以下の9項目について相互の協力を進める内容となっている。

① IoT/インダストリー4.0に関するサイバーセキュリティ:サイバーセキュリティ関連の国際標準化に向けた議論を加速。専門家によるサイバー攻撃対策のベストプラクティス知見の共有。

② 国際標準化:IoT/インダストリー4.0に関する横断的モデルを2017年1月に日本からIECに提案し、国際標準化機関(ISO、ITU)において、日独でこの分野の標準づくりの議論を先導。

③ 規制改革:2016年のG7情報通信大臣会合で合意されたデータ流通原則の促進、OECDを活用したデータ流通原則の効果測定に関する協力。

④ 中小企業支援:日独のIoT活用に秀でた中小企業の相互訪問・知見の共有の継続。日独の中小IoT企業連携を両国政府が資金面で支援。

⑤ 研究開発:産業技術総合研究所、情報通信研究機構(NICT)が、ドイツの人口知能研究所(DFKI)と人工知能分野における研究協力覚書(MOU)を締結。日独企業間の共同研究開発を両国政府が資金面で支援。

⑥ プラットフォーム:民間のIoT/インダストリー4.0の推進団体間の協力を強化。

⑦ デジタル人材育成:ものづくりを中心とした既存従業員のデジタルスキルの習得・スキル転換に向けた政策連携を実施。

⑧ 自動車産業:自動車産業政策に関する協議の実施。充電インフラ、自動運転、コネクテッドカーなどの議論を開始。

⑨ 情報通信分野の協力:日独ICT政策対話の継続。

イ G20デジタル大臣会合

2017年にG20の議長国を務めるドイツは、世界経済がより力強く、持続可能かつバランスのとれた、インクルーシブ(包括的)な成長を遂げるには、デジタル化が大きな要因となるとの観点から、「デジタル・トランスフォーメーション」に着目している。ドイツは、G20の18年の歴史の中で初めて情報通信分野の閣僚会合の開催を宣言し、2017年4月、G20情報通信大臣会合(デジタル大臣会合)を開催した。会合のメインテーマは「Digitalisation: Policies for a Digital Future」であり、透明性、法的確実性、インターネットにおける公正な競争枠組み、個人情報保護、インダストリー4.0の標準化などについて議論が行われた。

会合の結果、デジタル化によりもたらされる機会を活用するためにG20各国が協力して取り組むべき事項について大臣宣言がまとめられ、主に以下の点の重要性が確認された。

① グローバルなデジタル化―包摂的成長と雇用のためのポテンシャルの活用

包摂的な成長のためにデジタルディバイドの解消を目指し、2020年までに新たに15億人をインターネットに接続する目標を確認。法制度環境の整備により民間によるインフラ投資を促進するとともに、革新的なビジネスモデルや新たな通信技術の普及を支援し、成長を後押し。

② 成長のための製造のデジタル化

知識・ベストプラクティスの共有を通じて製造のデジタル化を促進するとともに、オープンで透明な標準を支持。

③ デジタル世界における信頼の強化

情報の自由な流通を促進するとともに、プライバシー、個人情報保護を尊重し、セキュリティの強化を推進。オンライン上の消費者保護の問題に取り組む。

ウ デジタル戦略2025

連邦経済エネルギー省(BMWi)のツィプリス大臣は、2017年3月、前述のCeBIT 2017のオープニングスピーチで、連邦政府が2016年3月に策定した「デジタル戦略2025」を発表した。

同戦略は、2025年までにドイツがいかにしてデジタル化を具体化していくか取り組むべき10の施策について提案している。具体的には、ギガビットネットワーク網を2025年までに整備するための100億ユーロ規模のファンド設立、中小企業のデジタル化を支援するための2018年までの10億ユーロの投資、新興企業の資金調達の容易化のための新たな支援基金の設立・ベンチャー投資への優遇措置・起業支援情報ポータルサイトの立ち上げといったイノベーション環境の構築、さらにはデジタル教育戦略など多岐にわたっている。

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