総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > 第4章まとめ
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第4節 広がるICT利活用の可能性

第4章まとめ

本章の第1節から第3節では、人口減少社会における生産力低下と地域経済縮小という社会的課題に対し、ICTを活用した「働き方改革」や「地方創生」といった解決策が効果を発揮することを中心に述べてきた。

まず「働き方改革」について、テレワーク導入企業では、離職者減と就業者増加を通じた労働参加率の向上が見られるだけでなく、労働生産性の向上も見られることが分かった。一方、ICT投資を行っている企業群は、労働生産性の向上を主たる目的としていることが多いが、雇用と売上高の増加でも効果が見られた。

AIを導入している企業の割合は未だ少ないものの、企業の間で人手不足が深刻化する中でAIの活用を前向きに捉えている企業は多く、今後労働生産性向上策の一環として浸透していくことが見込まれる。

次に「地方創生」について、交流人口の増加策として期待の強まる観光振興策では、公衆無線LAN整備や訪日外国人観光客向け情報発信等の観光振興策を行っている地方自治体においては、外国人観光客の増加という形で成果が得られていることが分かった。さらに観光は、地方での雇用創出効果も見込める分野だ。他の分野においても、ICT利活用と交流人口と定住人口の増加という好循環が続いていくことが期待される。

地球規模でインターネットと携帯電話に代表されるICTインフラが広がりつつある。両方の機能を果たせるスマートフォンの普及で、デジタルディバイドが縮小していくことが期待される。地上デジタル放送に代表されるICTインフラと、ICT利活用の進む我が国の経験は、海外で展開すれば大いに役立つ可能性があることを第4節で示した。

さらに人口動態を見ても、高齢化人口の増加は全世界的な趨勢ではあるものの、我が国と経済規模の近い先進国とは異なり、中南米や東南アジア諸国が我が国の同様の高齢化の状況に至るのは50年以上先のことだ(図表4-4-2-8)。視点を変えると、「課題先進国」としての日本の経験を海外に展開できる余地は大きいともいえる。

図表4-4-2-8 各国における高齢化率(65歳以上人口の推移)
(出典)UN, World Population Prospects:The 2015 Revision

我が国のICT利活用による社会的課題解決の経験は、質の高いICTインフラの海外展開と組み合わせたパッケージ展開により世界各国それぞれの社会情勢に合わせたICTの海外展開を図ることで、国際貢献に役立つものとなることが期待される。

コラムSOHMO 5 働き方改革のキーソリューションとして注目されるテレワーク

2017年3月28日、「働き方改革実行計画」が公表された。働き方実現会議1の中で、安部晋三内閣総理大臣は実行計画の策定について、「日本の働き方を変える改革にとって歴史的な一歩」、「2017年が日本の働き方が変わった出発点として、間違いなく記憶されるだろう」と述べている。

実行計画では、日本型労働慣行の打破に向け、柔軟な働き方や女性・若者支援、仕事との両立を含む9分野での取組を掲げている。子育てや介護と仕事の両立を可能とする手段として、今改めてテレワークに注目が集まっている。

官民で盛り上げたテレワーク月間

総務省、厚生労働省、経済産業省及び国土交通省の4省のほか、テレワークを推進する民間団体・企業が連携して、「テレワーク推進フォーラム」を形成し、様々な活動を行っているが、2016年11月のテレワーク月間には、当フォーラムが中心となって、関連イベントを集中開催した。同月間サイトに登録された活動の数は、前年の39件から592件へと15倍となり、テレワークへの関心の強まりが如実に現れた。

〈テレワーク推進企業ネットワークの発足を祝う高市総務大臣と橋本厚生労働副大臣〉

総務省では、2015年以来「テレワーク先駆者」に当たる企業・団体を公表するとともに、その中でもテレワークの導入・活用に顕著な実績がある企業・団体を「テレワーク先駆者百選」に選定する取組を進めている。さらに、2016年度には特に優れた取組を表彰する「総務大臣賞」を新設し、サイボウズ、ブイキューブ、明治安田生命保険相互会社、ヤフーの4社が初の受賞者となった。2016年11月28日、テレワーク月間の締めくくりとなる「『働く、が変わる』テレワークイベント」においてその表彰式が行われ、高市総務大臣から4社に表彰状等が授与された。

