総務省トップ > 政策 > 白書 > 29年版 > データ流通・活用のインパクト
第1部 特集 データ主導経済と社会変革
第5節 第4次産業革命の総合分析

(2)データ流通・活用のインパクト

デジタルデータには以下の特徴が存在する。

・複製が容易(非排除性、非競合性)

・伝達が瞬時に可能であり限界費用ほぼゼロ

第3次産業革命後、情報化社会においてもデジタルデータは一定程度活用されてきた。では、第4次産業革命(Society5.0)におけるデータ流通の特徴はどのようなものだろうか。

考えられる要素として、スマートフォンの普及、各種センサーの普及、コンピューターの処理能力の指数関数的向上(AI含む)、質量ともにデータの流通や蓄積が増加していることなどが挙げられる。

サイバーセキュリティの確保は前提となるが、データの量・種類の増大により組合せや連携の可能性が増し、価値創出や課題解決の可能性も増していると考えられる。

データ分析やAIの古くて新しい問題として、どの変数(特徴量)を分析に用いるかということがある。ディープラーニングに見られるように特徴量自体をコンピューターが見つけ出す技術も出つつあるが、大量のデータや計算を要することから適用領域は限られている。他方、特徴量自体は人間が選ぶ必要がある機械学習の技術の範疇であるが、2016年から17年にかけ、従来、データサイエンティストが数ヶ月を必要としていた分析が数時間でできるようになる例もあると関係者に注目されているのが、米国のベンチャー企業、DataRobot社が提供するDataRobotという分析ソフトである。特徴量の候補は人間が入力する必要があるが、どの特徴量が有効かをDataRobotが判断するものであり、従来データサイエンティストが行っていた試行錯誤の多くが機械に代替され、分析期間の短縮化や分析対象の拡大が期待されている。

データ利用の適用の拡大例として、熟練労働者の退職、人手不足、IoT・AIの進化を背景に、熟練労働者のノウハウをデータ化し活用する動きもみられる。新日鐵住金株式会社では、1968年から多種多様な鋼材の生産管理に情報システムやデータ分析を活用している。鉄鋼の生産は、高炉で鉄を溶かし、転炉で鋼材の成分を決め、その後鋳造や圧延の工程を経て、製品に加工するという流れである。各プロセスにおいてセンサーを設置しデータを集め分析を行っており、特に生産性に大きく影響するのが鉄の性質を決定する転炉とそれを連続的に固めて所定の長さに切断する連続鋳造の生産計画である。転炉はその性質上大型で一度に200トン以上もの鉄を扱うが一度に1種類の性質の鉄しか作れない制約がある。一方で顧客の注文は多種多様で要求される重量や希望納期も異なることから、どの顧客のどの注文をまとめて製造するかが生産性を大きく左右してきた。従来は、情報システムやデータ分析も活用しつつ、現場のオペレータが生産計画を立てていた。ベテランオペレータの退職が見込まれることに伴い、2015年からベテランオペレータが立てた過去の計画実績をコンピュータが学習してベテランオペレータの知見を抽出し、それに基づき生産計画を立案し、これをベテランオペレータがチェックし必要に応じて修正するという姿を目指して取組を行っている。

データやデータの活用に関する変化が、経済成長や社会の変革に与える影響を考えると、供給側、需要側のそれぞれに加え、供給と需要とのマッチングを個々にかつリアルタイムで行うことにより、生産性向上、従来になかったようなリソースの有効活用及び新サービスの創出が起こる可能性が考えられる(図表3-5-1-7)。

図表3-5-1-7 データ活用による供給力需要力の更なる強化
(出典)総務省「IoT時代におけるICT経済の諸課題に関する調査研究」(平成29年)

供給と需要とのマッチングをうまく行うことの効果が大きいと考えられるのが、広義のサービス産業である。

世界的に多くの国において第3次産業のシェアが上昇し、経済のサービス化が進みつつある。見方を変えると経済成長を果たすには、大きなシェアを占める広義のサービス産業の生産性を向上させる必要がある。

サービスの性質を考えると多くは無形であり、供給と需要とを同時かつ同じ場所にマッチングさせるにあたり、デジタルデータが果たす役割は大きいと考えられる。

供給と需要とのマッチングの高度化やこれに伴う生産性の向上は今後進展が期待されるが、萌芽の具現化及び今後の方向性を示唆している事例と考えられるのが、コミュニケーションアプリをマーケティングに活用している例(第1章参照)及びNTTドコモが2016年12月から2017年3月まで行ったAIタクシー実証である。

AIタクシーは、NTTドコモ、タクシー会社の東京無線、富士通テンが東京23区、武蔵野市及び三鷹市を対象に実施したもので、NTTドコモの携帯電話ネットワークの仕組みを利用して作成される人口統計、タクシー4,425台の運行データ、気象情報、どこにどのような施設があるかなどのデータを基に、30分後までの500mメッシュ毎のタクシー乗車台数を10分毎に予測するものである。予測値が実績値±20%以内となった割合は92.9%となっている。このシステムを用いると、タクシードライバーは30分後に高需要と予測されたエリアに向かうことで収益機会を拡大できるほか、乗客にとっても待ち時間が減少するメリットがある。

乗務員1人あたりの1日あたりの売り上げを、東京無線のドライバー平均と実証実験に参加したドライバー平均とで比べると、前者に比べ後者はフィールド実証期間の四か月連続で効果が出ており、平均すると1人1日あたり1,409円増加させる効果があったとのことである。

2017年時点では、AIタクシーはタクシーの需要予測のみであるが、NTTドコモによると、他の交通機関への応用や、利用者への通知や価格変化を通じた需要側も含めた最適化、自動運転への応用も視野に入れているとのことであり、今後の進展が期待される。

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