〈高市総務大臣と総務大臣賞受賞者〉

この受賞4社に共通しているのは、各社の全組織・全職種の社員をテレワーク対象者としていることで、テレワークが一部の社員による実験的な取組にはとどまらない。例えばサイボウズでは、事前の申請・承認があれば誰でも在宅勤務を行えるだけでなく、子供の病気などによる突発的な在宅勤務を「ウルトラワーク」と名付け、当日の連絡で実施可能にしている。明治安田生命では、以前から営業職のモバイルワークを導入していたが、そのノウハウを生かして段階的にテレワーク対象者を全社員へと拡大した。まず管理職からトライアルを先行実施して管理監督者の意識改革を図る。次に、テレワーク実施者の意見を汲み入れて運営の改善を図るという試行段階を経て、円滑な本格的導入を実現した。

もう一点、4社に共通しているのは、テレワークの本格導入が社員のワークライフバランスの改善だけでなく、企業側のメリットや成果にも結びついていることである。サイボウズやブイキューブでは、家族の介護や夫の転勤のため地方に移住する社員をテレワークで継続雇用し、人材とノウハウの確保につなげている。明治安田生命では、移動時間の削減や空き時間の有効活用により、テレワーク利用者の8割が「業務が効率化した」と評価したという。

こうしたテレワーク先駆者のノウハウや成果は、これからテレワークを推進する企業にとって大変貴重な情報である。そこで、前出「テレワーク先駆者百選」と厚生労働大臣「輝くテレワーク」参加企業の中から62団体が参加する「テレワーク推進企業ネットワーク」が新たに発足した。参加企業が集まり、労務管理手法やセキュリティ対策、効果評価手法といったテレワークの実現ノウハウを積極的に情報発信することで、テレワーク拡大を加速するプラットフォームとなることが期待される。

ついに到来したテレワーク本格導入の時代

テレワーク自体は実は新しい概念ではなく、情報通信が実現する新しい働き方として1990年頃から取り組まれてきた長い歴史を持つ。その取組を長年にわたって推進してきたのが一般社団法人日本テレワーク協会(以下「JTA」。設立時の名称は「日本サテライトオフィス協会」)である。現在、220を超える企業・団体が加盟する同協会は、テレワークに関する普及啓発、会員企業とコラボレートしたテレワークの実践推進等に20年以上取り組んできた。

JTAの熱心な活動にもかかわらず、テレワークはなかなか働き方のメインストリームとはならなかったが、ここへ来てJTAをとりまく環境は一変しようとしている。2017年2月に開催された「第4回JTAトップフォーラム」では、テレワークを本格的に推進する企業や「テレワーク推進賞」の受賞の事例発表、そしてパネルディスカッションが行われ、企業の活発なテレワーク導入の状況と成果が報告された。

2016年度の第17回テレワーク推進賞で会長賞を受賞した日本航空をはじめ、トップフォーラムで活動報告のあった企業の取組で目立ったのは、テレワークとフレックスタイム制を組み合わせ、働く時間と場所の両方の自由度を高める取組である。

日本航空は、日ごとに個人単位で勤務時間を決められる勤務時間帯選択制度、フレックス勤務制度、そして社員4,000人を対象に導入した在宅勤務制度を組み合わせて、社員一人ひとりの事情に合わせた勤務を可能にしている。富士ゼロックスでは営業・SE職を対象に、モバイルPCを使ったリモートワークにフレックスタイムを適用し、柔軟に勤務できるようにしている。特に育児・介護ニーズがある社員向けの在宅勤務では、コアタイムを設けないという徹底ぶりである。

このように時間と場所の両方で働き方の自由度を高める取組が各社で進んでいるのは、子育てや介護と就業の両立など、この両方をフレキシブルにしないと克服できない切実な生活課題を持つ働き手が増えているからだ。人手不足が深刻化する中、「誰もが活躍できる職場づくり」は働き手にとっても企業にとっても、重要度の高いテーマになっている。

〈JTAトップフォーラムで挨拶を行うあかま総務副大臣〉

テレワークは生産性を向上させる「働き方改革」のキーソリューション

テレワーク導入が働き手のライフワークバランスの改善に結びつくのは言うまでもないが、企業にとってはテレワークで生産性にどのような影響が出るのかが気になるところだ。JTAトップフォーラムのパネルディスカッションでもテレワークの生産性がメインテーマとなり、テレワーク導入の結果、生産性が向上したという興味深いデータがいくつも示された。

例えば、損保ジャパン日本興亜が行った社内調査の結果によれば、テレワーク未実施者の就業時間の平均を100とすると、テレワーク実施者は85の時間で業務品質を落とすことなく業務をこなすことができているという。日産自動車では、毎年全社員に在宅アンケートを行っているが、最新結果によると、本人の業務アウトプットが「向上した」との回答が4割以上、「変わらない」も含めると全回答の98%であった。また、在宅勤務者がいるチームは、通常よりも「チームのアウトプットが向上した」との回答が13%であり、本人のみならず、組織の生産性向上にも寄与しているという。興味深いのは「向上した」との回答が年々増加している点で、組織がテレワークに習熟することにより継続的に生産性が向上することが示唆されている。

パネリストからのこれらの情報提供を踏まえて、トップフォーラムのパネルディスカッションでは「テレワークによる効果がいよいよ出始めた」ということが強調された。前項で明治安田生命のテレワーク利用者の多くが生産性の向上を感じていることを紹介したが、適切な環境やルールのもとでのテレワークであれば、実はオフィス勤務より業務効率が上がるケースはかなり多いと言えよう。

テレワークが生産性を向上させることは、2016年通信利用動向調査でも裏打ちされている。テレワークの効果については導入企業の86.2%が「非常に効果があった」または「ある程度効果があった」と回答している。テレワークが企業にメリットをもたらすのは、一部の最先進企業に限られない。

2017年7月24日、2020年までの毎年、東京五輪開会式開催日である7月24日を「テレワーク・デイ」と定め、同日に政府2やJTAが企業等に一斉のテレワーク実施を呼びかける取組が、前出の「テレワーク推進企業ネットワーク」等の協力の下で開始された34。東京都でも、7月上中旬の一定期間中、テレワークのほかオフピーク通勤やフレックスタイム制度の導入を企業等に推奨する「快適通勤ムーブメント」を開始している5

冒頭で述べた働き方実行計画について、その内容のPDCAサイクルを回しながら実施するための「働き方改革フォローアップ会合」が設置される。企業にも働き手にも様々なメリットをもたらすテレワークは、「働き方改革」のまさにキーソリューションであり、その導入状況はフォローアップの対象となるだろう。育児や介護と仕事との両立が社会的要請となっている今日、官民双方の取組をさらに進めてテレワーク普及を加速し、その恩恵をできるだけ早く、幅広く浸透させることが強く望まれる。



※「コラムSOHMO(草莽)」では、情報リテラシー向上やICT利活用推進に取り組んでいる民間団体の活動を紹介しています。



1 働き方改革の実現を目的とする実行計画の策定等に係る審議に資するため、2016年9月に安部総理大臣を議長として首相官邸に設置された。

2 総務省、経済産業省、厚生労働省、国土交通省、内閣官房、内閣府

3 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000171.html別ウィンドウで開きます

4 2012年のロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会期間中の市内通勤に支障が生じるとの懸念から、市交通局がテレワークによる通勤混雑回避を呼びかけた運動を参考としている。

5 https://jisa-biz.tokyo別ウィンドウで開きます

テキスト形式のファイルはこちら

ページトップへ戻る